企業の管理会計上よく出てくるのが「損益分岐点」です。実は経理部門だけではなく、営業部門や製造部門でも指標の管理によく使われる用語ですので、一般常識として覚えておくと良いでしょう。そこで今回は損益分岐点の計算式について解説します。
損益分岐点とは、会社の損益が分岐する時の売上高を言います。簡単に言うと、赤字でもなく黒字でもなく、ちょうど利益が0円となる売上高です。
色々な場面で損益分岐点は使われますが、どんな会社でも赤字にはなりたくないですよね。でもどうすれば黒字になるのかはわかりづらいと思います。でも売上高であれば「頑張って受注を取っていけばよいんだな」と直感的にわかりやすいでしょう。
そこで、分析する会社や事業の損益がちょうどゼロになる売上高を損益分岐点と言います。
計算式は次の通りです。
損益分岐点売上高=固定費÷売上利益率
なぜこのような計算式になるか式を用いて解説します。
損益分岐点売上高=固定費+変動費
変動費を左に持っていくと次の式になります。
損益分岐点売上高-変動費=固定費
売上高から変動費を引くと売上利益(粗利)となります。
売上利益=固定費
どちらにも売上利益率を割っても式は変わりません。
売上利益÷売上利益率=固定費÷売上利益率
元々の売上利益を売上利益率で割るとまた売上高に戻ることになります。
損益分岐点売上高=固定費÷売上利益率
損益分岐点は売上高を主に使いますが、販売数量を使うこともあります。
例えば、1個100円の品物を作るのに90円かかるとします。どれだけ品物を作っても固定的に40円かかるとします。では品物を何個売れば損益分岐点になるでしょうか。
1個品物を売れば10円の利益が出て、そこから40円の固定費を稼げばちょうど損益がゼロとなるように計算すれば良いので、損益分岐点は
10円×損益分岐点(個)=40円
つまり、4個売ればちょうど固定費が回収できるため、損益分岐点は4個、となります。
ではこのような損益分岐点はどのような場合に使われるのでしょうか。
まず、会社が赤字でこれから黒字にするためにはどうしたらよいかを考える時です。費用を削減して利益を出すという考え方も間違いではないですが、費用の削減には限界がありますし、なんだかんだ言っても売上を伸ばすというのが一番わかりやすい成長のモデルだからです。
また、新規事業を立ち上げる際にどれだけの売上を計上すれば事業が黒字になるかを理解する場合です。新規事業は黒字か赤字かがわかりづらいですが、損益分岐点売上高がわかっていれば常にその金額を目標に掲げられるため従業員にも理解されやすいのです。
この他、営業に対するノルマを設定する場合も使われます。例えば「とにかく売上をあげてこい!」というのと「1,000個売れば損益分岐点だから1200個売ってこい!」というのでは営業も目標数値の明確さが全く異なります。また、製造部門にも「コストを下げろ」というのか「損益分岐点になるように固定費をあと100万円下げろ」というのかでは全く違うでしょう。
損益分岐点は一定のものではありません。会社によって全く数値が異なるため、自社でも損益分岐点を下げることができます。損益分岐点を下げれば、黒字になる売上高が低くても良くなるため、達成のハードルを下げることができます。
損益分岐点の下げ方は次のパターンがあります。
これが最もわかりやすい方法でしょう。固定費は家賃、設備の減価償却費、車のリース代等何もしなくても必ず発生するものです。
例えば家賃は下がらないと思っていても大家さんとの交渉で下がることもありますし、設備も高くて非効率なものを使っているくらいなら安くて効率的なものに取り換える、車のリースも身分相応のものに変える、など色々なやり方が存在します。
変動費率が下がれば、1つの物を売った時の利益率が上がり、結果として固定費を回収しやすくなります。よって、材料の調達先を変える、材質を変える、運送会社を変える等をして変動費率を下げれば損益分岐点も自然と下がります。
実は、最も難易度が高そうで最も効果的なのが売り上げ単価の上昇です。例えば1個100円のものを90円で作っていた場合、100個売っても1,000円の利益ですが、この単価を倍の200円にして100個売った場合は11,000円もの利益となります。単価を倍にしただけで利益が11倍になっています。
もちろん、ただ単価を上げるのではなく、若干コストをかけてもそれ以上に単価をあげたり、売り方を工夫して単価をあげたりと、できることはたくさんあるのです。
損益分岐点は売上高、売上数量などを用いて表すことができます。損益分岐点を下げることによって黒字体質になりやすくなるため、売上単価を上げる、変動費率を下げる、固定費を下げる等を組み合わせて、会社をどんどん黒字体質にしていきましょう。