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持株会の仕組みとは?|現役公認会計士がメリット・デメリットを解説

HUPRO 編集部
持株会の仕組みとは?|現役公認会計士がメリット・デメリットを解説

近年、従業員の福利厚生制度や報酬の支払方法は多様化しています。必ずしも報酬はお金で払われず、福利厚生の内容も変化しています。当記事では、企業の福利厚生や報酬支払のために用いられる「従業員持株会」について立場ごとのメリットとデメリットを解説します。

従業員持株会とは

従業員持株会とは、福利厚生のために、従業員に自社株を取得させる制度のことです。日本版ESOPを含めると、従業員持株会は主に3種類があります。

① 従来型の持株会制度

従来型の持株会制度とは、持株会に加入している従業員の給与等から、定期的に一定額の拠出金を引去り、引去額を拠出金として、従業員に自社株を取得させる制度です。この制度では、企業は株を従業員の代理で取得します。株は従業員の所有物になるため、株価の上昇下落による損益は従業員に帰属します。

② 持株会型の日本版ESOP

ESOPとは、Employee Stock Ownership Planの略であり、アメリカ発祥の制度です。仕組みは次の通りです。まず、企業が信託(持株会)に対して事前に資金を提供します。信託(持株会)は、その資金で企業の自社株をまとめて購入します。購入した自社株は、従業員の給与等から引去られる拠出金に応じて従業員に割り当てられ、従業員は割当分の株が取得できるという仕組みです。

従業員の給与等の一部が拠出金になる点では、従来型の持株会制度と同様の仕組みです。一方で、数年後に損益が生じた場合、評価益は従業員に利益還元されるが、評価損が生じた場合は損失を企業が補填する点で相違します。

③ 株式付与型の日本版ESOP

事前に委託者である企業が信託(持株会)に対して資金を提供して自社株式を取得し、一定の要件を満たした従業員に退職金等の形で信託(持株会)の取得した自社株を支給する仕組みのことです。株式付与型も評価損が発生した場合は、従業員に帰属する株の損失は企業が補填します。

ストックオプション制度とは

従業員等に対する報酬制度として、ストックオプション制度があります。ストックオプション制度とは、企業が従業員等に対して、労働の報酬として新株予約権を付与する制度のことをいいます。

権利行使するためには、一定の条件が付されていることが通常であり、権利確定後に新株予約権の行使ができます。
ストックオプション制度では、将来の株価が権利行使価格を上回った場合は、従業員は利益を受け取ります。一方で、将来の株価が権利行使価格を下回った場合は、従業員は、株を取得するための権利を放棄することで損失を回避することができます。

持株会に入るメリットとデメリット〜従業員の立場編〜

従業員が持株会に加入するメリットは、次の二つがあります。

メリット①:福利厚生制度下で自己資産を形成できる

一つめのメリットは、企業の福利厚生制度の下で、従業員が自己資産の形成をすることができる点です。引去額に企業が一定の割増金を乗せることで、従業員が取得できる株数を増やしてくれる企業もあります。

メリット②:日本版ESOPの場合、元本がある程度補償される

持株会型の日本版ESOPの場合は、将来の株の損失を企業が補填するので、株の元本がある程度保証されます。また、株式付与型の日本版ESOPの場合は、従業員は退職金として企業の株式を取得することができる上に、将来の株式の損失についても企業により補填されます。

従業員にとってのデメリット

デメリットは、仮に勤務先の企業が破綻した場合、従業員は職を失ってしまうのと同時に、保有する自社株の価値も失ってしまうことから、リスク分散が十分に行えない点です。福利厚生としての議論になることが多いので、あくまで単純な投資対象としてみた場合ですが、非常にリスクが大きい選択肢になるでしょう。

持株会に入るメリットとデメリット〜企業の立場編〜

持株会導入のメリット①:強いインセンティブ効果

一つ目のメリットとして、持株会制度は従業員に対して強いインセンティブ効果があります。従業員は、保有する自社株の価値を高めたいので、モチベーションを高く持って仕事をこなしたいと考えるようになります。

持株会導入のメリット②:安定株主を得ることができる

従業員に株を取得させることで、長期的に安定して株主を保有する「安定株主」を得ることができる点もメリットといえます。安定株主を得ることで、短期的に市場に左右されにくく、中長期的な施策を行える点や、敵対的買収を難しくさせる効果があります。

持株会(日本版ESOP)のデメリット①:業績低迷時に企業の損失が増加する

業績低迷時において企業の損失が増加してしまう点です。業績低迷により株価が下落した場合、企業は従業員の保有する株の損失補填をしなければいけません。業績低迷による損失に加えて、株の損失補填を行うので、企業にとっては二重苦となります。

持株会(日本版ESOP)のデメリット②:会計処理が煩雑になる

会計処理の煩雑になる点もデメリットです。日本版ESOPの場合は、将来に損失が発生する可能性があることから、所定の要件を満たす限りにおいて、拠出金の総額を貸借対照表に計上しなければなりません。また、有価証券報告書に注記することも求められます。

詳細な会計処理は、「実務対応報告第30号従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取り扱い」をご参照ください。

ストックオプションとの比較

従業員が、従来型の持株会制度を利用する場合は、拠出時に株式の取得が行うことから、将来的に株価が下落して損失が発生する可能性があります。一方で、ストックオプション制度により新株予約権を取得する場合は、将来的に株価が下落した場合は、ストックオプションの権利を放棄してしまえば損失の発生を防ぐことができる点で相違しています。

また、日本版ESOP(持株会型と株式給付型のいずれも)の場合においては、その損失の補填を企業が行ってくれることから、従業員の立場からは、ストックオプションと同様に、株価下落のリスクを回避することができます。

持株会はメリット・デメリットを理解して導入をしよう!

ここまでご紹介した通り、持株会はメリット・デメリットが存在し、後戻りしにくい選択肢のため導入には非常に慎重な判断が必要となるでしょう。従業員には大きな福利厚生の一つになり、企業にとってもリスク回避のための良い制度になる場合もあるため、従業員にとっても企業にとっても Win-Win の制度として普及することを祈っています。

この記事を書いたライター

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