欠損金と聞くと、赤字の会社でなんだか残念な気持ちになるかもしれません。しかし欠損金をちゃんと理解していればしっかり有効活用できます。今回は欠損金について様々な視点から解説します。
欠損金というのは、法人税法上の過去の損失額の累計を言います。ここでポイントなのは、法人税法上の損失ということであり、会計上損失が計上されているからといって法人税法上も欠損が出るとは限らないからです。というのも、例えば交際費の損金不算入などの会計上費用計上されるにも関わらず法人税法上は損金に算入できないものがあるためです。
この繰越欠損金がある場合は、法人税法上所得が発生しても欠損金と相殺消去ができるため、節税ができます。
ただし、過去のもの全額利用できるわけではなく、発生した期から10年という期限が存在します。また、発生した年度によって使える欠損金と課税所得の割合が異なります。
平成24年4月1日~平成27年3月31日開始事業年度・・・100分の80
平成27年4月1日~平成28年3月31日開始事業年度・・・100分の65
平成28年4月1日~平成29年3月31日開始事業年度・・・100分の60
平成29年4月1日~平成30年3月31日開始事業年度・・・100分の55
平成30年4月1日~開始事業年度・・・100分の50
なお、使える繰越欠損金は古い順番であるため、期限が切れないようにすることが大切です。また、青色申告を出している年度のものは使えますが、うっかり出し忘れていたりすると欠損金が使えなくなってしまうので注意が必要です。
今まで利益が出ていて法人税を納付していたのに、今期に限って大幅な赤字が出てしまった場合、過去の税金がもったいないと感じることもあるかもしれません。そんな時の為に欠損金が発生した年度に法人税の還付を請求することができます。
ただし、解散年度と中小企業以外における平成4年4月1日から令和2年までの間に終了した事業年度においては適用が行えないので注意が必要です。
還付金額は、今まで納めた税金全額ではなく、黒字が出ていた年度の法人税額と欠損事業年度の欠損金額との割合で還付金額が決まります。
確かに還付ができて制度としてはありがたいのですが、原則として税務調査もしくは何らかの対応が必要となりますので、還付請求してみたら逆に納税になってしまった、とならないように日頃から適切な納税を心がけることが必要です。
繰越欠損金がある場合は所得が発生しても納税金額が減ることになります。よって、見方によっては貯金に見えることでしょう。
一方で、欠損金の期限は10年ということもあり、10年間使わないままにしてしまうとその分損をしてしまいます。通常は節税のためになるべく費用として計上できるものは費用として処理すると思いますが、欠損がある場合はしなくても良い費用については積極的に費用処理しなくても良いでしょう。ただし、会計方針の変更をそのためだけにすることは原則粉飾を疑われることとなるので慎重に考える必要があります。
自社には欠損金はないが、節税をしたいという場合、組織再編を利用する場合があります。
例えば、欠損金が多額にある会社と合併をしてその繰越欠損金を引継ぎ節税する場合があります。ただし、欠損のある会社と合併したら欠損金が必ず使えるかというと、様々な要件があります。欠損のある会社の人員や事業を原則引き継ぐ必要があります。これは、潰れそうな会社を合併するだけして全員リストラをしたり事業を廃止したりして脱税行為をすることを防ぐためです。
また、子会社が赤字を垂れ流している場合は連結納税という制度もあります。連結納税では、グループ全体での所得に対して法人税額が決まるので、親会社が儲かっていても子会社が赤字であれば全体としての納税額が抑えられる可能性があります。
ただし、注意したいのは法人税のみであり、住民税・事業税等の地方税は相殺の対象にならないことと、連結納税制度は事前の届出と承認が必要な上に高度な処理能力が求められるため、安易に選択ができません。
繰越欠損金があるということは、基本的に赤字の企業ということであり、銀行からはあまりいい評価はされません。だからと言って黒字でもないのに黒字にしてしまったら粉飾も疑われてしまうでしょう。
そんな時、来期黒字が確実視されている場合には税効果会計として、繰延税金資産を計上することがあります。税効果会計は、会社が将来の節税効果のある場合にそれを繰延税金資産として計上できるという制度です。繰延税金資産を計上すると法人税等調整額という利益項目が損益計算書に計上できるため、会計上の利益が増えることになります。
ただし、来期以降も赤字が確実である場合に繰延税金資産を計上してしまうと粉飾と言われてしまうので、顧問税理士や会計士と相談の上でどれだけ計上するかを決める必要があります。