税理士は中小企業の税務・会計を担当するため、会計面をきっかけに中小企業の経営全体をコンサルティング業務を求められている事が増えてきています。
今回は、税理士が行う経営コンサルティング業務の特徴や税理士が経営コンサルティング業務をできることによるメリット、オススメのキャリアパスについてまとめてみます。
経済成長を遂げている時代は、会計事務所を構え「税務顧問」サービスを提供するだけで、紹介も発生し、お客様に困らないことがほとんどでした。しかし、近年は税務・会計業務だけでは他事務所と提供価値が変わらず、チャットツールやクラウドソフトの発展により地域の優位性も行かせなくなってきたため、「税務顧問」サービス以外の中小企業経営を支える付加価値を提供する必要が出てきています。
差別化のために、他士業とのダブルライセンスや会計ソフトライセンスの習得を目指す税理士は増えており、経営コンサルティング業務はそれらの資格と同等かそれ以上の付加価値となることがございます。
また、近年では、AIの発展も盛んに行われており、現在多くの税理士事務所や税理士が提供している記帳代行業務は人間が行わずとも、AIが自動的に行ってくれるようになると言われるようになっています。完全自動のAIの開発はまだまだ先のこととは言え、すでに会計ソフトや会計システムの発展により、専門的な知識がなくとも記帳すること自体はできるようになっています。こうなると、わざわざ税理士事務所や税理士に記帳業務を依頼すると、コストが嵩んでしまうようになるので、誰も記帳代行業務を依頼しなくなる未来が予測できます。もしそのような世界となれば、税理士は必要とされなくなってしまうでしょう。だからこそ、税理士は現在の売上の中心となっている税務顧問サービスや記帳代行業務だけではなく、経営コンサルティング業務のような付加価値の高いサービスを提供しなければなりません。
税理士事務所が主に行っているのは、税務顧問サービスです。税務顧問サービスを提供するために、担当税理士は、担当企業の財務諸表のサポートをしていることがほとんどです。つまり、税理士事務所には、担当企業の財政状態や経営成績といった企業の重要な情報にアクセスすることができるのです。税理士事務所には、通常はアクセスすることのできない情報があるわけですから、これを生かさない手はありません。税理士は税務の専門家であるものの、簿記・会計の知識もあるわけですから、財務諸表から担当している企業が置かれた状態を読み取ることができるはずです。企業が置かれた状態がわかれば、担当企業が改善しなければならない点や、今後、取り組まなければならない課題も見えてくるようになります。
一般に、経営者は会計に詳しくないことから、会計情報を読み取ることができません。そのため記帳業務や税務顧問業務を依頼している税理士事務所や税理士に、自社の財務諸表の分析を通じて、アドバイスして欲しいと思っているはずです。依頼している税理士事務所や税理士以外のところで経営コンサルティングを依頼してしまうと、単純にコストが嵩んでしまうことがほとんどです。
コストの問題に加えて、経営コンサルを依頼することができるところを改めて探さなければならず、それには大きな手間がかかります。しかも、大きな手間をかけたとしても、自社にとって有益なアドバイスをしてくれる経営コンサルが見つかるとは限りません。有益なアドバイスをもらうために、優良なコンサルティング企業を探してアドバイスを求めても、通常は高額のコンサルティング料の支払いが必要となるので、特に中小企業のような資金繰りに余裕がないところには、サービスを利用する余裕がありません。
だから、経営者としては、すでに税務顧問や記帳業務を依頼していて、自社の経営状態を把握できている税理士事務所や担当税理士が、経営コンサルができるのであれば、そこに依頼したいという一定のニーズがあるということになります。
税理士が経営コンサルティングができるようになるメリットとして、まずは顧問先の財務状況を正確に把握できるという税理士の業務特性を活かせるという点があります。中小企業の場合、経営者のみが自社の経営について把握している場合がほとんどで、外部の専門家等の力を借りている事はほとんどありません。
経営者は対外的な対応等も多く、フラットな目線で自社の経営状況を見る余裕がないため、財務状況を把握している専門家にフラットに経営のアドバイスをしてもらえることが大きな付加価値と感じられるようです。
また、税理士は多くの中小企業の経営を把握しているため、他企業での事例や知見を還元する事もできます。
実際、税理士が「顧問料が低いから」という理由で選ばれる事は年々減ってきており、コンサルティング力のある税理士がある程度高い顧問料でも選ばれることが増えてきています。
経営コンサルティング業務は、会社の経営状況を分析・判断し、現在の経営施策の提案や将来的な経営対策についてのアドバイスをすることがメインの業務になります。したがって、情報に基づき仮説を立て分析する能力や、きちんと経営者の話を聞き情報を整理する能力が必要です。
経営者が将来どのような事業計画を持っていて、その事業計画の実現可能性を定量的に数字で表現し、実行可能で具体的な仕組みを作っていかなければなりません。たとえば、経営者が5年後には現在の倍の売上高にするような事業計画を持っているとしたら、経営コンサルタントとしては、その事業計画の妥当性をまずは疑ってみる必要があります。その事業計画が実現可能であるかどうかは、その企業が保有している資産、従業員数などから定量的に算出しなければなりません。
そして、実現可能であるとしても、それを達成するためにどのような課題があるのか、さらにどのようなリスクがあるのかを経営者に対して説明できるようにしなければなりません。そのうえで、経営者とともに、事業計画を実現するための仕組み作りをする必要があります。目標を掲げることは誰にでもできることで、実際に難しいのはその目標を達成するための手段を考えることです。経営コンサルティング業務では、経営者とともに、目標を考え、その目標を達成するための手段を考えていく能力が求められることになります。
近年では、国家間における税制度の違いが企業にとっての税務リスクとなっています。国家間の税制度が複雑化しており、また、それぞれの国家の税制度に差異があるため、きちんと税制度を理解していないと、企業は思わぬ税務リスクを抱え込むことになります。たとえば、日本と外国の税法が異なることから、二重に税金が課されるなどの国際間の税務的な問題が生じることがあります。こうした税務問題は、企業の利益額に大きな影響を与える可能性があるため、税務面での取り扱いはしっかり検討しておかなければなりません。しかし、企業だけでこの問題に対応しようとすると、社内にその専門的な知識を持つ個人あるいは部門が必要となり、コストがかかってしまいます。だからこそ、税の専門家である税理士に経営コンサルティング業務を依頼することによって、税務リスクを抑制しようとしているわけです。
一方で、税理士の場合は、税務申告や節税対策・帳簿作成などの業務がメインで、知識に基づき的確な処理をすることが必要なため、知識をきちんとインプットすることと、それに応じて的確に処理する能力が求められます。各種税法の規定に基づいて正確に税額を計算することが中心的なサービスとなるので、経営者と頻繁にコミュニケーションをとらずとも、税理士がしっかりしてさえすれば、サービスは完結することになります。極端なことを言えば、経営者とコミュニケーションがなくとも、税理士業務は完結させることが可能です。
税理士は、国家資格保有者であり、税務及び会計の専門家です。上記のように、主として税務及び会計に関する業務を行うケースが多いです。一方、コンサルの仕事は、会社経営に関連する事柄について助言や提言を行うことなどです。そのため、税理士の専門知識や経験を的確に活かせばコンサルとしての大きな武器になります。
税理士に期待されるコンサル業務として、税金及び会計だけでなく、税金及び会計に関連する領域である起業、経営計画、財務、株式公開、M&A、事業承継、組織再編、事業再生などの分野についての助言・提言などが考えられます。
税務コンサルティングと聞くと一番に思い浮かべるのが節税対策ではないでしょうか。税理士は間違いなく正確に税金計算することが求められていますが、顧客からすると節税のアドバイスも欲しいというのが本音です。
ただし、節税対策をやりすぎることは税理士にとってリスクが高くなることにもつながりますので注意が必要です。税理士は税務署と日々やり取りをしなければならず、一度極端な節税対策をしてしまうと、税務署から目をつけられて税務調査に入られやすくなるといったデメリットが生じてしまいます。
税務デューデリジェンスとは、M&Aなどの際に対象会社の税務申告書をレビューし、税務上の問題点を明らかにする業務のことです。税務申告書をただ眺めるだけではなく、対象会社のビジネスを理解し、経営者インタビューを行い、市場競争環境も理解したうえで総合的に問題点を洗い出します。
税務デューデリジェンスにより問題点を明らかにするだけでなく、その問題点をどのように解決するかのアドバイスも行います。例えば、買収先に多額の未払税金があった場合、M&Aの金額交渉を行うようにアドバイスを行うケースなどが考えられます。
M&Aを行う際、株式譲渡、合併、会社分割、株式移転、など様々なスキームが考えられます。そのスキームによって、払うべき税金は大きく異なる場合があります。例えば、合併であれば、適格合併か非適格合併なのかにより税務の取り扱いは全く違うものとなります。
そのため、税務デューデリジェンスとは他に、スキームに関するアドバイスも同時に提供する場合があるのです。M&Aのスキーム選択は、一度選択してしまうと後戻りができず、かつ、影響が大きいものとなりますので、M&Aのプロジェクトが大きければ大きいほど、仕事の責任は重いものとなります。
日本の税務だけでも膨大な知識が必要ですが、海外も含めるとより深い知見が必要です。そのため、税理士で国際税務コンサルティング業務を行っている場合、海外の税理士事務所やファームと提携していることが通常です。
現地の税務は現地のプロフェッショナルに聞かないと正確には分からないためです。日本に本社を構えて輸出事業を行っている場合、反対に外国人が日本で事業を行っている場合、などグローバル化していく世界において、国際税務コンサルティング業務は重要性を増していくものと考えられます。
税金の問題は一般的なビジネスマンよりも、資産を数億円規模で持っている富裕層の方が大きいです。日本において、所得税は累進課税制度をとっており、資産や収入が大きければ大きいほど多額の税金を支払わなければなりません。そのため、税理士が富裕層に対して、節税を中心とした総合的な税務コンサルティングサービスを提供することもあります。
このように、税理士に求められる業務・スキルと、経営コンサルティングで求められる業務・スキルは違うため、税理士と経営コンサルティング業務の親和性が高いからといって、全員ができるとは限りません。知識面では、両者に共通する必須知識や、経営コンサルティング業務に活かしやすい知識はあるものの、向き不向きがあるのも事実です。
・内勤業務よりも外勤業務の方が好きな方
・事業や経営に興味がり、税務分野に限らず情報収集している方
・税理士としての業務に飽きている方
適性はやってみないとわからない部分もありますが、上記にあてはまる税理士はコンサルティングへの適性が高い傾向にあるため、心当たりのある方はチャレンジしてみてください。
税理士に限らず、一般的に、コンサルに必要な能力の一部を以下に挙げます。
・経営に関連する分野での幅広く深い知識
・クライアントの本質的な課題を見出し解決する能力
・コミュニケーション能力
税理士の場合、会計や税務に関する知識については一定以上お持ちの方が多く、知識面では条件をクリアしていると言って良いでしょう。
一方、クライアントの本質的な課題を見出し解決する事に関しては、単に様々な知識を持っているというだけでなく、より深い洞察や理解が必要です。例えば、一般に売上高粗利益率は高い方が良いと言われています。しかし、クライアントの業務実態から考えて非合理に高い場合は、費用に関する情報を提供し忘れているか、意図的に隠ぺいしているという可能性があります。または、多額の残業代が費用として認識されていない、もしくは、費用として認識はされていても不当に未払いとなっているなど労務関係に非常に大きい問題が存在することを示唆しているのかもしれません。
こういったことを総合的に判断し、クライアントの課題を多角的な見地から発見する力がコンサルには必要です。転職活動においても深い分析力や考察力があるかどうかを見られることになるでしょう。
コミュニケーション能力についてはコンサルに限らず社会人として色々な場面で期待される能力です。コンサルの場合は会社情報をクライアントから引き出したり、こちらからの助言・提案をしっかりと伝える際に、特に必要になります。
経営コンサルティングのスキルを高めたい税理士にオススメのキャリアパスは、コンサルティングファームと中堅税理士法人の二つになります。
コンサルティングファームでは、コンサルティング業務を専門に活躍してこられた方が社内におり、自身のスキルもコンサルティングに特化して磨くことができます。特に、税理士などの知識を持っていると社内でも頼りにされやすく、案件を任せてもらいやすいため、社内でのキャリアアップもしやすいです。
中堅税理士法人については「様々な規模の企業経営に税務顧問という切り口から携わりやすい」ことがオススメの理由になります。大手税理士法人は部署が縦割りになっており、一般論にはなりますが、顧客の担当者も経営者でないことがあるため、多くの企業の経営コンサルティングに携わる事はあまりなく、逆に小規模の会計事務所の場合は経営コンサルティング以外の業務にも手を取られるため、コンサルティングのスキルを高めたい方にはオススメではありません。
特に税理士法人でコンサルティング業務のスキルを伸ばしていきたいという方は、税理士法人ごとの業務内容や方針をきちんと知った上で転職する必要があるため、きちんと情報収集をした上でキャリアを選択しましょう。
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