会社が資産をうまく活用して利益を生んでいるか、「収益性」を診断するのに有効な指標のひとつに、ROA(総資産利益率)とROE(自己資本利益率)があります。
今回は、ROAを分解して構成要素を洗い出しROEとの違いを比較することで、ROA・ROEの双方から会社の収益性をどう見るかについて解説していきます。
会社の収益性を診断するにはROAに着目します。ROA(総資産利益率)とは会社の総資産を使っていくら利益を計上できたか、総資産の運用利回りを表す指標です。次の計算式で算出できます。
ROAへの理解を深めるため、上の数式に「売上高」を挿入して、数式を分解してみましょう。
売上高利益率とは、売上高のうち利益が占める割合を表し、売上を計上するための費用を抑えることで数値が上がります。
総資産回転率とは、総資産のうち売上が占める割合を表し、総資産をどれだけ回転させて利益を生んでいるかを表す指標です。
たとえば、総資産の1,000円を使って100円のパンを10個買い、130円で売って1,300円になったとしましょう。それで終わりにするのではなく、次の日は増えた総資産の1,300円を使いパンを13個買って売るというように、総資産をどんどん回転させていきます。
1日目:総資産1,000円でパンを10個買って売る→1,300円
2日目:総資産1,300円でパンを13個買って売る→1,690円
3日目:総資産1,690円でパンを16個買って売る→2,080円
4日目:総資産2,080円で……
総資産回転率が大きければ、限定された総資産をうまく回転して利益を生んでいるということです。
ROAを高めるには、「売上高利益率」ないし「総資産回転率」の数値を高めればよいのです。
会社の収益性を診断する指標のなかで、ROAと類似したものにROEがあります。ROE(自己資本利益率)とは(債務者などに返済する必要がない)自己資本を活用していくら利益を計上できたか、自己資本の運用利回りを表す指標です。次の計算式で算出できます。
ROAとROEとの違いは、ROAが総資産に占める利益の割合であるのに対し、ROEが総資本の一部である自己資本に占める割合である点です。
(総資産は貸借対照表(B/S)における左側の合計で、総資本は同じくB/Sにおける右側の合計であるため、総資産と総資本は同じものとみなされます)
ROAとROEとの違いは、ROEの数式を分解してみることでも導き出されます。
ROAと比べてみると、ROEはROAの数式に「財務レバレッジ」が乗算されていることが分かります。
(ROAの売上高利益率は、分子に当期純利益をもってくることも可能なため、売上高利益率とROEの売上高当期純利益率は同じです。また、総資産回転率と総資本回転率は同じものとみなされます)
財務レバレッジとは、自己資本をもとに借入などにより総資本を増やすことで、どれだけ資本を効率的に活用しているかを表す指標です。レバレッジをかける状態とは、たとえば自己資本100円を元手に900円を借り入れて総資本1,000円で仕入れをすることを指します。
ROAは、レバレッジをかける前のROEと同じであることから、レバレッジをかけずに資産を使って利益を生んでいる数値であるため、ROEよりも判定が厳しいといえます。
近年、内閣府の「未来投資戦略2017」で企業の目標指標にROAが挙げられたように、ROEよりもROAに着目すべきという風潮が起こってきています。
その一因に、ROEの数値が財務レバレッジに左右される点が挙げられます。たとえば、前年比でROEは上がっているのにROAは下がっているとしましょう。これは、借入金により財務レバレッジは上がっているのに、借入金からうまく利益が出ていない状態を表しています。
そのため、ROEが上がったからといって安心せずに、ROAとROEを前年比で見比べてみることが大切です。
ROAは「売上高利益率」と「総資産回転率」に分解され、これらの数値を高めればROAも上がります。
売上高利益率はコストカットなどの費用削減、総資産回転率は不要な資産の処理や売上増加などにより、数値の増加が可能です。
ROAとROEとの違いのひとつは、数式を分解すると分かるように財務レバレッジの存在です。ROEのほうが、ROAよりもレバレッジをかけて資産を運用しているため、より効率的な収益性を診断したいなら、ROAに着目するのがよいでしょう。
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