リーマンショック直後には年間20社ほどまでに落ち込んだ株式公開企業も、現在では90社程度まで回復しています。株式公開をする企業が、どのような企業なのかを知るために重要な資料が目論見書です。その株式公開の成否の鍵ともいえる目論見書について、分かり易く解説していきます。
目論見書については、金融商品取引法第2条に定義が明記されています。
「目論見書(もくろみしょ)」とは、有価証券の募集もしくは売出し等のために、当該有価証券の発行者(すなわち株式公開企業)の事業その他の事項に関する説明を記載する文書で、相手方(すなわち投資家)に交付し、または相手方からの交付の請求があった場合に交付するものをいいます。
つまり、この目論見書を読めば、新規株式公開をする企業の全容を理解することが出来る資料ということになります。ですから、その企業の株式を買おう!と思っている投資家の方は当然一読すべきです。そして、株式公開準備業務に興味があり、その業務をやってみたいと思っている転職希望者などにとっても、とても有用な資料となります。
目論見書は100ページを超える膨大な情報量です。これを、隅から隅まで読んでも、「結局その企業の全容がどこにあるのか分からない」というのが実際のところだと思います。そこで、目論見書の記載内容について、読むべきポイントがどこにあるのか概要と共に説明をしたいと思います。
目論見書は、構成はすべて同じです。下記の通り4つのパートに分かれていることをまずは理解しましょう。
当該株式公開企業は、目論見書は取引所等による最終審査の段階でほぼ作り上げています。そして、上場承認が下りると、投資家が入手出来るように速やかに開示されます。 更に、幹事証券会社が売出しや募集に関する手続きを進めている段階で、仮条件や公募価格が決定された時に、それらの情報の追記と該当箇所の訂正を適時行うため、目論見書は訂正事項分が追加されていく形となります。
目論見書の訂正は数回に渡ることが普通です。上場承認が下りると、取引所のHPにも目論見書はアップされますし、幹事証券会社のHPでもアップされるのが普通です。訂正事項は、目論見書の冒頭に差し込んで追加開示する場合もあれば、訂正事項分のみを別にして開示する場合もありますので、株式公開日まで定期的に確認をすることをお勧めします。
新規公開銘柄は、公開した日に株価が上昇することが多いので、一般投資家にも人気です。しかしながら、単に人気銘柄というだけで株式を買うのではなく、可能な範囲で目論見書を読んで自分なりに当該企業のことを理解するようにするべきです。以下そのポイントを簡単に説明します。
当該企業の創業時から今に至るまでの流れを一読しましょう。特に事業内容については、公開時の主たる事業以外にもどのような事業をやってきた会社なのかは把握しておくと良いと思います。特に株式公開前に買収や合併を行っている企業の場合に重要な情報となります。
新規株式公開時は、募集分は会社に資金が入ります。売出し分は、売り出した株主に資金が入ります。これから事業を拡大するために株式公開をするのが筋なので、募集分が少なく、売出し分が極端に多い企業は、企業情報でそれが適切なことなのか判断する必要があります。
財務諸表については、公認会計士や経理のエキスパートの方でないと全部を理解するのは難しいかもしれませんが、少なくとも事業の成長のトレンドがどうなっているかは把握するようにしましょう。
当該企業の株主がどのように変わっているか履歴を追えるようになっています。特に大株主にVCが多い場合には、その売出しを規制するロックアップ条項に関する情報は読んでおくべきです。上場後の株価に影響するからです。
目論見書の記載内容は多岐に渡るので、その作成業務については、株式公開する企業は株式上場準備を管掌する部署以外にも、経理部、総務部などが総出で対応することになります。そのため、全体で読んだ場合に、記載内容に相互矛盾が出ることが多々あります。その辺りについては、法定監査を担当する監査法人とは別に、公認会計士や監査法人が、株式公開準備コンサルティングとして、その業務をサポートすることがあります。 また、主幹事証券会社も、その目論見書が正しく当該企業の説明が出来ているかどうかという視点と、当該企業の魅力を適切に説明できているかなどの点でアドバイスを行います。
多くの創業者にお話を聞くと、株式公開をした日に、東京証券取引所で初値が出る瞬間を見守り、初値が出た瞬間の掲示を見た時の喜びの思いは決して忘れられないそうです。喜びと共に、公開企業になったのだという思いを新たにして、引き締まる思いがするそうです。そのような株式公開の成功の鍵を握る目論見書には、その企業の思いが込められていますので、そのような視点で読んでみると、また感じるところが違ってくると思います。