士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所|HUPRO MAGAZINE
士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所

カテゴリ

移転価格税制とは?誰でもわかりやすく解説します!

HUPRO 編集部
移転価格税制とは?誰でもわかりやすく解説します!

同じグループ内に属する企業が取引を行なう場合、比較的自由に価格を設定することができます。しかし、通常の市場取引価格よりも高い価格で海外のグループ企業に何らかのものを販売すると、日本国内の企業の所得は高くなり、海外企業の所得は低くなる結果、それぞれの国に納める税額に差が出るようになってしまいます。これを是正するための制度が移転価格税制です。日本では、国税庁が移転価格税制を管轄しています。今回は、そんな国税庁の移転価格税制について詳しく解説していきます。

移転価格とは

移転価格税制を説明する前に、まず移転価格とは、グループ企業内の取引価格のことを言います。英語では、transfer pricing taxationということから、略して『TP』と呼ばれることもあります。
海外のグループ企業との取引価格は「移転価格」と呼ばれ、一方、グループ企業では第3者との取引価格は、「独立企業間価格」と呼ばれます。法人とその国外関連会社との取引価格は、様々な理由から独立企業間価格とは異なる価格で行われることがあります。

移転価格税制とは

独立企業間価格と異なる金額をグループ企業内の価格に設定している場合、海外のグループ企業との取引を、実際の移転価格ではなく、独立企業間価格で行われたものとみなして課税する税制が「移転価格税制」です。

移転価格税制は租税特別措置法により下記のように規定されています。

当該法人が当該国外関連会社から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連会社に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、(中略)当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす。

租税特別措置法第66条の4第1項

たとえば、海外の子会社が税率の低い国になる場合、移転価格を抑え、子会社に利益が出るようにすると、グループ企業全体での税額を意図的に減らすことができます。日本の自動車メーカーが、米国の販売会社に対して独立企業価格よりも高い値段で車を輸出した場合、その乗用車の製造原価および小売価格が一定であると仮定すると、独立企業間価格で輸出された場合と比較して、日本における自動車メーカーの所得が増加し、逆に米国の販売子会社の所得は減少することになります。

結果として、米国の販売子会社の法人所得税収が減少することになるので、その場合、米国の税務当局は米国の販売子会社に対して、この取引を独立企業間で行われたとみなして課税を行なうことになります。

つまり、グループ内の海外企業との取引が行われる場合、親子間での取引価格は比較的自由に設定することができるので、それを調整することによって本来は日本で課税されるべき利益を海外へ移転することもできるというわけですが、それを阻止するためのものが移転価格税制です。

《関連記事》

移転価格税制により国外への利益流出を防ぐ

日本の税務当局である国税庁は、国内企業からしか税金を徴収することができないので、移転価格を操作することによって海外に利益が移転した際に、税金を徴収することができなくなってしまいます。こうした日本から海外へ利益を移転することを防ぐための制度が移転価格税制です。そのため、日本国内における取引や日本の企業の海外支店などは移転価格税制の対象とはなりません。移転価格を操作すれば、他国へ所得を移転することができるので、これを防ぐ目的で日本だけでなく、世界中のほとんどの国が移転価格税制を行っています。

国税庁では、移転価格を取り巻く環境変化の下、移転価格税制に関する納税者の自発的な税務コンプライアンスを高めることを目指し、取組方針、具体的な施策を見直すとともに、納税者の予測可能性や行政の透明性を向上させるため、平成29年に「移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~」を公表しました。
参照:国税庁HP|移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~

移転価格税制はOECDによるガイドラインに沿って作成されている

日本における移転価格税制は、OECD移転価格ガイドラインにおいて、国際的に認められた方法です。OECD移転価格ガイドラインは、適切に各国の課税権を配分し、二重課税を回避することを目的として作成されています。

そのなかでは、移転価格の算定方法および移転価格課税問題の解決方法が示されており、税務当局間もしくは税務当局と多国籍企業との紛争を最小化し、企業活動の円滑化に貢献します。日本の移転価格税制では、企業と国外関連会社の間の取引に付されている価格を対象として、移転価格税制が組み立てられています。

《関連記事》

海外に子会社を設立すると

日本の企業が海外に子会社を設立し取引をはじめると、企業の規模や取引量とは関係なく移転価格税制を考慮しなければなりません。税務価格税制の対象となる取引は、資産の販売、資産の購入、役務の提供、その他の取引で第3者であれば対価を当然もらうすべての取引(国外関連取引)です。たとえば、商品等の輸出入、特許や商標、ノウハウといった無形資産の売買や使用許諾、経理や人事の代行、各種技術指導などのサービス、融資の保証など、日本から海外に利益が移転している取引がすべて移転価格税制の対象となります。独立企業間価格を算定する場合、比較可能な独立企業間取引が存在している商品であれば、比較的容易に算定できるものの、取引対象がユニークな商品や無形サービスなどであった場合、独立企業間取引価格がないため、価格を算定することが非常に難しくなります。

移転価格課税リスクを回避するためのAPA

移転価格課税リスクをあらかじめ回避することを目的として、実際の取引よりも前に、企業が税務当局との間で国外関連会社との取引価格が独立企業間価格であると確認できる制度があり、これは、APA(Advance Pricing Arrangement)と呼ばれています。日本にも、pre-confirmationと呼ばれる事前確認制度がありますが、たとえ税務当局が確認していたとしても、更生処分など所得再計算が行われることがあるので注意しなければなりません。

《関連記事》

移転価格税制における経理担当の役割

移転価格が関わる取引において、経理担当者としてはどのようなスキルが求められるのでしょうか。移転価格を伴う場合、当然、税理士が難しい処理について行いますが、経理担当者もある程度理解はしておく必要があります。例えば、経営陣も移転価格について分からないという場合がほとんどなので、なぜこのような処理になるのかと聞かれたときに説明できる必要があります。まずは英語の経理書類について抵抗無く読めるようにして、国税庁から出ている移転価格の関連情報についてもきちんと確認をしておきましょう。
参考:国税庁HP|移転価格税制関連情報

移転価格税制などの国際税務の知見がある経理担当者は、日本企業の海外進出が増え今後ますます評価されます。最近は小さいベンチャー企業でも積極的に海外進出が行われ、海外取引に対応できる経理担当者の需要が上がっています。

《関連記事》

移転価格税制を専門に扱う移転価格コンサルタント

経理担当者として移転価格税制を理解し、最低限は自社内で対応できることが求められますが、やはり専門性を伴いますので、経理担当者だけでは対応できない部分も当然出てきます。そのため、様々な事例に基づき、クライアント企業の適正な移転価格の金額設定をアドバイスする移転価格コンサルタントという仕事があります。主に税理士事務所の仕事内容となり、BIG4を中心に国際税務の案件は増えていますが、中小規模の事務所でも単なる記帳代行や税務申告代行だけでなく、このような国際税務の需要は高まっていて、移転価格コンサルタントが活躍する場が増えてきています。
移転価格コンサルタントについてはこちらのコラムで詳しく紹介しています。

《関連記事》

おわりに

日本でも国税庁が移転価格税制を整備してきました。結果として、現在は、OECDの移転価格ガイドラインにも認められています。近年では、グローバル化によって積極的に海外進出を行う日本企業も多くなったことから、移転価格税制の対象となる取引も増えています。こうした国際的な取引の透明性を高めるためにも、移転価格税制税制は大切な制度です。

この記事を書いたライター

HUPRO MAGAZINEを運営している株式会社ヒュープロ編集部です!士業や管理部門に携わる方向けの仕事やキャリアに関するコラムや、日常業務で使える知識から、士業事務所・管理部門で働く方へのインタビューまで、ここでしか読めない記事を配信。
カテゴリ:用語解説

おすすめの記事