2018年2月16日に企業会計基準委員会から、改正後の税効果会計に関する会計基準が公表されました。税効果会計自体は難しいと言われる勘定科目ですが、今回の税効果会計の改正内容や改正の背景、どんな影響があるかにつき簡潔に解説していきます。
税効果会計に関する会計基準は一つだけでなく、複数の基準や実務指針に分かれています。今回の改正の範囲は、税効果会計に関する基準の中でも下記が対象となっています。
・企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」
・企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」
・改正企業会計基準適用指針26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」
・企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」
2018年4月1日以降に開始する事業年度から原則適用となります。そのため、現在目にする新しい有価証券報告書ではこの税効果会計の改正がすでに適用された状態となっています。なお、税効果会計はその複雑性から非上場の中小企業などは、税効果会計の適用は強制されていません。もちろん、正しい財務諸表を作成するという観点からは、中小企業といえども適用することが望ましいのは変わりません。
今回の改正内容のうち、会計処理に関するものは2点あります。
1.個別財務諸表における子会社株式、関連会社株式の将来減算一時差異の処理
2.分類1に該当する企業の繰延税金資産の回収可能性の取扱
それぞれ内容を確認していきましょう。
従来の取扱は、個別財務諸表において子会社株式、関連会社株式の将来減算一時差異は【一律で繰延税金負債を計上する】という基準となっていました。今回の改正で、【投資の売却 などを会社自身で決められ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上する】と変更になりました。以前は個別財務諸表と連結財務諸表において取扱が異なっていましたが、連結財務諸表の取扱に統一させることが目的とされます。
分類1に該当する企業とは、過去3年間将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じており、経営環境等に著しい変化がなく安定している企業のことを言います。分類1に該当する企業は、改正前は繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする、とされてきました。今回の改正で、【原則として】繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする、と【原則として】という文言が追加されました。分類1に該当してはいるものの、完全支配関係にある子会社株式の評価損について売却などせず継続保有し続ける場合、将来減算一時差異がいつ解消するのかのスケジューリングが不能となります。この事例のように繰延税金資産の回収可能性がないと判定される場合もあり得ることが反映された改正となっています。
続いて開示に関して今回変更された点を説明します。開示に関する改正は下記の2点あります。
1.表示について
2.注記事項について
それぞれ内容を確認していきましょう。
今までは繰延税金資産、繰延税金負債ともに長短分類がなされていました。すなわち、繰延税金資産は流動資産、投資その他の資産に区分、繰延税金負債は流動負債、固定負債の区分に表示されていました。しかし今回の改正で、繰延税金資産はその他の資産、繰延税金負債は固定負債へと表示区分が統一されました。以前までは長短分類があるおかえで全体として繰延税金資産、負債がいくらあるのかが分かりづらかったですが、今回の改正ですっきりとした表示区分へと変更されました。
今回の改正にて税効果会計の注記に関して、下記の点を注記するように変更されました。
・評価性引当額の内訳の定量情報、定性情報
・繰越欠損金の内訳の定量情報、定性情報
繰延税金資産の発生要因別の主な内訳は以前から記載が必要でした。その記載の中で、評価性引当額と繰越欠損金に関して、金額が重要である場合は別途の注記が必要である旨、改正されました。投資家からの立場で考えると、繰延税金資産の回収可能性は気になる論点の一つであり、今回の改正にて注記事項が増えたことは、望ましいものだったと思われます。
以上が、2018年2月16日の税効果会計の改正点となります。税効果会計は会計だけでなく税務の知識も必要な処理であるため理解が難しい勘定科目です。今後も、投資家への情報提供のアップデートのため、税効果会計の改正がなされる可能性がありますが、きちんとキャッチアップしていくようにしましょう。