世間的に税理士は高収入というイメージを持たれていますが、これから税理士を目指す方にとっては実際の年収は気になるのではないでしょうか。また、晴れて税理士になったものの、「想像していたよりも低かった」ということもあるかもしれません。そこで今回は、そのようなギャップをなくすためにも、税理士の年収の現実や年収アップの秘訣を徹底解説します!
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によると、税理士の平均年収は約856万円ほどになっています。日本の平均年収は約440万円前後とされているので、単純計算だと税理士は平均の2倍近くの高水準であるといえます。
ただ、税理士の年収の現実を知る上で、平均年収は一つの目安でしかありません。勤務する税理士法人や会計事務所の規模によって年収条件は異なりますし、個人で開業している場合であっても集客が上手ければ1億円を超える年収を得ている税理士もいるからです。ここからは、様々な視点から税理士の現実的な年収について解説します。
税理士の年収は、年齢よりも経験やスキルで決まることが非常に多いため、以下では経験年数別に勤務税理士の年収レンジをご紹介します。また、特に女性は男女での収入の違いも気になるところだと思いますので、税理士の年収について男女での違いもご紹介します。
以下の表は、先ほどと同じく令和6年賃金構造基本統計調査に基づいた統計データをまとめたものになります。
経験年数
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全体平均年収
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男性平均年収
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女性平均年収
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---|---|---|---|
1年未満
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約402万円
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約426万円
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約377万円
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1年∼4年
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約532万円
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約544万円
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約520万円
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5年∼9年
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約492万円
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約593万円
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約405万円
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10年∼14年
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約625万円
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約851万円
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約372万円
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15年以上
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約1,056万円
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約1,182万円
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約729万円
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上記の表では平均年収が初年度から300~400万円となっていますが、後述もするように、どこで働くかによって大きく左右されますので、あくまでも”平均値”だと認識していただくのが良いでしょう。通常未経験で会計事務所に入社した場合は、おおよそ年収300万円ほどになるため、一般的な事業会社の新卒とほぼ同水準となります。ただし未経験の場合は年齢次第で採用対象にならないケースもありますのでご留意ください。税理士の初任給についてはこちらのコラムを参考にしてみてください。
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税理士事務所勤務2~4年目で、おおよそ年収400~500万円ほどでしょう。自分で顧客を獲得したり、税理士試験の科目合格数を増やすと、年収アップに繋がりやすくなり、次第にスキルに応じて個人差が出始めます。
税理士事務所の勤務年数が5年以上で法人顧客を1人で対応できる目安になります。また税理士試験で3科目以上合格していると年収600万円以上が見込めます。また、おおよそのイメージとして、この段階の経験スキルがあれば、BIG4への転職に最低限必要な経験は身に着けたといえます。
BIG4で勤務している場合は年収1000万円以上のポジションを目指すこともできるでしょう。また独立開業し安定して顧客を獲得できれば、年収1000万円を超える税理士もたくさんいます。
また、男女の差が大きく表れ始めるのもこのタイミングとなっています。
10年目を超えるタイミングから税理士としての年収は大幅に上がり、男性では年収800万円以上となっています。反対に女性の年収は低下さらに低下し、370万円台となっています。これは、後述するように、女性のライフイベントに伴う働き方の変化が影響していると考えられます。10年以上の経験を積んでいるのであれば、独立開業を本格的に考え出す方も多くいらっしゃいます。
15年以上の経験を持つ税理士は個人の案件を安定的に持っているため、その案件数や案件単価により年収が1000万円を超えることが一般的です。また、女性の年収もこのあたりから再上昇しており、男女問わず十分に稼ぐことができると言えます。
男性税理士の方が圧倒的に数が多い税理士業界ですが、最近では女性税理士の活躍も目覚ましく、近年は全体の14%が女性となっています。そんな女性税理士の平均年収は約530万円程度、一方で男性税理士の平均年収は約960万円程となっており、一定数差があるように思われます。ただし、これは男女格差に起因しているというわけではなく、女性の働き方などが影響しているようです。経験年数別の平均年収からも読み取れるように、あるタイミングから女性の平均年収が著しく低下し、再度平均年収が上がっています。これは、出産や育児などのライフイベントが大きく影響しているためです。
詳しくは以下の関連記事をご参照ください。
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冒頭にお伝えした通り、どのような職場で働くのかによっても、税理士が現実的に稼ぐことができる年収は大きく左右されます。以下では代表的な税理士の働き方別にご紹介していきます。
税理士の最も一般的な就業先として会計事務所(事務所、税理士法人の総称)が挙げられます。会計事務所は中小とBIG4に大きく分かれますので、それぞれ見ていきましょう。
中小の会計事務所では、初任給は月収20万円ほど、ボーナスがもらえたとしても、年収300万円ほどという税理士も多いのが現実です。勤続年数やスキルのレベルによって年収は増えることが多いですが、それでも年収600~800万円ほどであることが一般的で、この水準を大きく上回るようなことはありません。
BIG4税理士法人とは世界中に拠点を持つ大規模国際会計事務所グループのうち日本国内に存在する税理士法人で、次の4つがあげられます。
もちろんBIG4のそれぞれで給与体系は一律ではないものの、ポジション別の年収帯は以下のようになっております。
ポジション | 年収 |
---|---|
スタッフ(アソシエイト) | 400万~600万円 |
シニアスタッフ(シニアアソシエイト) | 600万~1000万円 |
マネジャー | 1000万~1200万円 |
シニアマネージャー | 1200万円~ |
こちらを見ると、全体的にBIG4税理士法人の方が中小の税理士事務所よりも給与水準が高めであることが分かります。
どうしてこれほどまでに大手と中小で、年収に差があるのでしょうか。これは、簡単に言ってしまえば、その税理士事務所が儲かっているかどうかという問題です。
中小の会計事務所においては、企業または個人事業主より依頼を受け、日々の記帳の代行などを請け負う業務が中心となります。このような業務は、税理士であれば誰でも請け負うことができる業務なので、差別化を図ることもできず、報酬の単価を上げるような交渉もできません。
一方大手では、多数の企業と顧問契約を結ぶケースが多く、主にアドバイザーとしての役割を果たしています。そのため、それに見合った収益を得ることができます。月単位での儲けも大きいので、給与に回る額も大きく、自然と給与水準が高くなります。また、大手の会計事務所は、国際税務などの語学力を必要とする業務、M&A業務のような専門性の高い知識を必要とするコンサルタント業務などを請け負いますので、高い専門性が求められる分、報酬も高くなるのです。
税理士の中には一般企業の経理や財務などの管理部門で働かれる方もいます。資格を活かした仕事にはなるものの、資格手当などが無い限りは税理士でない同じポジションの方と同程度の水準となることが多く、平均は400万~500万円ほどです。会計事務所と同じく企業規模によって平均値が変わるだけでなく、業種や事業内容によっても異なることがあるのが特徴です。
税理士として税務の専門的な知識を、コンサルティング業務に活かす方もいます。税理士のみが行ってよいとされている独占業務の一つに「税務相談」があり、税務関連のコンサルを行うコンサルティングファームでは税理士が必要とされています。
特にM&Aに関わる企業の業務サポートを行うM&AアドバイザリーやM&A仲介における税理士のニーズが高く、活躍することができます。M&A業界は成果主義(実力主義)で年収が決まるケースが多いため、年収も600万~5,000万円以上と幅が大きい形になります。3,000万円以上の超高年収を実現可能ではあるものの、税理士資格があるだけで一概に稼げる職種というわけではないのが現実です。
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開業税理士とは事務所や企業に所属して勤務するのでなく、自ら事務所を開いて事業を行う税理士のことです。開業税理士の年収はかなりの高額です。
日本税理士会連合会の2015年公表のデータによると、開業税理士の平均年収は約3,000万円です。もちろん、500万円以下の開業税理士もいれば、3億円以上の年収を稼ぎ出す税理士もいるため、あくまでも平均値でしかない点にはご注意ください。1億円以上を稼ぐ税理士が少ないため、開業税理士の現実の平均年収は1,000万円程度と理解するのが妥当でしょう。
このデータは直近の調査ではないので、変動している可能性もありますが、開業税理士の平均年収が税理士全体の平均よりも高いことは変わりないでしょう。
参照:日本税理士会連合会第6回税理士実態調査報告書
独立開業した税理士は、基本的には受け取った利益は、事務所の経費や家賃などを除き、そのまま自分自身の利益となります。経営が上手くいっていれば、勤務税理士の時よりも多くのお金を稼ぐことが可能です。もちろん開業している税理士事務所の経営が軌道に乗らなければ利益がほとんど出ないというリスクには晒されます。ただ、自分で税理士事務所を経営する以上、その収入は青天井です。経営努力次第でどれだけでも高収入が実現できる可能性が秘められています。
税理士事務所を開業すれば年収はアップしますが、税理士資格を取得してすぐに独立開業できるというものではありません。
税理士は資格取得後に2年以上の実務経験が必要になります。まずは今勤務する会計事務所で経験を積むことが独立開業する第一歩です。2年の実務経験の間に、クライアントとの信頼構築のノウハウや税理士業界に対する理解を深めましょう。
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ただし、開業税理士でも年収が低い場合があります。自分で税理士事務所を開業している場合、その事務所の経営動向次第で収入が大きく左右されてしまいます。開業税理士の場合、経営をうまく軌道に乗せることができれば高収入を約束される反面、経営に失敗してしまうと、勤務税理士よりもはるかに低い年収になってしまうリスクがついて回るのです。
どれだけ税理士としての能力に優れていたとしても、独立開業する以上、経営力などの多方面にわたるスキルが要求されるからです。特に、税理士資格を取得してから日が浅いうちに独立してしまうと、税理士事務所の経営方法などのノウハウも蓄積されていませんし、そもそも充分な顧客を獲得できる可能性は低いでしょう。
そのため、税理士事務所を開業する前に、どの程度の顧客を獲得できそうかの試算を行う必要があります。そして、事業収入の規模に応じて、どの程度の規模で税理士事務所を展開するのかを熟慮しましょう。勤務先の税理士事務所からある程度の顧客クライアントを引き継げるなどの事情があったり、自分自身のコネクションを活用する自身があるのなら、開業して独立するのがやりがいと年収を高める近道と言えるでしょう。
「開業税理士の方が勤務税理士よりも年収が高い」というのは、あくまでも税理士業界のおおよその傾向を示したに過ぎません。実は、税理士という高難度の資格だからこそ、勤務税理士でも高収入を実現することができるのです。一般事業のサラリーマンであれば、会社に雇われている限りある程度の段階で年収は頭打ちになってしまいます。しかし、税理士という専門職については、勤務税理士であったとしても、一般事業のサラリーマンよりもはるかに高収入を達成することができるのです。
例えば、いわゆるBIG4と呼ばれるような大手税理士法人に勤務していたり、準大手と言われる税理士法人に就職している場合なら、アソシエイト身分の勤務税理士でもかなりの高収入を約束されます。また、そこまで大きな規模ではない会計事務所に勤務しているとしても、パートナークラスの税理士として活躍しているのなら、中小の会計事務所の代表の年収を大きく上回る場合も珍しくありません。
このように、組織に雇われている立場であったとしても、高収入を目指すことができるのが税理士の特徴の一つです。
ただし、開業していない若手の勤務整理士だけの平均年収は400~500万円程度と言われています。
税理士は登録前に2年間の実務経験が義務付けられているため、最初は勤務している会計事務所で働くことが多いです。その際の年収は一般企業に勤めるサラリーマンとそれほど変わらないのが現状となっています。
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では、税理士が年収をアップさせるにはどのような方法を選択すべきでしょうか?せっかく税理士試験という難関国家試験を突破するのであれば、より高い年収を得たいと考えるのは当然です。そこで、以下では税理士が年収をアップするための四つの方法を紹介します。ご自身のキャリアアップにぜひお役立てください。
税理士が年収を上げるには、税理士事務所を自ら開業して独立する方法が考えられます。年収が0になるリスクがある反面、自分の経営努力次第で望む年収額までチャレンジし続けることができます。先程紹介したように、独立すれば年収が1億円を超えることも珍しくはないのです。
税理士が年収を上げる方法としては、BIG4を中心とする大規模税理士法人に転職する方法が挙げられます。大手の税理士法人の場合、勤務してすぐのアソシエイトスタッフでも年収500万円~600万円、パートナークラス以上になると1,000万円以上は当たり前に獲得できるようになります。
AIやIoT技術が進歩したためクライアントの要望は多様化し、大手会計事務所でも専門的な職能に関する需要が高まっています。会計知識を備えているのは当然のことながら、AIの知識やビックデータ解析に用いられる統計スキルを学んでおくと転職でも評価される対象になります。
なお、大手税理士法人ではそれぞれの業務セクションごとに採用を行なっているケースが多いです(消費税スペシャリスト・資産税スペシャリストなど)。税理士試験での選択科目なども採用可否を判断する重要な基準となる可能性が高いので、どのような実務に対応していけるのかということをしっかりとアピールする必要があるでしょう。
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税理士が年収を上げるには、専門性が高い会計事務所や税理士事務所へ転職する方法が考えられます。専門性の高い会計事務所では、クライアントが小さくても提供するサービスが高品質に保たれることから報酬単価が高く設定されています。したがって、アソシエイトスタッフクラスでも500万円~600万円、パートナークラスの税理士であれば1,000万円の年収は軽くクリアできます。
具体的には、国際税務や相続、M&A業務などに強い事務所の年収が高い傾向にあります。
▶︎ 税理士・税務スタッフの転職・求人情報はこちら|HUPRO
税理士が年収を上げる方法として、一般事業会社の経理部門や財務部門へ転職する方法が考えられます。もちろん、一般事業会社に社員として入社する以上、どの企業に転職するかによって年収に差は生まれます。しかし、税理士資格を活かして企業内でスペシャリストとして活躍することが期待されているため、大規模企業でも比較的求人が出されています。年収は300~800万円、役職が付けば1000万円以上も可能です。企業内税理士の働き方や年収については、以下の記事でも解説しています。
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ここでは実際に税理士としての転職によって年収UPに成功された事例を2つご紹介します。
8年ほど会計事務所でのご経験された中で、上場会社の巡回や事業承継/組織再編に関わったこともあるKさんは、これまで経験した業務の専門性をさらに深め、年収もアップできる転職先を探されていました。
弊社の専任エージェントに希望条件を漏れなくお伝えいただけたおかげで、前職の経験を評価されるようなアピールができるよう、アドバイスすることができました。
結果的に、経験を活かして業務ができ、年収も100万アップさせられる職場への転職を成功されました。
会計事務所と企業の経理で計13年の経験があるOさんは、年収アップを主軸として転職活動をされていました。
会計事務所や企業経理での経験が長かったため、初めはそのいずれかへの転職を検討していらっしゃいました。しかし、弊社の専任エージェントから、年収アップが目的ならM&A業界を検討した方がいい旨をお伝えしました。
結果的に年収350万円アップができるM&Aアドバイザリー会社に転職。さらにインセンティブ制度によって大幅な年収増を実現しています。
税理士以外の国家資格として、公認会計士や弁護士、社会保険労務士、医師などの知名度が高いのではないでしょうか。
率直に申し上げますと、これらの資格の中でもトップレベルに難易度が高い弁護士や医師についてはより一層年収が高いです。令和4年の調査によれば、医師の平均年収は1,428万円、弁護士の平均年収は971万円となっています。
また、先述した通り、公認会計士と税理士を比べると、公認会計士の方が高年収となっています。これは、それぞれの資格で出来る業務の範囲の差であると考えられています。
公認会計士は税理士試験免除で税理士の登録が可能なので、税理士の独占業務を行うことができます。その一方で、税理士は公認会計士の試験を免除できるわけでもなければ、公認会計士の独占業務をできるわけでもありません。
そのため、より広範囲で難易度の高い業務に対応できる公認会計士の方が年収が高いのです。
最後に社会保険労務士との比較です。社労士の平均年収は496万円ですので、税理士の方が年収は高い傾向にあるといえます。ただし税理士と同様に、社労士も働く職場や独立の有無などによって年収は大きく変わりますので、一概に平均年収で比較する必要はないでしょう。
出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
出典:国税庁「令和4年分民間給与実態統計調査」
今回は税理士のリアルな年収事情についてご紹介しました。
改めて結論をお伝えすると、税理士の年収は経験年数と働き方で決まります。そのため、これから税理士を目指そうとお考えの方や、「税理士になったは良いけど、思っていたよりも年収が高くなかった」という方は、どのような働き方であれば高収入を狙えるのかを改めて考えてみてください。
税理士業界は、実務経験者にとっては転職を成功させやすい業界といえます。税理士法人や会計事務所であればどこも基本的に同じ仕事をしていますから、即戦力として実務に対応できる人であれば、税理士としての期間の長短にかかわらず高い年収を得られる可能性があります。
この業界でキャリアを積んでいく上で重要なことは、自身が税理士としての実力をしっかりと身につけることです。転職先を選ぶ際には目先の年収が気になることもよくわかります。しかし、年収を上げるためには、長期的なスパンで考えるのが一番です。長期的なキャリア構築の観点から、自分の目指す将来像につながる経験を積めば、やがては当たり前のように高い年収を獲得できます。そのためにスキルアップができる会計事務所を選ぶようにしましょう。
そして、年収アップを目指して転職をお考えの方は、是非一度ヒュープロへご相談ください。ヒュープロは士業・管理部門に特化した求人を扱っており、業界特化だからこその手厚い転職活動のサポートと圧倒的な求人数で、ご希望に沿った転職の実現をお手伝いします!