株式の持ち合いとは、複数の株式会社がお互いの発行済み株式を保有している状態のことをいいます。そして株式の持ち合いで保有する株式は、相互保有株式と言います。ではなぜ、これまで日本では株式持ち合いが多く行われてきたのでしょうか?今回は、株式持ち合いの目的と、そのメリットについて解説していきます。
株式持ち合いは、たいていの場合、株式会社間で任意に行われます。その目的は、次のようなものです。
株式を相互保有することは、両社の良好な関係を持続させるために行われてきました。株式会社であれば、経営に持ち分比率の高い株主の意向が大きく反映されることは当然ですが、相互保有株式により、一定の株主がお互いの会社の経営に文句を言わないという暗黙の了解を得ることができます。
それにより、経営陣によるスムーズな会社運営が可能となるのです。さらに、原則として株式持ち合いは、株価の乱高下を防ぐために長期的な視点で実施されます。したがって、その安定した経営を長い期間にわたって持続させることも可能となっていました。そのため、相互に株式を持ち合う会社間での取引も、長く安定して行われ、会社の成長に資する施策と考えられました。
同時に、株式持ち合いは外資資本等による経営権の乗っ取りを防ぐ方法として、
戦後の日本では重宝されてきました。発行済み株式の一定の割合を、経営陣の意向に背かないと思われる株主が保有していれば、急な買収案から会社を守ることができると考えられていたのです。
バブル期においては、株価の上昇に合わせて、各会社で株式が大量に発行されました。しかし、バブルの崩壊に伴い、市場に大量の浮動株が流通し始めました。
そこで、株式持ち合いによってそれを解消して株価と経営を安定させるという方針が、多くの友好的な会社間でとられることになったのです。
前述した目的が、そのまま経営陣にとっての株式持ち合いのメリットと言えるでしょう。そもそも経営陣の都合を主眼に考案された方針なので、株価は確かに安定しやすいかもしれませんが、あくまで株主のためではなく、経営の安定のための施策といえるでしょう。
つまり、以下のようなメリットが挙げられます。
(1)安定的な経営と取引が、長期的に可能になること
(2)買収防衛策として機能すること
(3)大量に発行された株式の受け皿となること
前述した通り、経営陣にとってのメリット裏返しで、株主にとってはあまり望ましくないと考えられる点もあります。つまり、以下の点が株式持ち合いのデメリットとなります。
(1)常に一定の割合を相互保有株式が占めているため、一般の株主の意向が反映されにくい
(2)長期的に見ると、企業としての成長が望めずに株価が下落していく
(1)については、少数株主が軽視されていると言え、コーポレートガバナンス上も問題があります。また、(2)について説明すると、株式持ち合いを行うにあたって企業が持っている資金を相手企業の株式取得に費やすことになります。
本来であれば、成長につながる投資に振り向けることができた分を失うことになってしまうため、資本効率の低下を引き起こすことになります。結果として、成長の機会を逸した企業の株価は低下していくと考えられるので、株主にとってはデメリットと言えるでしょう。
コーポレートガバナンスの充実を図る国際的な流れを受ける形で、日本で多く行われていた株式持ち合いも解消されつつあるのが現状です。
具体的には、2015年にコーポレートガバナンスコードが導入され、株式持ち合いには合理的な理由が必要となりました。また、国際会計基準(IFRS)導入の拡大によって、帳簿価格が下がった相互保有株式を売ってすぐに買い戻す、いわゆる益出しを行うことができなくなりました。
それに加え、特に国内の3大メガバンクにおいては、国際的な競争力の強化のため、株式持ち合いの解消が進められています。海外の主要銀行に比べ、日本の銀行は保有資産に対する株式の割合が非常に高いという特徴があります。
それ自体は悪いことではありませんが、近年の不安定な世界情勢を踏まえると、いつまた大規模な市場株式の下落がおきるかわかりません。そのリスクを避けるためにも、まずは株式持ち合いを解消しようという動きが広がっているのです。
一方、大量の株式が一気に市場に流出するのを防ぐため、銀行等保有株式取得機構が2002年に設立され、市場を通さずに銀行から該当株式を買い取り、少しずつ市場に流通させていく仕組みが構築されました。
今回は、株式持ち合いの目的やメリット、デメリットについて解説してきました。なお、コーポレートガバナンスコードが2018年に改訂され、株式持ち合いについてより一層の説明責任が求められることになり、ますますその解消は進んでいます。今後も国際的な動向に合わせて、より厳しい目が向けられることになっていくかもしれません。