税理士試験の受験生の皆さんこんにちは。税理士の井上幹康です。私は働きながら4回の受験で税理士試験5科目に合格しました。
中でも簿記論は独学で勉強し、2回目の受験で合格しました。今回は、そんな私自身の実体験も踏まえて独学で合格した簿記論の勉強法や各種疑問点等について解説していきます。
まず、いきなり私の勉強法についてご紹介する前に、私が簿記論を独学で合格するまでの道のり(前提)を以下簡単にご紹介します。というのも、税理士試験受験生は専門学校を活用する方が大多数ですが、私と同じように何らかの事情で簿記論や財務諸表論は独学でやる方も少数ではありますがいらっしゃいます。
自身と置かれている環境が全く異なる方の勉強法だとあまり参考にならないばかりか、マネするとかえってよくない場合もあり得ますので、以下私の記事を読む際にもご注意ください。
まず、簿記論という科目は、文章で論ずる問題は出題されず、計算オンリーの科目です。
問題は大問3つで構成されています。特に第3問の総合問題が量・質ともにヘビーで私と同じように簿記論があまり得意ではない方はこの第3問に苦手意識をもっている方が多いと思います。
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私自身は、上記のとおり税理士試験を受験する前に日商1級に合格しています。いきなり税理士試験を受験するのではなく、日商1級をはじめに受験した理由は、税理士試験の受験資格として日商1級(又は全経上級)を合格する必要があったためです。
税理士試験の受験資格は日商1級以外にも複数あるので、すでに受験資格をお持ちであればあえて日商1級を受験する必要性は小さくなりますが、私自身は税理士試験の受験資格としてだけでなくはじめに日商1級を勉強しておいてよかったと思います。
税理士試験の簿記論と財務諸表論を独学でやろうとする場合、まずは市販の問題集等を購入して勉強し始めると思いますが、学習分量も多く、難しい論点や苦手な論点で手が止まって挫折してしまうリスクが大きいと思います。
一方で、日商簿記検定は3級、2級、1級と学習の習熟度に応じて級が設定されていますので、まずは日商3級から独学で始め、2級、1級と段階的に合格していくことで1つ1つが成功体験となり、知らず知らずのうちに税理士試験の簿記論と財務諸表論の合格に必要な基礎力が身につきます。
日商1級で出題される工業簿記や原価計算は税理士試験の簿記論の範囲には含まれていませんので、日商1級まで勉強するのは時間の無駄と思われている受験生も多いかと思いますが、税理士になった後、製造業のお客様がいる場合は原価計算の知識は非常に役立ちますので私は日商1級までやっておいて決して損ではなかったと思っています。
なお、私が受験生の時代は日商2級の試験範囲に連結会計が含まれていなかったため、日商2級と日商1級の差が激しかったですが、今は日商2級で連結会計が一部含まれており、2級のレベルが昔に比べて上がっています。ですので、すでに税理士試験の受験資格をお持ちの方が独学で簿記論の勉強をする場合は、まず日商2級合格を目指し、その後に簿記論の勉強にシフトする方法でもよいと思います。
また、独学で勉強を進めるには、やはり勉強の進捗を管理するペースメーカー的なものが必要です。特に税理士試験のように1年に1回しかない試験の場合は勉強も長丁場になり、途中で自分を見失いがちになります。私はというと、毎月定期的に発売されている会計人コース(中央経済社)を購入し、ペースメーカー的に使用していました。
簿記論を独学で勉強する場合、使用する問題集やテキストを自分で準備する必要があります。今は私が受験生の時代に比べて市販の問題集等が充実していますので、勉強に必要な問題集が調達できないということはないと思います。
税理士試験簿記論の市販問題集の出版社としてはTAC、大原、ネットスクールあたりが代表的ですが、まずこれらのうちどこか1社の問題集・テキストで一通り勉強し、余力があれば別の出版社の問題集もやるという方がよいと思います。参考までに、私自身は、日商1級、簿記論ともにTACの問題集等で一通り基礎を学び、そのうえで公認会計士試験の市販問題集等も使っていました。
よく簿記論と財務諸表論は一緒に勉強するとよいといわれています。確かに会計科目というくくりでは簿記論と財務諸表論(特に計算問題の部分)は密接に結びついていますので同時学習することによる相乗効果は期待できると思います。具体的には、簿記論では期中取引の会計処理や期末の決算整理仕訳等が出題され、財務諸表論の計算問題では決戦整理+財務諸表の開示に関する問題が出題されますので、簿記論と財務諸表論は密接に結びついているというわけです。私自身も簿記論と財務諸表論は同時学習していました。
ただし、社会人受験生が1年で勉強できる科目数としては個人的には2科目が限界だと思いますので、仕事等の都合で2科目同時学習するのが厳しい方はあえて財務諸表論も一緒にやる必要はないと思います。
特に財務諸表論では理論問題が出題され、会計基準等の暗記が必要になりますが、この暗記作業が苦手な方は簿記論1科目に絞る方がよいし、逆に暗記作業が得意な方は財務諸表論も一緒に勉強してもよいと思います。
上記のとおり、簿記論と財務諸表論を同時学習される方は多いですが、簿記論と法人税法を同時学習する方は少ないと思います。
私は、税理士試験初受験で財務諸表論合格、簿記論不合格(A判定)でした。これを受け、9月から勉強していた法人税法に加えて簿記論の復習もやることになりました。とはいえ、勉強時間の比率でいうと法人税法9割に対して簿記論は1割くらいでした。簿記論は土日に2時間の答練を2問くらいやり最低限今の実力を維持する程度が限界でした。他の科目の勉強をする時間が取れないくらい法人税法はインプット量が多い科目であるというのを身をもって体験しました。
ですので、もし簿記論と法人税法を同時学習するという方は、少なくとも簿記論については不合格でもA判定レベル(現在の採点基準でいうと59点~50点)でないと法人税法との同時学習は難しいと思います。
過去問を解き始める時期としては、一般的には直前期(5月~7月)からという方が多いのではないかと思いますが、私は3月くらい少しずつでも過去問を眺めて解ける部分は解いていました。
解ける部分は解くとは、簿記論は大問3つで構成されていますので、第1問だけやるとか第3問だけやるといった具合にバラシて解くイメージです。また、ある程度実力のある方であれば、過去問をシャッフルして解くのもオススメです。具体的には、第1問、第2問は2019年の過去問で第3問は2018年の過去問といったイメージです。
過去問は貴重な勉強資源であり、本試験と同じく2時間で解かないともったいないという意見もあると思いますし、その考えに異議はありません。ただし、社会人受験生の場合、勉強に割ける時間が限られているというのは上記でも述べた通りですし、直前期はアレもコレもとやり残したことが多くなりがちで、過去問をじっくり解く時間が取れない方も多いのも事実ではないかと思います。結局あとで過去問を解こうと思って解かずじまいというのが最悪のパターンですので、特に社会人受験生は応用期くらいから少しずつ過去問を解き進めておくことをお勧めします。
間違いノートや間違いリストを作るかどうかですが、これも一概には言えず、人によると思います。私自身はというと、問題演習の時には常に問題をコピーして解いていましたので、自己採点の後に間違っていた問題の箇所をハサミで切り抜きそのままノートに張り付けてスクラップブックのようにしていました。この方法であればノート作りにもほとんど時間がかからないのでオススメです。
ただし、ノート作りに時間をかけすぎて肝心の問題演習の時間が減るのは避けるべきですので、作るにしてもできるだけシンプルなものにした方がよいでしょう。
直前期(6月~7月)は大原やTACで全国模試が実施されます。私は独学でもこの全国模試は会場で受験しました。
独学だとどうしても閉鎖的な環境で勉強することが多くなりますので、たくさんの受験生に囲まれて受ける本試験の緊張感はかなりのものになります。そこで、仮想本試験をとして周りにたくさんの受験生がいる中で会場受験できる全国模試は貴重な機会なので1回でも多く経験しておくべきだと思います。
簿記論は計算だけで勝負が決まる科目のため、計算が苦手でなかなか合格できない方が多いのも事実です。中には、簿記論以外の4科目が受かっていて簿記論だけ残っているという方もいらっしゃいます。
もちろん単に計算が苦手といっても、単に勉強時間が足りていない、問題演習が足りていない、過去問を全然解いていない等、原因はさまざまです。
簿記論が苦手という方は、まず苦手の原因をしっかり把握したうえでそれを克服するように勉強していきましょう。専門学校を使っている方であれば講師とのミーテイング等で自分の弱みは教えてもらえますが、独学の方は第三者に自分の弱みを指摘してもらう機会がないため自分自身で弱みを分析する必要があります。