有利子負債という言葉は、企業分析の際や決算短信の文中によく出てくる言葉です。今回は、有利子負債にはどのようなものが含まれるか解説するとともに、どのような場面で使われるかを解説します。
有利子負債とは、利子を支払う義務のある負債を言います。具体的には、借入金、社債が代表的な例ですが、リース債務や割賦債務も有利子負債に含まれます。リース債務は一見利息を伴わない債務のように見えますが、実際に物品をリースすると本体価格に利息を上乗せして支払うこととなるため、有利子負債と言えます。また、リース会計において原則法を採用すると支払リース料は減価償却費と利息費用に分解される為、実際に財務諸表にも利息が計上されることとなります。
一方で有利子負債ではない負債というと、買掛金、未払金、未払費用等の利子を伴わない負債を指します。
この有利子負債が多いかどうかだけで経営状態を判断するのではなく、あくまでも会社全体のバランスとして有利子負債が適正であるかどうかで経営状態を判断することとなります。
では、有利子負債を用いた経営分析指標としてはどのようなものがあるのでしょうか。
まず、代表的な指標としては、有利子負債比率があります。有利子負債比率は、有利子負債を自己資本で割って求められます。これは、金利を伴う他人からの借入と、株主からの出資や過去の利益の積み上げとの比率を算出することで、企業が他人からの借入にどれだけ依存しているかを示す指標となります。
似たような指標として自己資本比率がありますが、自己資本比率は総資産に占める自己資本が占める割合を出すものなので、買掛金や未払金など通常の企業活動において発生する負債も考慮されるため、外部調達資金という観点からは若干異なります。
次に、有利子負債月商倍率の計算についてご紹介します。
有利子負債月商倍率は、有利子負債残高を月商(1か月の売上高)で割って求められます。有利子負債月商倍率が高いほど1か月の売上高から有利子負債の返還に充てられる資金が多くなると言え、反対に有利子負債月商倍率が低いほど有利子負債の返還に充てられる資金は少なくなると言えます。
有利子負債月商倍率が低いほど安全な企業であると言えますが、売上高との比較となるため、大型の設備を販売している会社とサービス業では倍率に開きが出ると考えられます。その為、利益率も考えながら分析をすることが望ましいとされています。
債務償還年数というのも有利子負債を用いた企業分析方法の一つとなります。
債務償還年数は有利子負債残高を営業キャッシュフローで割って求められます。キャッシュフロー計算書を作成している場合は普通に営業キャッシュフローを用いることができますが、中小企業のようにキャッシュフロー計算書を作成していない会社の場合は、営業利益に非現金支出項目(減価償却費等)を足して計算されます。
債務償還年数は主に銀行が企業を評価する際に使ったり、企業を買収する際に使ったりする指標となります。
もちろん、債務償還年数が短ければ短いほど企業の安全性は高いと言えますが、成長をもくろんで大型の投資をした場合で、将来の営業キャッシュフローが急上昇することが考えられる場合は成長性を見込んで優良企業とみなすこともあります。
有利子負債というと、金利を伴う負債であるため敬遠されがちです。確かに一般的には有利子負債は少なければ少ないほど良いとされることが多いです。
しかし、自己資本で調達するよりも有利子負債で調達したほうが企業にとってメリットがある場合があります。自己資本つまり株主からの出資には、配当などで還元しなければならなくなります。配当は利益の20%等、利息に比べて多額の資金が必要となることもあるため、節約という意味でも有利子負債の方がメリットのある場合があります。
また、配当金をいくら支払っても法人の損金には算入されません。よって、節税効果はありません。しかし、有利子負債であれば支払利息について損金に算入されるため、節税効果が見込まれます。
また、同じ利益を計上するにしても自己資本で調達するよりも有利子負債で調達したほうが自己資本利益率は上昇します。
とはいえ、節税効果や費用面、自己資本利益率の面で有利子負債の方が有利だからと言ってやみくもに有利子負債の比率が上がっていくと、自己資本とは違って定期的に返済をする義務があるため、企業の健全性は損なわれるため注意が必要です。
有利子負債には借入、社債の他にリース債務等も含まれることがわかりました。有利子負債と聞くとデメリットの方が多く見えますが、実際には自己資本とのバランスを考えて節税や節約につながる可能性があるため、企業にとって最適な有利子負債比率を導くのが財務担当者の腕の見せ所ではないでしょうか。