税理士試験の入り口となっている科目の簿記論。税理士を目指そうかなと考えている人が、一歩を踏み出すのに気になるのがその難易度です。税理士試験全般が合格率の低い難関試験ではありますが、受験者数や合格者数といった数字を並べられても、実際のところ自分はどのくらい努力すれば合格できるのか、なかなかイメージできないものです。
また、勉強を始めるのにも勉強時間や教材費・授業料を考えると、気軽に挑戦するというわけにはいかないと思います。本記事では、税理士試験受験への第一歩を踏み出そうか迷っている方に向けて、税理士試験の最初の入り口である簿記論を中心に解説していきます。
簿記論は税理士試験の科目の1つで、企業活動において日々さまざまな取引が発生しますが、その記録や集計、計算方法などの一定のルールを学びます。税務・会計のスペシャリストとして働く税理士にとって、簿記の知識は必要不可欠であり、業務の中枢にあたります。
簿記論と財務諸表論の2科目が必須科目で、法人税法と所得税法が選択必須科目、残りの相続税法・消費税法・酒税法・国税徴収法・住民税・事業税・固定資産税の7科目が選択科目になり、11科目のうち5科目合格が必要となります。そのため、選択必須科目や選択科目とは異なり簿記論は必須科目なので、避けては通れない科目となっています。
簿記論は税理士試験の中の一つの科目で、例年8月の上旬に年に一度だけ実施しています。税理士試験の日程として3日間あり、簿記論は初日の1科目めとされています。
また、2023年(令和5年)の第73回試験から受験資格の制限がなくなり誰でも受験が可能となりました。かつては高校生や大学1・2年生などが受験する場合、簿記1級の取得が必須条件でしたが、それらについては撤廃されました。
出題形式については、第1問25点、第2問25点、第3問50点の合計100点満点の試験です。試験時間が120分と長いように思えますが、全て計算問題で構成されているため、速さと正確さが重要となってきます。
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簿記論は税理士試験の中でも最初に受けるのが一般的とされているため、受験者数が一番多い科目とされています。簿記論の過去5年間の合格率は以下の通りです。
上表の通りから、簿記論の合格率は20%前後です。しかし、2016年度の合格率が12.6%であったため、そのような年があることも理解しておきましょう。
簿記論をはじめとする税理士試験は相対評価と言われています。税理士試験が相対評価の試験でありながら合格率の推移が一定の上下幅を持っているのは、ボーダーライン付近に得点者が集中しており、1点ボーダーを下げると合格率が大幅に上がってしまう、あるいはその逆という事情があるため、そこに落ち着かせる必要があるからとも言われています。このように、1点が合否を分けるため、ケアレスミスの無いようにしましょう。
簿記論の平均勉強時間は、400〜500時間といわれています。これは1日2〜3時間の勉強を半年間続けなければなりません。1科目でこのくらい時間を取られることを考えると、税理士試験が非常に難関なことが分かると思います。また、この平均勉強時間はあくまでも目安であり、確固たる基準ではありません。税理士試験の勉強が初めての人と、仕事でそれなりに税務に関わってきた人では、合格ラインに達するまでの勉強時間はおのずと異なってくるでしょう。
簿記論と比較されることが多いのが財務諸表論ですが、この科目の平均勉強時間も、400〜500時間といわれています。基礎的な計算を必要とする簿記論の後に理論などの財務諸表論を勉強するのが一般的といわれており、総合的な勉強時間もより短く済むでしょう。
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日商簿記1級の試験範囲は、「商業簿記」「会計学」「工業簿記」「原価計算」があり、商業簿記・工業簿記は学習すべき範囲として重なっています。簿記1級で問われる難易度は比較的高く、その知識は簿記論に大きく役に立ちます。合格するために必要な勉強時間が400〜500時間に対して、簿記1級取得者が1日8時間を25日間勉強し、計200時間で合格した例もあり、有利に働くことは間違いないでしょう。
日商簿記2級に関しては、商業簿記・工業簿記と試験範囲が丸々かぶっています。しかし、簿記論とでは、難易度が大きく異なり、基礎しか学びません。そのため、簿記2級取得から簿記論合格に必要な勉強時間は簿記1級の時とは大きく異なり、350〜450時間といわれており、大きなアドバンテージとは言えないでしょう。
日商簿記と簿記論は試験回数が違うことが特徴です。日商簿記は年間に複数回試験が実施されているのに対し、簿記論の試験は年に1回です。簿記論の方が試験が難しいうえ、プレッシャーがかかるため、大変だといえるでしょう。
この質問に対して「完全な独学で十分合格できます!」と答える受験経験者は少数派でしょう。「独学」の定義を「市販教材のみで勉強する」とするならば、それは一層難しいものとなります。そのため、予備校に通うか、分からない箇所などを適宜講習を取って補う方が一般的とされています。ですが、働きながら簿記論の勉強をする方もいます。税理士試験のよい特徴として、科目合格制を取っています。そのため、1年で5科目に合格する必要がないため、会社終わりにコツコツと勉強をして、1年で1科目ずつ取得するといった方もいて、独学が不可能というわけではありません。
ただし、独学で勉強を進めるのであれば、メリットとデメリットを理解した上で始めるのが良いでしょう。
独学のメリットとしてお金がかからない点です。大手予備校だと、簿記論1科目で15〜20万円かかるといわれています。5科目全ての講義を取るとすると、80〜100万もかかり、ここが独学の最大のメリットだと言えるでしょう。また、予備校などは講義の時間が決まっているため、会社員を勤めながら目指すといったことが難しいため独学といった選択肢を取ることも多いそうです。
独学のデメリットとしてモチベーション維持が難しい点です。周りに同じような心境の人がおらず、鼓舞してくれる人もいないため、自分だけで勉強を進める必要があり、強い意志を持たないと挫折してしまいます。また、講師などといった知識がある人に質問できないことも厳しいと考えられます。市販の参考書には詳しい解説は書いてありますが、それでも分からなかった点を質問できないのはデメリットといえます。
これまで、簿記論を取得するのは勉強時間を多く必要とし、難易度が高いことをお伝えしてきました。その一方で、難易度が高い分、就職・転職で有利に働きます。簿記論を取得することで、簿記への知識が深いことが証明されるため、一般企業の管理部門などで必要とされる存在となります。また、科目合格による手当がある企業に転職することで年収などをアップさせることもできます。
また、税理士になるために2年間の実務経験を積む必要があるため、会計事務所などの転職をし、経験を積みながら試験勉強をすることで、最短で税理士を目指すことができます。ヒュープロは、士業・管理部門に特化した転職エージェントなので、このようなケースの転職へのサポートをさせていただいています。業界最大級のため、自身にあった求人が見つかりやすくなっています。気になった方は、ぜひ下のリンクから探してみてください。