「株式事務」という仕事をご存知でしょうか?株式投資を行っている人や仕事で関わりがある方以外には聞きなれない言葉かもしれません。「初めて聞いた!」という方も多いのではないでしょうか。株式事務は、株式会社にとってなくてはならない仕事。今回はこの株式事務と株主名簿管理人について簡単に解説します。
株式事務とは、文字通り株式に関する事務のこと。株式の上場に関する事務、そして上場後の株式に関する事務のこと、そのどちらをも含みます。
株式に関する事務を具体的に解説すると、株主名簿の書き換えや株式の発行・増資の手続き、株主総会の招集状の発送など。株式に関する様々な手続きをほとんどカバーしている業務となります。
ここで一度株式について見直してみましょう。株式とは、会社が資金を集めることを目的として発行する証券のこと。そして、株式を発行している会社のことを株式会社、株式を購入した人のことを株主と呼びます。
一方株主は、株式を買うことで利益を得ることを目的としています。その利益には二種類あり、ひとつめの利益は、保有している株式の価値が上がり、そしてそれを売却する際に得られる差額益のこと。もうひとつは、株式会社から配当という利益を得ること。配当は金銭であったり、その会社の製品の優待やサービスの割引であったりもします。
株式事務はこの株式発行の際にも関わってくる業務となります。
株式事務は、主に株主名簿管理人によって行われている業務です。株主名簿管理人とは、会社法第123条に規定されている、株式事務を株式会社に代わって行う機関のこと。株主名簿管理人は別名「株式事務代行機関」とも呼ばれています。
公開株の株式会社は自社の株主名簿管理人を選び、株式事務の代行を依頼することが法律により定められています。その株主名簿管理人は、各証券取引所によって決められた信託会社、証券代行会社の中から選ぶ必要があります。それには、みずほ信託銀行や東京証券代行、三菱UFJ信託銀行といった会社があげられます。
株式事務には様々な法律が絡んできたり、煩雑な手続きを要されたりする処理が多くあります。
株式売買に伴い株主が変わった場合、株主名簿を書き換える必要があります。発行株数が多い会社ほど、関与する株主の数は多くなります。大会社の中には10億や100億もの株式を発行している会社も。そしてそのような会社の株式ほど頻繁に売買される有名株式であることがほとんどです。
それだけ多くの株式の売買ごとに、株式の発行会社が社内で株式事務を処理していたのでは、とても処理が間に合いません。それでは、株主に対して適切な対処を行うことができません。そのため株主名簿管理人を選定し、株式事務の代行を依頼することが法により定められているのです。
ただし、未公開会社の株式事務は自社内で行うことができます。株主も少なく、また株式の売買自体もごくまれなため、あまり株式事務を必要としないからです。親会社の資本が100%入った子会社がこちらに該当している場合があります。
株式事務の仕事範囲は、株式の発行前から始まります。株式会社となるのに必要な定款の整備や株式関連書類の整備。上場前の会社にとっては初めてとなるこれらの業務を、株主名簿管理人は手助けしてくれます。
上場後も、株主名簿管理人の出番は数多くあります。まずは、株主名簿の管理や株式に関する問い合わせ対応などの日常的に発生する業務。各社で行っていたのでは手間のかかる日常業務を株主名簿管理人は代行してくれます。
それだけでなく、株主総会の手配や議決行使書の集計といった株主総会に関する事務。また、配当金の計算や支払いといった配当金に関する事務。そして、増資や新株予約権に関する事務も行ってくれます。
加えて、株主名簿管理人は株式事務の代行だけでなく、株式の管理全般に関するアドバイスも行ってくれます。株主名簿管理人は複数の株式会社を担当しているため、株式に関する知識・経験を豊富に持っています。株主名簿管理人は、株式会社にとってなくてはならないパートナーなのです。
株式事務は株式会社にはなくてはならない仕事。自社で行うにはあまりに煩雑となる手続きを、一挙に代行して行ってくれます。そのように重要な仕事ではありますが、取り扱いできる会社が少ないため、あまり一般的に有名な仕事ではありません。しかし、株式会社に勤める社会人にとっては、知っていて当然の知識。これを機に、自社の株主名簿管理人を確認してみてはいかがでしょうか。