社会保険労務士には社会保険労務士法人に所属し、人事部のサポートを行う仕事があります。この場合、企業の人事部に所属するのではなく、外部の社会保険労務士として人事部のサポートを行います。今回は、社会保険労務士が社会保険労務士法人に所属し、人事部のサポート業務で活躍する方法について解説していきます。
社会保険労務士とは、人材に関する専門家であり、「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」を目的として業務を行います。
全国社会保険労務士連合会
社会保険労務士は国家資格であり、社会保険労務士試験を合格することで資格を得られます。
社会保険労務士の資格試験は年に1回行われます。社会保険労務士の受験資格としては、「学歴」「実務経験」「厚生労働大臣が認めた国家資格」の3点のいずれかをクリアしている必要があります。
詳細は社会保険労務士試験オフィシャルサイトに掲載されています。
社会保険労務士の受験内容を知ることで、社会保険労務士として知っておかなければならない知識がどのようなものかを把握することができます。社会保険労務士の試験には選択式と択一式の問題があり、すべてマークシート形式となっています。選択式は空欄補充形式となっており、「労働基準法及び労働安全衛生法」「労働者災害補償保険法」「雇用保険法」「労務管理その他の労働に関する一般常識」「社会保険に関する一般常識」「健康保険法」「厚生年金保険法」「国民年金法」の8問あります。選択式は5つの選択肢から正誤を選ぶもので、「労働基準法及び労働安全衛生法」「労働者災害補償保険法」「雇用保険法」「労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識」「健康保険法」「厚生年金保険法」「国民年金法」の7問となっています。
社会保険労務士法人は、複数の社会保険労務士が組織的に業務を行うために、社会保険労務士が共同して設立する法人のことです。2003年の法改正により社会保険労務士事務所の法人化が認められるようになりました。当初は、2名以上の社会保険労務士による設立が必要でした。その後、2016年の法改正によって、社員が1名の社会保険労務士法人の設立が可能となっています。社会保険労務士法の一部を改正する法律の概要(厚生労働省)
社会保険労務士は特殊法人であり、一般の法人設立と同じように、定款の作成や出資金の準備、主たる事務所の所在地において設立の登記などが必要となります。さらに、設立から2週間以内に、法人として主たる事務所の所在地の都道府県社労士会の会員となる必要があります。つまり、法人としての社会保険労務士会費・入会金と、個人としての社会保険労務士会費・入会金をそれぞれ費用が発生することになります。
社会保険労務士法人に所属する方法は、自ら開業する、複数の社会保険労務士と一緒に開業する、既に事業を行っている社会保険労務士法人に中途採用として応募し入社する、などの方法があります。近年では業務に対する需要の増加から、新卒採用を行っている社会保険労務士法人も増えてきました。新卒採用の場合は、ほとんどは入社して働きながら社会保険労務士の資格を取得を目指します。
社会保険労務士法人が行う1号業務は、社会保険労務士の独占業務とされています。具体的には労働及び社会保険諸法令に基づいた申請書等を作成業務のことであり、社会・労働保険資格の取得喪届、算定基礎届、労働保険年度更新、給付金申請などにおいて人事部のサポート行い、書類作成や申請の代行を行うことができます。
社会保険労務士法人が行う2号業務は、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成であり、こちらも独占業務のひとつです。具体的には、労働者名簿、賃金台帳、労使協定の作成代行をすることが可能であり、これらに基づいた給与計算も社会保険労務士法人が人事部のサポートとして行う主な業務のひとつとなっています。
社会保険労務士法人が行う3行業務は事業における労務管理等に関する相談対応や指導であり、一般的にコンサルティングといわれる分野です。こちらは独占業務ではなく、誰でも実施することが可能です。ただし、専門的な知識を要する分野となりますので、人事部のサポートとしては社会保険労務士としての専門的なアドバイスが期待されています。
社会保険労務士法人においては、1号業務や2号業務に付随したアウトソーシング業務が中心となっています。前述した給与計算業務や、労働保険・社会保険諸法令に基づく事務代理・代行業務が該当します。これらの業務は、専門的かつ煩雑であり、企業の人事部だけで賄えないことが多く、専門家集団としての社会保険労務士事務所が人事部のサポートとして業務を行うケースが多くあります。
特定社会保険労務士は通常の社会保険労務士の業務に加えて、ADR(裁判外紛争解決手続)の業務に従事することが認められています。特定社会保険労務士になるには、司法研修(特別研修)を修了し、紛争解決手続代理業務試験に合格する必要があります。社会保険労務士法人に所属し、人事部のサポートの立場から労使間トラブルの解決、未然防止を行うことが可能です。
社会保険労務士法人で働くことで、その業務内容に特化した専門的な仕事を行うことができます。また、法人として活動することで社会的な信用を得ることができ、個人事務所よりも大きな仕事をすることができる可能性があります。さらに、第三者として人事部のサポートを行うことができるため、組織のしがらみにとらわれることなく冷静で的確な判断を行うことができると考えられます。
まず、自ら社会保険労務士法人を維持する場合は、個人で納める社会保険労務士会費・入会金の他に、法人分の社会保険労務士会費・入会金の支払いが発生します。加えて、法人を維持するための諸経費や税金負担などの金銭的な費用が発生します。さらに、法人として活動するための事務処理が増加します。また、社会保険労務士法人は企業の人事部にとってはあくまでも部外者なので、組織に入り込んだソリューションの提案や実行が難しい場合もデメリットとして考えられます。
社会保険労務士として人事部をサポートする方法としては、社会保険労務士法人に所属するほかに、個人事務所(フリーランス)として活動する、総合コンサルティング会社に所属する、企業の人事部に所属するといった方法が考えられます。それぞれメリット・デメリットがありますので、社会保険労務士としてどのように活躍したいか、どのように人事部をサポートしていきたいか、自らのキャリアプランに合わせた手段を検討する必要があります。
社会保険労務士には幅広い仕事があり、社会保険労務士法人に所属することで外部の観点から人事部をサポートすることが可能となります。近年、労務問題の増加や働き方改革の推進によって専門家としての社会保険労務士のニーズは高まっており、今後一層の活躍が期待されています。