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社会保険未加入の場合の罰則について

HUPRO 編集部
社会保険未加入の場合の罰則について

一般的に健康保険と厚生年金保険のことを差す「社会保険」。法人事業者の加入は法律で義務付けられています。
もし未加入が発覚した場合はその会社に罰則が適用され、社会的にも大きなリスクがあります。本記事では、社会保険未加入の場合の罰則について詳しく説明します。

年々厳しくなる社会保険未加入事業所への適用

社会保険は適用条件を満たす事業所は、すべて適用することが原則です。

しかしながら、これまで社会保険に加入せず国民健康保険と国民年金で済ませている法人が多くありました。というのも、社会保険料を徴収する年金事務所が、法人の存在自体を把握できていなかったからです。

新規に設立した会社については、税務署が申告すべき書類を渡すことができるのですが、厚生年金を担当する年金事務所は、状況の把握がうまくできておらず、新規の法人より、むしろ以前からある会社ほど、社会保険未加入という問題を抱えたままだったのです。

今までは法人登記情報をもとに適用対策を行っていたのですが、中には休眠法人やペーパーカンパニーが多く含まれており実情に沿わない状況でした。
しかし平成27年度からは、国税庁の法人事業所の情報提供を受け、従業員を雇って給与を支払っている事業所の把握が可能となりました。これを社会保険加入指導に活用し適用促進の取組を進めています。

これにより、平成22年に比べると平成27年の加入指導数は19倍以上。 今まで社保未加入だった法人に対しての適用促進が進められているのです。

出典:厚生労働省年金局事業管理課 社会保険の適用促進対策について

社会保険未加入だとどんな指導・罰則が?

社会保険(厚生年金保険・健康保険)制度は、法人事業所および常時5人以上の従業員を使用している個人事業主(一部の業種を除く)に加入が義務付けられています。
加入義務がある場合は、事業主や従業員の意思で任意の加入や脱退はできません。

つまり、以下のような要望は認められません。
社会保険料が高いから加入したくない
厚生年金ではなく国民年金で十分
健康保険は国民健康保険にしたい

現在、社会保険に加入する義務がある事業者でありながら、社会保険料を払っていないということは、単に社会保険事務所から指摘されていないだけであり、本来であれば加入する義務があることに変わりはありません。

まずは自主的な加入を促す

日本年金機構では、社会保険制度への加入手続きを行わず、保険料の納付を免れている事業所を、適用調査対象事業所としてその把握に努めると共に、加入指導などの取り組みを行っています。

適用調査対象事業所には、日本年金機構より加入勧奨を行い「自主的な加入」を促すところから始めます。

しかしながら、それまで社会保険に加入していなかった法人が新たに社会保険に加入すると、厚生年金保険と健康保険の保険料率を合算した率の半分を事業所負担することになりますので、人件費の総額が約15%も増加するということになります。

そのため、加入を勧奨しても自主的に加入しない事業所が一定数出てきます。

重点的な加入指導・立入検査

加入しない事業者のうち、10名以上の従業員を使用する未適用事業所を中心に年金事務所職員による「重点的な加入指導」を実施します。

基本的には事業主に接触を図るため、あらかじめ電話などで事前に連絡を行い、個別訪問します。1回目の個別訪問を実施した月から起算し、3か月以内で適用に至るように勤めますが、難しい場合は3回の個別訪問実績をもって、立入検査の予告を行います

立入検査においては、事業主に対して、立入検査の実施を宣言し、正当な理由なく検査を拒む場合は、罰則の適用があることを告知します。検査では、予め指示した労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、源泉徴収簿、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(控)等の提示を求め、その場で届出書を作成します。

この立ち入り検査については、厚生年金保険法第100条において「受忍義務」があり、事業主が検査を忌避したり、質問に対し答弁をしなかったりすることは許されません。

事業所が、原則として、2度立入検査等を拒否又は忌避したことにより、最終的に関係諸帳簿等の確認が行えず、職権による適用ができなかった場合については、健康保険法第208条第5号、厚生年金保険法第102条第1項第5号の規定による罰則を適用するため、司法警察員に告発を行うことになります。(以下の罰則の項を参照ください)

出典:日本年金機構の取組み(適用調査対象事業所対策)

出典:政府管掌健康保険及び厚生年金保険の未適用事業所に対する重点的な加入指導等の実施要領について〔健康保険法〕)

社会保険未加入の罰則とは?

社会保険に加入しなければならない事業所が未加入であったり、加入していても保険料が未納だったりする場合にはどのような罰則があるのでしょうか。

追徴

追徴金は、該当する者の社会保険料を2年に遡って支払うことになります。
社会保険料2年分と言うと相当な金額です。事業所と被保険者で折半して支払うのが原則ですが、対象の従業員が既に退職しており連絡がつかない場合などは、被保険者分も事業所が代わりに負担しなければならないこともあります。

例えば、月額50万円の給与がある人は、平成31年5月納付分からの東京都の保険料表で見ると、月に49500円の健康保険料に、91500円の厚生年金保険料があります。

出典:平成31年度保険料額表(平成31年4月分から)

実際には保険料額は改訂があるのでこの通りではありませんが、概算で月に約14万円の社会保険料があるのです。

つまり、これを2年分追徴するとなるとざっと3,384,000円。労使折半で被保険者もこの半額1,692,000円が徴収されるのです。さらに賞与がある場合は上乗せされます。

罰則

さらに健康保険法第208条によって、正当な理由がなく下記の要件にいずれかに該当するとき6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

「第二百八条 事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一 第四十八条(適用事業所の事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を保険者等に届け出なければならない)(第百六十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。

二 第四十九条第二項(第五十条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、通知をしないとき。

三 第百六十一条第二項又は第百六十九条第七項の規定に違反して、督促状に指定する期限までに保険料を納付しないとき。

四 第百六十九条第二項の規定に違反して、保険料を納付せず、又は第百七十一条第一項の規定に違反して、帳簿を備え付けず、若しくは同項若しくは同条第二項の規定に違反して、報告せず、若しくは虚偽の報告をしたとき。

五 第百九十八条第一項の規定による文書その他の物件の提出若しくは提示をせず、又は同項の規定による当該職員(第二百四条の五第二項において読み替えて適用される第百九十八条第一項に規定する機構の職員及び第二百四条の八第二項において読み替えて適用される第百九十八条第一項に規定する協会の職員を含む。次条において同じ。)の質問に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは第百九十八条第一項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。」 出典:[e-GOV健康保険法第208条 ]

社会保険料の負担が重い場合は個人事業主に戻ることも可能?

税金については利益がない場合は払う必要がないということもありますが、社会保険料は資金繰りがうまくいかず、給与が払えていない場合も毎月請求が来ます

もともと小さい規模の会社というのは、個人事業主でそれなりに収益が上がり節税のために法人成りしたところがほとんどです。
確かに、法人成りすることによって、所得税については法人税の方が税率が低いということもあります。しかし、昨今社会保険料は毎年値上がりしているため、税金よりも社会保険料の負担が厳しいという企業が増えているのです。

そこで法人をやめて個人事業主に戻る、つまり「個人成り」ということをする企業も出てきました。法人を清算し、個人事業主になるためには、個人事業主から法人になるためにかかったのと同様に数十万円の費用がかかります。

しかし、社会保険料を節約することに比べれば差額は十分回収可能です。また法人住民税の均等割もなくなりますので、節税のメリットはあります。
ただ、もともと社会保険については、個人事業主でも5名以上の従業員がいる場合は加入義務がありますので、個人成りして節税のメリットがあるのは4名以下の従業員の場合のみです。

しかし代表者は良くても、従業員にとって社保完備というのは強力なアピールポイントです。既に従業員がいる場合や、これから従業員を募集したい場合については、安易な個人成りはおすすめできません。

まとめ

社会保険制度の財政は、超高齢化社会によって、一層厳しいものとなっています。これから保険料の引き上げや未納者に未加入者に対するペナルティなどが強化される可能性はますます高まるでしょう。

特に、社会保険未加入の業者が多かった建設業では、平成29年4月から社会保険に未加入の事業者については公共工事に入れないということになり、業界で一気に社会保険への加入が進みました。

さらに沖縄県など一部の自治体では、1次下請け業者が社会保険に未加入の場合、受注した元請け業者に指名停止と工事成績評定点のペナルティを課す制度を導入するなど、元請けでだけでなく、孫請け、ひ孫請けの下請け業者でも社会保険未加入であれば改善指導するようになりました。

現在すでに社会保険の加入義務があるのに加入していない人については、直ちに対応すべきでしょう。

社会保険に関しては、こちらの記事もご参照ください。
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