公認会計士試験に合格すると、ほとんどの人が監査法人に就職もしくは転職します。今回は、その中でも圧倒的な人を誇るBig4監査法人を、筆者や周りの方々の経験も踏まえて社風や年収、得意分野などの面から比較していきます。就職・転職のポイントも紹介するので、ご自身に合った職場を見つけるヒントになれば幸いです。
4大監査法人もしくはBig4監査法人という呼び名は通称ですが、「大手監査法人」には定義があり、その定義に該当する4法人の総称として使われることが多いです。大手監査法人は公認会計士・監査審議会により、「上場会社を概ね100社以上監査し、かつ常勤の監査実施者が1,000名以上の監査法人」と定義されています。これに該当するのが、以下の監査法人です。
「Big4」という呼び名は、世界的な会計事務所で規模が大きな4法人を通称Big4といい、日本の4大監査法人が海外のBig4と提携していることから来ています。まずはそれぞれの法人の概要をご紹介します。
1969年7月に朝日会計会社として創業し、2度の合併後の2003年にKPMGと提携しました。KPMGは世界的なグループ会社なので知名度が高いと思いますが、KPMGジャパン内の監査法人ということになります。
三井住友グループや日本郵政株式会社が主なクライアントとして知られており、クライアントの売り上げ規模が大きいという特徴があります。
主な業務内容は以下の通りです。
EY新日本有限責任監査法人は大田昭和監査法人が前身です。その大田昭和監査法人は日本で最初の監査法人である太田哲三事務所と昭和監査法人が合併してできているため、かなり歴史のある監査法人といえます。今の名前になってからも合併を繰り返し、2008年には日本初の有限責任監査法人になっています。
主なクライアントとして知られているのは、みずほグループや株式会社日立製作所などです。また、学校法人のクライアントの割合が多いという特徴があります。
主な業務内容は以下の通りです。
1968年に複数の監査法人や会計事務所が合同で設立した日本初の全国規模の監査法人で、2009年に有限責任監査法人になりました。
主なクライアントとしてはヤフー株式会社や三菱UFJグループなどが挙げられます。トーマツは労働組合に関する監査の割合が高いという特徴があります。
主な業務内容は以下の通りです。
他の3法人と異なり、2006年にPwCのメンバーファームとして設立されています。2023年にPwC Japan有限責任監査法人となり現在に至ります。
主なクライアントはトヨタ自動車株式会社や東芝、ソニーグループなどです。最先端テクノロジーを監査業務に積極的に取り入れているという特徴があります。
主な業務内容は以下の通りです。
ここからは、筆者や周りの方々の経験を踏まえて、様々な観点でBig4監査法人を比較していきます。
まず社風についてですが、Big4監査法人ごとで全く違うというわけでは無く、一部共通しているところもあります。
例えば、Big4のいずれの監査法人も規模が大きく社員数も多いため、他の大企業と似て「組織」を感じることができるのが特徴です。
また最近は働き方改革の影響を受け、10年ほど前であれば深夜残業も当たり前だったものが、残業や休日出勤を抑制するような仕組みとなっているのが特徴です。さらに、どの法人も東京に本社を置いていますが、地方自治権よりも東京本社の力が年々増している印象を受けます。
そんな中でそれぞれの法人の社風にはどのような特徴があるのか、見ていきましょう。
私が公認会計士として就職活動をしていた時、あずさは女性に人気がありました。当時を振り返ると具体的にどの点が、と言われると難しいものの、近年では育児や介護に配慮した福利厚生や働き方の制度が非常に充実しているのが、その要因と考えられます。女性が働きやすい環境をいち早く全面に押し出した法人というイメージが強いです。
現に私の同期も何人かあずさに就職していますが、産休・育休を経て復職している人も多いです。また、法人のイメージカラー等も含めておしゃれな印象を持つ人が多いです。バリバリキャリアアップというよりも、働き方を重視したい人に向いていると考えます。
EYは財閥系などの古くからある日本企業をクライアントに持っています。そのことから周りではガツガツしているタイプよりも優等生タイプに人気がある法人です。
最近は他の法人とクライアントが入れ替わっている印象もありますが、やはり大手というイメージがとても強いため、安定志向の人には向いている法人だと思います。
他の法人よりも東京に集中しているイメージが強い為、地方によっては他の4大監査法人よりも規模が小さいこともあり、場合によっては新人でも色々な経験ができる可能性もあるでしょう。
トーマツの社風と聞かれると誰もが口をそろえて言うのが「体育会系」でしょう。ただ、体育会系といっても先輩後輩の規律が厳しい等というマイナスなイメージではなく、いい意味でノリがいい、と表現したほうが良いでしょう。
これは、トーマツは他の法人よりも非監査業務に力を入れてきた歴史から来ているのではと思います。コンサルティングやIPO等に昔から力を入れていた印象があるため、期日までにチームでプロジェクトを完成させることも多いことから自然と体育会系という印象がついたと感じます。
PwCは元々青山監査法人や旧伊東会計等の国際的なクライアントを持つ監査法人を前身としている為、業務も国際色が強いというのが特徴です。よって、業務内容も自然と海外関連のものが多く、なんとなく日常会話も横文字が飛び交うことが多いです。
かつてはPwCが就職・転職市場で一人勝ちした時もありました。その時にある人が言っていたのは、「PwCは激務ですが他法人よりも何倍ものスキルが付きます」という言葉です。確かに会計士となった以上は新人の時にどれだけ早くスキルを身に着けるかでその後が決まると言っても過言ではないので、人気が出たのもうなずける話です。
前提として、Big4監査法人は他の監査法人よりも平均年収は高いです。クライアントの規模が大きかったり、専門性が高い業務を依頼されることなどにより案件単価が高いのが、その要因となっています。
そんなBig4の中で、敢えて平均年収の金額をランキング形式でご紹介すると、以下の通りとなります。
一人あたりの平均年収が最も高いのはPwCの889万円ですが、4社とも賞与を除いても800万円前後となっているため、日本の平均年収443万円と比較するといずれもかなりの高額といえます。
ただ、監査法人では勤務する公認会計士の役職が明確に分かれているのが一般的なため、昇進によってその年収額は大きく異なります。以下は、役職別の大まかな年収の目安です。
スタッフ | 450~650万円 |
シニアスタッフ | 600~850万円 |
マネージャー | 1,000万円前後 |
パートナー | 1,500万円~ |
役職が上がるにつれ、責任や業務量・業務難易度などが上がっていくので、それに応じて年収も高くなっていきます。平均年収が高いからと言って必ずしもその年収がもらえるわけではなく、役職についても重要になってくるため、どのようなキャリアパスを描けるのかを含めて就業先を選ぶのがよいでしょう。
また、与えられた役職の給与幅の中で高い年収をもらうために、業務経験を積んだり、語学力をはじめとした監査以外のスキルを併せ持つことも有効な手段の一つといえます。
ここでは、Big4監査法人のそれぞれ得意とする業務分野を比較していきます。
JR東日本をはじめとする電鉄会社や、業績が1兆円を超えるような企業の監査を担当しており、三井グループや住友グループにクライアントを多く持っています。また、大阪や広島など西日本のエリアに強く、監査業務も非監査業務もバランスよく展開しています。
不動産や建築を得意分野とし、他にはメーカーや銀行、学校法人のクライアントを多く担当しています。また、Big4の中では銀行業界の監査を最も多く担当している点も強みといえるでしょう。
企業や小売業をはじめとして、三菱商事・三井物産・伊藤忠商事といった超大手といわれる商社を担当している点が強みとして挙げられます。また非監査業務にも強く、Big4の中でも特にIPOに強みを持っているのも特徴です。
海外のクライアントを得意としており、こちらも非監査業務に強みを持っています。実際、非監査業務の売上高もトーマツに次いで2位となっています。さらに、イギリス本部のPwCグループ会社と提携し、最先端テクノロジーを活かした監査業務を行っている点も、他社と違う強みであるといえるでしょう。
ここではBig4監査法人のそれぞれの規模感を、従業員数やクライアント数、業績で比較していきます。
社員数ではトーマツがトップ、次いであずさとなっております。
こうして見るとPwCの公認会計士の少なさが際立っていますが、一方で非監査業務の比率が高いためUSCPA(米国公認会計士)・その他専門職員の数が1,178名と会計士を上回っていることや、育成採用という形式も設け会計士補の人数・全科目合格者も613名いるという側面もあります。
クライアント数について、PwCのみ2.417社と他のBig4監査法人に比べると少ないものの、1社あたりの収入が非常に高いのが特徴です。
売上高全体の1位はトーマツとなっており、あずさとEYが続いています。PwCについては、上述の通り非監査業務の比率が高いため、監査報酬の部分の売上高は少なくなっています。非監査業務の売上高については、トーマツに次いで第二位となっています。
Big4の日本における事務所と所在地は以下の通りです。
EY | 北海道/宮城/山形/福島/東京/新潟/長野/静岡/愛知/富山/石川/大阪/広島/香川/福岡/沖縄 |
トーマツ | 北海道/宮城/埼玉/東京/神奈川/新潟/富山/長野/静岡/愛知/京都/大阪/兵庫/広島/香川/福岡/沖縄 |
あずさ | 北海道/岩手/宮城/群馬/埼玉/東京/神奈川/新潟/石川/福井/富山/岐阜/静岡/愛知/京都/大阪/三重/兵庫/岡山/広島/山口/愛媛/福岡 |
PwC | 東京/愛知/大阪/福岡 |
それぞれの監査法人によって事業所数は変わっていますが、東京、大阪、愛知、福岡の日本の4主要都市には4つ全ての監査法人があることが分かります。
いずれの法人についても従業員数が多いこともあり、福利厚生はどこも充実しているといえます。どこでも共通したものがある一方で、ユニークな制度を導入している法人もあります。それぞれ見ていきましょう。
以下は、あずさ監査法人の福利厚生の一部です。
特徴的な福利厚生として、「カフェテリアプラン」があります。年間に付与されるポイント内で宿泊施設・スポーツクラブ・エステの利用、健康関連商品・医薬品・チケットの購入など、豊富なメニューから自由にサービスを選択することができます。また16ものクラブ活動があり、法人からの補助も受けながら活発に活動を行っています。
他にもフレキシブル・ワーク・プログラムという、妊娠・出産・育児・介護を理由とする休業や時短勤務が可能な制度も導入されています。
以下は、あずさ監査法人の福利厚生の一部です。
比較的オーソドックスなものが多いものの、不可欠な福利厚生については網羅されています。また、在宅勤務や選択シフト勤務、育児・介護に伴う複線型勤務(勤務時間短縮)など、バリエーション豊かなフレキシブル勤務制度があるのが特徴で、十分に働きやすい制度が整っているといえます。
トーマツの福利厚生についても見ていきましょう。
トーマツの福利厚生の特徴は、なんと言っても福利厚生に関する制度の多さです。ご紹介したのはごく一部で、筆者の印象や調べた限りでは圧倒的な数となっていました。もちろん数の大小で充実度が決まるわけでは無いものの、働きやすい環境であることは間違いないでしょう。
PwCの福利厚生には、以下が挙げられます。
PwCの福利厚生は休暇・休職制度、ヘルスケア支援、PwC Funs(クラブ活動)、子育て支援制度、ワーキングペアレンツ支援に大別され、いずれについても充実した環境を整えています。長期的なキャリア構築の支援を含め、私生活とキャリアをバランスよく築き上げる柔軟な制度づくりを進めています。
結論から申し上げますと、絶対的に「ここがいい!」という断言はできません。それぞれの法人に違った特徴があるからです。そのため、「Big4に行ければなんでもいい」という方を除いては、ご希望にマッチしているかどうかで志望度を分けていく必要があります。
Big4の中でどの監査法人を選ぶのか、迷ってしまうときはご自身が何を大切にして仕事選びをしたいのか問いかけてみてください。それを叶えられる可能性が高い職場を探せば、自ずと選ぶことができるでしょう。
ここではよくあるご希望に沿って、いくつか例を挙げさせていただきます。
こちらについては数値データや企業のHPだけでは明確に分からない部分とはいえ、働くうえでは重要なポイントと位置付ける人も多いでしょう。
もちろん、全ての法人を受けてみて面接で担当者や社内の雰囲気を見るのがベストではありますが、先述したような特性は一定数根付いていると言えます。スキルアップをしたい、とかワイワイした雰囲気で働きたいなどの希望があれば、応募前にそれぞれの社風を参考にしてみるとよいでしょう。
また、いずれの法人も大企業なので、採用HPも充実しています。職場で働く方のインタビューや具体的な働く環境、応募者に求める人物像なども明確にされているので、参考にしてみるのもオススメです。
【各法人の採用HPはこちら↓】
あずさ監査法人│採用HP
EY監査法人│採用HP
デロイト トーマツ│採用HP
PwC Japan│採用HP
冒頭でご紹介した業務内容を見比べても、明確な違いは見えにくいかもしれません。ただ、どの法人も長期的な関係構築をしているクライアントが多い分、それぞれの業務の違いも見て取れます。最も特徴が出るのがコンサルティング業務です。
あずさ | RPA系 |
EY | コンサル全般 |
トーマツ | 業務系コンサル |
PwC | 財務系コンサル |
コンサルティングは非監査業務の醍醐味と感じる方も多いため、どのようなコンサルティングをしたいかによって目指す法人を決めるのもよいでしょう。
Big4の特徴として、複数の拠点を持っていることが挙げられます。ただ、東京、大阪、愛知、福岡を除くと、希望の勤務地に拠点が無い法人も存在します。「地元に戻って仕事をしたいが、規模感が大きく安定した法人で働きたい」など、勤務地へのこだわりが強い人であれば、拠点によって事務所を選択するということを考慮に入れてみてはいかがでしょうか。
先述した通り、Big4の中で年収に大きな差があるわけではないので、他にも希望条件がある場合はそちらを優先した方が良いでしょう。ただ、キャリアアップの制度や評価制度が年収を左右することになりますので、自分にマッチした制度かどうかは確認しておきましょう。
ここまで何度もBig4という言葉を使いながら紹介してきましたが、日本にはBig4以外にもたくさんあり、2023年10月時点では日本全国で286法人という調査があります。
これだけある中で、確かにBig4は転職者にとって魅力的な部分が多く、注目されやすい法人ですが、他の中小監査法人への転職もそこでしか味わえない経験が積めます。
以下のようなBig4監査法人で働くメリット・デメリットを踏まえて、ご自身の希望がより叶えられる監査法人を目指すのが良いでしょう。
Big4の監査法人に転職すると主に以下2つのメリットが挙げられます。
中小監査法人に比べて、Big4監査法人の方が高年収を得られる傾向にあります。昇給により異なりますが、Big4監査法人の平均年収の800~900万円に比較して、中小監査法人だと600~700万円が平均年収になります。
また、Big4監査法人では中小監査法人では取り扱わないような大手企業の高度な業務を経験することができる点もメリットとして挙げられます。その分求められる業務のレベルも高いですが、国際税務や大規模M&Aなどを通じてやりがいを感じることができるでしょう。
一方、Big4監査法人で働くうえで以下のようなデメリットを挙げることができます。
中小監査法人は分業するほど人数がいないこともあるので、幅広い業務を行うことができますが、Big4監査法人は基本的に分業制のため、業務範囲が狭いという点がデメリットとして挙げられます。これはクライアントが大企業であるため、担当範囲をわけるのは仕方がないですが、全体像がわからない状態で監査を行わなければいけない場合もあり、またクライアントへ貢献している実感が湧きづらいということもあるでしょう。また、繁忙期には業務が集中することも多く、中小監査法人に比べて激務になる可能性が高いです。
ここからは、Big4監査法人への就職・転職について、採用市場動向や成功させるポイントなどをご紹介します。
公認会計士試験に合格された方のほとんどが監査法人に就職するため、その中でも業績や規模が大きいBig4監査法人の人気は非常に高いといえます。ただ、会計士業界の採用市場は2013年ごろから売り手市場の傾向にあり、Big4監査法人に限らず多くの監査法人で積極的に採用が行われています。特にBig4監査法人では、日本を代表するクライアントを多く担当し、高い業務品質を求められるため、優秀な人材を積極的に採用している傾向があります。
《参照記事》
上述の通り、Big4監査法人は監査業界の中でも非常に人気が高いですが、それだけ選考の難易度も上がります。Big4監査法人の選考において重要なことは、上述のそれぞれの特徴を知り、違いを押さえたうえで、どうして他のBig4ではなく応募先で働きたいのかという志望動機をしっかりと考えることがまず重要です。
さらに、他の求職者より有利に就職・転職活動を進めるために、必要なスキルや経験を積むことも大切です。Big4に限らず監査法人の就職・転職に有利な資格として、公認会計士やUSCPAが挙げられます。ただ、資格だけあっても必要なスキルがなければ雇ってもらうことは難しいでしょう。
そのため、クライアントとの密なコミュニケーションをとるためのコミュニケーション能力であったり、プレゼンテーション能力、また分析力が業務遂行のために求められます。
Big4監査法人で求められるスキルなどについては、以下の記事でも詳しく紹介していますので併せてご参照ください。
《参照記事》
4大監査法人のそれぞれの社風は一般的に言われていることであり、実際は部署、都市、担当クライアントによって全く異なるため、人材エージェントなどリクルーターに詳しく聞くことが重要でしょう。ただ、大手だけあってどこに入っても失敗したとはならないはずですので、ご安心いただければと思っています。
ヒュープロでは、公認会計士をはじめとしたBig4監査法人への転職希望者のご支援実績も多くございます。
幅広い求人の中からご希望にマッチした案件をご提案するだけでなく、書類添削や面接対策なども手厚くサポートさせていただきますので、ぜひご相談からお待ちしております!