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申告分離課税制度とは?他の課税制度とはどう違う?

公認会計士 大国光大
申告分離課税制度とは?他の課税制度とはどう違う?

公社債の償還にかかる税金は申告分離課税制度が採られることがあるなど、色々なところで出てくる「申告分離課税制度」。では、これはどのような制度であり、他の課税制度とはどう違うのかを解説します。

課税制度にはどのような形態がある?

所得税は、まず給与所得、一時所得、退職所得等のそれぞれの所得金額を合計して総所得金額を求めます。この総所得金額に対して税額を計算し、確定申告によりその税金を納めることとなります。この課税制度を総合課税といい、所得税の計算はこの課税方式が原則となります。
一方で、タイトルにもある通り申告分離課税制度というものがあります。申告分離課税制度というのは、他の所得金額とは合算せず、その所得のみ分離して確定申告を行うことで税額を納める制度となります。また、似たような制度として、「源泉分離課税制度」というものがありますが、源泉分離課税制度は確定申告ではなく税金を源泉徴収されることで完結するため、申告分離課税制度と異なります。

申告分離課税制度が採られる所得の代表的なものは、山林所得、土地建物等の譲渡による譲渡所得、株式等の譲渡所得等、平成28年1月1日以後に支払を受けるべき特定公社債等の利子等に係る利子所得及び一定の先物取引による雑所得等が挙げられます。ここから、各所得について詳しく見ていきましょう。

山林所得

山林所得は、山林を伐採したり立木のままで譲渡したりすることによる所得を言います。ただし、山林を取得後5年以内に伐採又は譲渡した場合は事業所得か雑所得になり、山ごと譲渡する場合の土地は譲渡所得となります。
山林所得の金額は次の計算式の通りとなります。

総収入金額-必要経費-特別控除額(最高50万円)=山林所得の金額

また、所得税額は次の計算式の通りとなります。

所得税額=課税山林所得金額×1/5× 税率× 5

山林所得金額については、他の所得とは合算せずに分離して計算が行われます。

土地・建物の譲渡所得

土地や建物を売却した際の譲渡所得も申告分離課税制度が適用されます。土地建物を譲渡した際の譲渡所得金額は次の通り計算されます。

収入金額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除額 = 課税譲渡所得金額

また、この譲渡所得金額に税額を掛けることで譲渡所得に関する税額が計算されますが、不動産所有期間が譲渡した年の1月1日時点で5年を超える場合の長期譲渡所得は15%、5年以下の短期譲渡所得金額は30%の税率が用いられます(平成25年から令和19年までは復興特別所得税として税額に2.1%が加算されます)。
このように、保有期間が短期か長期かで税額が2倍も変わってしまうため、もうすぐ保有して5年になるなどの年数の境目の不動産については売却時期には気を付ける必要があります。
また、特別控除額というのは、マイホームを売却した場合や収用により土地を売却した場合などに優遇されるものですので、売却する物件や相手先に応じて適用可能かどうか判断する必要があります。

株式の譲渡所得

上場株式やそれ以外の一般株式を譲渡した際に発生する譲渡所得についても申告分離課税制度が採用されます。
どちらも現状は次の計算式によって税額が計算されます。

総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)
=上場(一般)株式等に係る譲渡所得等の金額

また、税率についても20%(所得税15%、住民税5%)に加え、平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。
ちなみに、上場株式と一般株式はそれぞれが分離課税となっているため、上場株式で損した金額を一般株式等で相殺することはできません。
ちなみに、株式の譲渡に関する所得について、次のものについては別途規定がありますので注意しましょう。

・特定口座制度
・上場株式等に係る譲渡損失と上場株式等に係る配当所得等との損益通算
・上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
・特定管理株式等が価値を失った場合の株式等に係る譲渡所得の課税の特例
・非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置(NISA)
・未成年者口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置(ジュニアNISA)

特定口座制度について

先ほどお話した中に「特定口座制度」というものがあります。これは実務でも良く出てくるため簡単に説明します。
株式の売買に際して、証券会社が「特定口座にしますか?」と聞いてきます。そこで特定口座を選んで、かつ特定口座内で生じる所得に対して源泉徴収することを選択した場合には、その特定口座における上場株式等の譲渡による所得は原則として、確定申告は不要となります。得をしても損をしても何もしないこととなりますので、不利になることも多いですが、自身で手続をしなくても良いという点で意外と多く選択される制度となります。
しかし、他の口座での譲渡損益と相殺する場合や上場株式等に係る譲渡損失を翌年以降で繰越控除する特例の適用を受ける場合には、確定申告をする必要があります。

まとめ

申告分離課税制度は総合課税とは違い、各所得で完結する制度となっています。よって、間違えて二重で申告してしまわないように、どの段階で申告が終わるのかをよく調べておくことが重要です。

この記事を書いたライター

公認会計士、税理士。監査法人東海会計社代表社員、税理士法人クレサス代表社員。大学時代に公認会計士旧二次試験に合格後大手監査法人に就職し、27歳で独立開業。国際会計と株式公開支援が専門。セミナーや大学で講師を務めたり書籍の出版も行っている。
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