2010年の法人税制の改正により、グループ法人税制が導入され、直接、間接問わず100%資本関係がある会社をグループとして税金計算の際に考慮することとなりました。
ではこのグループ法人税制とはどんな制度なのでしょうか。各項目別に解説をします。
グループ法人税制とは、直接・間接保有を問わず、100%資本関係にある内国法人の間での資産譲渡、寄付及び配当、株式の発行法人への譲渡等について、損金算入できない税制を言います。これらは損益に関する取引ではなく、あくまでも資本に関係する取引として処理することが特徴的となります。
なぜこのような制度ができたかというと、親子間での取引によってわざと税金を減らす動きを牽制させるためだと言われています。グループ法人税制が適用されるまでは、利益の出ている会社から損失の出ている会社に利益を移転させることによってグループ全体としての法人税を減らすことが比較的容易であったと言えますが、このグループ法人税制が導入されてからは容易には利益の移転ができないようになりました。
ちなみに、グループ法人税制は次のような内容で構成されています。
ここからは、各制度について詳細に解説します。
内国法人が譲渡損益調整資産を完全支配関係がある他の内国法人に譲渡した場合に、その譲渡にかかる譲渡損益の計上を繰り延べる必要があります。
譲渡損益調整資産とは、完全支配関係にある法人グループ内で取引された資産のうち、固定資産、棚卸資産である土地等、売買目的有価証券以外の有価証券、金銭債権及び繰延資産で、その資産の譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のものをいいます。
つまり、少額なものは対象とならないので無視すればよいのですが、1000万円以上の資産を譲渡した際は注意が必要です。
例として、帳簿価額6000万円の減価償却資産を100%子会社に1億円で譲渡して、4000万円の譲渡益が出た場合、減価償却に合わせて譲渡益を益金参入します。具体的には、償却期間5年であるとすると1年間の減価償却費は2,000万円となり、1年間で計上される譲渡益は800万円となります。
内国法人が完全支配関係のある他の内国法人に対して寄附金を支出した場合には、支出した法人では寄附金の全額が損金不算入となり、受領した法人では受取寄附金の全額が益金不算入となります。
ちなみに、寄附金は単純に金銭のやり取りだけではなく、相手の経費を肩代わりすることや無償の供与についても含まれます(無償で子会社が行うべき業務を行うなど)また、資産の譲渡について通常見込まれる対価をやり取りせずに格安で行った場合なども通常金額との差額が寄附金となる可能性もあります。よって、まず寄附金に該当するかどうかを検討し、その上でグループ会社間であるかどうかで寄附金の損金または益金不算入となるかどうかを把握する必要があります。
適格現物分配により親子間で資産が移転した場合、譲渡損益の計上を繰り延べます。ここで、適格現物分配とは内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者がその現物分配の直前においてその内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであるものをいいます。
簡単に言えば、100%子会社から親会社に現物配当をした場合、通常はその資産の時価で配当が行われたと仮定するのですが、取得原価のまま親会社に移転させることができるという制度です。親会社側においても帳簿価額のまま受け入れることとなります。
通常、対応する借入等に対する利子を控除して配当金の益金不算入金額を決定します。しかし、100%グループ法人の場合はその負債利子を控除せずにそのまま全額を益金府三優とすることができます。
ただし、配当の計算期間全てにおいて100%子会社である必要があります。例えば、3月決算の会社の年度配当であれば、4月1日から決算日まで100%子会社である必要がありますし、中間配当であれば4月から9月まで100%子会社である必要があります。年度の途中で子会社になった会社からの配当には不適用となる可能性があるため注意が必要です。
100%グループ内の内国法人の株式を、その株式を発行法人に対して譲渡する場合には、その株式の譲渡損益を計上しません。簡単に言うと、自己株式をグループ間で譲渡した場合には譲渡損益が発生しないということとなります。
これは、先ほどお話したグループ間での資産の譲渡損益を繰り延べた制度と整合性を持たせるために設けられました。
この他、100%グループ法人では親会社の資本金が5億円以上の場合は例えその会社の資本金が1億円以下であったとしても中小企業の特例が適用できなくなります。
具体的には、次のものが適用できなくなります。
・法人税の軽減税率
・特定同族会社の特別税率の不適用
・貸倒引当金の法定繰入率の利用(貸倒実績率のみ使えるようになります)
・交際費等の損金不算入制度における定額控除制度(飲食費の2分の1等は使えます)
・欠損金の繰戻しによる還付制度
グループ法人税制が適用されると様々な損益が計上されるだけではなく、別表の書き方も複雑になります。また、中小企業の特例が使えなくなることで実質増税となる可能性もあります。よって、最終的にどのくらいの税負担、事務負担が増加するかを勘案してグループを編成する必要があります。