のれんは別の記事で書いた通りブランドや企業の超過収益力を表します。では、こののれんはどのような会計基準に基づいて処理されるのでしょうか。
今回はのれんの会計基準と、実務で悩みやすい点について解説します。
のれんは、主に買収時の相手企業の時価純資産と買収価額の差額を固定資産に計上し、20年以内の一定の期間で償却を行っていきます。
こののれんの根拠については、「企業結合に関する会計基準」と「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」に記載されています。具体的には、企業結合に関する会計基準第31項以降にのれんについて詳細に記載されていますが、実務ではほとんど後者の適用指針を参照することが多いです。
特にのれんが発生するということは買収や合併等組織再編を伴っているものですので、のれん以外にも色々な論点が出てきて正直ベテラン会計士でも悩むことが多いです。そんな時は、適用指針を読むことも大事ですが、設例で近い会計処理を探して自社に当てはめていくという作業が重要となります。
のれんは20年以内の任意の償却期間で償却されますが、元々が超過収益力を資産として計上している為、超過収益力が無くなった時点で減損処理をしなければなりません。
具体的には、今までのれんの償却費は販売費及び一般管理費で処理していたものが、超過収益力が無いとみなされる部分について特別損失で一気に計上しなければなりません。
こののれんの減損については明確な規程があるわけではないのですが、基本的に「固定資産の減損に係る会計基準」と「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」を参照して行われます。
減損処理に関して詳しく知りたい方は、下記記事で税理士が解説!
よって、他の固定資産と考え方は似ていて、例えばのれんを計上している子会社が2期連続赤字になった場合や、当初の計画を大きく外れた赤字を計上している場合などに減損の兆候があるとして、場合によっては減損処理をしなければなりません。のれんは一旦現存してしまうと戻入処理を行うことができないため、赤字の子会社等は特に注意して減損処理の必要性を考える必要があります。
最近のれんの会計処理でよく話題に出るのが、PPA(Purchase Price Allocation)という、取得原価の再配分というものです。
例えば買収先の時価純資産が5億円、買収価額が6億円だったとすると、差額の1億円がのれんとして貸借対照表に計上されることとなります。ただ、この1億円の根拠が企業が持つ無形資産等であればその1億円のうち無形固定資産に該当する部分を抜き出して、処理をすることとなります。
これは、のれんとして処理をすると最長20年で償却処理されますが、無形固定資産で処理をすると、例えば5年で償却されることとなります。
なんでもかんでものれんに計上することで20年の償却されるのはあまりにも長すぎるということで、このように他の資産に配分される資産がある場合は積極的に配分されることとなります。
PPAは主観が入りやすい為誰が評価しても良いわけではなく、監査法人または能力の高い公認会計士に依頼することが求められます。
日本基準から国際会計基準に移行したいという企業の一番の理由が「日本基準ではのれんを償却しなければいけないけど、国際会計基準では償却しなくても良いのでしょ?損益が向上するから国際会計基準にしたいんだけど」というものです。
この話は半分合っていて半分間違っています。
確かに、国際会計基準に移行している企業の多くはグローバル企業で国内だけではなく海外の会社も積極的に大型買収をしています。こののれんの償却がなくなるだけでかなりの収益改善となります。
一方で、国際会計基準に移行すると先ほどお話したような減損会計の適用とは別に、毎期減損テストというものを行って、もしも超過収益力が無いとみなされれば即座に償却しなければなりません。また、日本基準では特別損失扱いですが、国際会計基準では原則特別損益項目が無くなるので、通常の営業利益にダイレクトに影響します。
また、国際会計基準は相応のスキルが求められるため、経理人員の増員や外部のコンサルタントとの契約等、様々な間接コストがかかることが想定されます。よって、国際会計基準にしたのはいいけれど、結果として利益が落ち込んでしまったということも考えられます。
のれんの会計処理は、のれんそのものだけではなく、企業結合会計という複雑な会計処理が必要となります。まず、その組織再編がどのような会計処理になるかを企業結合の実務指針を参照して決定し、その後のれんの評価をどのようにするかを考えることとなります。
のれんはベテランの公認会計士でも頭を悩ませる分野でもあるので、必ずのれんを担当する場合は事前に公認会計士に確認をする癖をつけておきましょう。