有価証券報告書は、金融商品取引法第24条に基づいて、証券取引所に上場している株式公開企業等が、各事業年度終了後3か月以内に提出が義務付けられているものです。今回は、この有価証券報告書に虚偽の記載があった場合に、法律はどのような罰則を設けていて、どのような影響があるのでしょうか?分かり易く解説していきます。
有価証券報告書は、企業が投資家に対してその企業の実態を開示する重要な資料となります。従って、その開示内容は投資家の投資判断に大きな影響を及ぼすことから、「企業内容等の開示に関する内閣府令」によって記載内容が具体的かつ詳細に定められています。有価証券報告書虚偽記載とは、この有価証券報告書の記載内容に虚偽があることを指します。
有価証券虚偽記載は、2つに分類することが出来ます。
1つは、記載事項に重要な虚偽記載がある場合であり、
もう一つは、本来ならば記載が必要であったにもかかわらず、その重要な記載事項の記載が欠けていた場合です。
有価証券報告書虚偽記載に関して罰則が科せられるのは、その虚偽記載が「重要な事項」に該当する場合です。「重要な事項」とは、一般的な投資者の視点から、投資者の合理的な投資判断にとって重要な要素となると客観的に判断されるものとされています。
そのような重要な虚偽記載に対しては、金融商品取引法に基づき、取締役や使用人などの個人は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又は併科、当該法人には7億円以下の罰金と刑事罰が定められています。また、それ以外にも一定の計算式で定められた課徴金が当該提出法人に課せられます。
このように有価証券報告書虚偽記載が重要であった場合には、当該提出会社(法人)と、その重要な虚偽記載があることを認識していた取締役、監査役、使用人等が、金融商品取引法に基づき刑事罰が科せられることとなります。
有価証券報告書虚偽記載に関しては、刑事罰以外にも、虚偽記載を行った後に、証券取引所の上場を維持した場合、虚偽記載を行った有価証券報告書の縦覧が開始された日以降にその企業の株式を取得した株主及び株式を処分した株主は、金融商品取引法に基づき、株主による損害賠償請求権が認められています。
この損害賠償請求権は、「その損害に対する賠償を請求する権利」であり、損害が生じているだけで賠償されるものではなく、請求権を実際に行使することが必要となります。では、その損害賠償請求権を行使される対象は誰なのかについて説明をします。
まずは、その重要な虚偽記載がある有価証券報告書を提出した法人です。 以前は、法人に関しては、無過失責任だったのですが、平成26年の金融商品取引法等改正により、過失責任に変更されています。
しかしながら、株主がその法人の過失を立証することは極めて困難であることから、法人が自ら無過失であることを立証出来た場合のみ損害賠償責任を回避することが出来ることとされています。
当該提出会社の取締役や監査役といった役員も、損害賠償請求の対象となります。 ただし、その責任を負うのは、当該重要な虚偽記載について、故意または過失があった場合のみになります。なお、故意又は過失がなかったことの立証責任は、当該役員が負うことになっています。
当該提出法人の金融証券取引法に基づく法的監査を担当した監査法人と公認会計士(実際に監査を担当した個人)も、一定の範囲の重要な虚偽記載に関しては損害賠償請求の対象となります。この場合にも、損害賠償責任を負うのは、故意又は過失があった場合となります。
このように、有価証券報告書虚偽記載に対しては、金融商品取引法に基づき厳しい対応がされることとなります。 そして、その虚偽記載の重要性や悪質性などを総合的に鑑みて、証券取引所のルールに基づき、場合によっては上場廃止となるケースもあります。
証券取引所は、有価証券虚偽記載が発覚又は公表された場合には、その内容を精査するために、また投資家に対して注意喚起を促すために、直ちに監理銘柄に指定をします。
監理銘柄に指定後、証券取引所は規則に基づき審査を行い、その虚偽記載の重要性の大きさや当該提出会社の状況などを総合的に判断して、場合によっては上場廃止を決定することもあります。上場廃止が決定されると、監理銘柄から整理銘柄となり、一定期間経過後に上場廃止となります。
取締役や監査役は、会社法に基づき善管注意義務を負っています。有価証券報告書虚偽記載を未然に防げなかったことは、善管注意義務違反に該当する可能性が十分あります。 その場合には、会社法に基づく責任を追及される可能性もあります。
このように、有価証券報告書虚偽記載は、健全な市場に対する信頼を逸脱する行為であるため、金融商品取引法は厳しい刑事罰等を設けています。
また、損害が生じた株主には損害賠償請求権を認めています。その責任対象には、場合によっては監査を担当する公認会計士も含まれることから、監査業務の重要性を改めて認識してもらいたいと思います。
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