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監査報告書の長文化によってどんな影響があるのか?

HUPRO 編集部
監査報告書の長文化によってどんな影響があるのか?

会計監査人による監査報告書の長文化の流れが、全世界に広まりつつあります。日本でも、監査報告書の内容を拡充して「透明化」するための具体的な検討が始められています。これによって、財務諸表利用者や会社にはどのような影響があるのでしょうか?今回は、監査報告書の長文化について解説していきます。

そもそも監査報告書とは?

監査報告書とは、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて監査人の監査意見を述べた報告書のことです。
出典: 監査報告書|日本公認会計士協会

つまり、監査報告書の存在によって、投資家を始めとする財務諸表の利用者が、安心して経済活動を行うことができるのです。

なぜ長文化のトレンドが広まっているのか?

定型を利用したいわゆる短文型の監査報告書は、長年にわたり採用されてきました。しかし、その長文化の流れを作ったのは英国です。監査意見は有用であるものの、監査報告書自体の情報価値が高くないという以前からの議論に加え、08年の世界金融危機をきっかけに、監査を含む財務報告制度全体に対する信頼性を高める必要性が増しました。

その観点から、12年から13年にかけて新しいコーポレートガバナンス・コードと監査基準が一体となって導入・推進されたのです。
出典: 英国における長文監査報告書-導入の背景と影響についての考察-|情報センサー

その後、EUも同様の制度を導入し、アメリカにおいても導入に向けた検討が進められています。その流れを受ける形で、日本でも2017年6月26日付で、金融庁より「『監査報告書の透明化』について」が公表されました。

監査報告書を長文化する施策とは?

「『監査報告書の透明化』について」では、監査報告書において監査人が着目した会計監査上のリスク等(「監査上の主要な事項(Key Audit Matters: KAM)」)に関する情報が示されることが、監査報告書の情報価値を高め、会計監査についての財務諸表利用者の理解を深める意義がある、との主張がされました。
出典:「監査法人の透明化」について|金融庁

そして、ここでいうKAMとは、監査人の職業的専門家としての判断において、当期の会計監査において最も重要な事項をいい、統治責任者、つまり企業にコミュニケーションした事項から選択するものとされています。

このような制度改革のための議論は今に始まったことではないとはいえ、日本で現実に導入するとなると、既に改革を始めている諸外国の例を参考にし、企業と監査人、そして利用者にとって最も実用性の高い方針を打ち出す必要があるでしょう。

監査報告書を長文化する施策とは?

監査報告書の長文化によってどのような影響があるか?

まず、企業への影響はどうでしょうか。やはり、今でも大きな負担となっている場合がある監査の作業工程がもっと増えることで、より作業時間やコストが増加するという影響は考えられます。

しかし、監査人が関与する時間や工程が増えることで、コーポレートガバナンスが充実するという良い面もあるでしょう。監査報告書の内容によって、投資家を始めとする利害関係者の動向が変化すると考えると、今回の監査報告書の長文化という流れは、企業の実態を改善するための良い機会といっても過言ではありません。

よって、企業としてはガバナンスを整えるため、監査を受ける際だけではなく、日常の業務から見直し、再評価をする必要があるかもしれません。

続いて、監査人の業務における影響はどうでしょうか。金融庁の発表の中では、どのようにKAMを設定するかについての具体的な規定は設けられていないため、各監査人が各々独自の内容を記載していくことになります。

よって、まずは監査報告書の体裁を整えるための話し合いに、労力を費やす必要があると考えられます。また、報告書による意見表明は毎年のことであるため、企業の決算発表のタイミングで、作業工程がかなり増加するでしょう。

特に、小規模の監査法人等については、ノウハウの積み重ねが大手に比べて難しいために、法人間の生き残り競争がより熾烈になることが予想されます。監査のレベルアップにはもちろん繋がるでしょうが、業務の増加に耐えられない会計士や監査法人の淘汰も進むかもしれません。

最後に、財務諸表利用者の受ける影響についてです。監査報告書が長文化することにより、やはり企業の実態やリスクに対する情報を、より多く入手できるようになるため、投資や融資を判断するにあたっては良い傾向だと言えるでしょう。

しかし一方で、KAMを読み解き、投資に利用するにはある程度の専門性が求められると考えられるので、全ての財務諸表利用者にとって、今回の改革が必要なものであるかというと疑問は残るかもしれません。

まとめ

今回は、監査報告書の長文化について解説してきました。世界的なトレンドとなっており、日本でもこのままKAMの導入が進められると考えられます。立場によって受ける影響は異なりますが、一般利用者にとっても監査報告書の有用性を改めて認識する機会となっていると言えるでしょう。

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