税理士になるためには税理士試験で5科目に合格する官報合格が王道ですが、特定の要件を満たした場合には、税理士試験自体や特定の科目の受験が免除される制度があります。要件を満たすことは簡単ではありませんが、該当すれば税理士になる近道の可能性もあります。そこで今回は、税理士試験の科目免除制度について解説していきます。
税理士試験の科目の概要や、科目選択については下記のコラムで詳しく解説しています。
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税理士になるためには税理士試験を受験し、所定の5科目に合格して税理士試験に合格するの官報合格がオーソドックスな方法です。
税理士試験には、必須科目と、必須選択科目、選択科目という3つの分類があり、必須科目と必須選択科目の1科目以上を含む5科目に合格しなければ税理士試験に合格したとはいえません。
ちなみに必須科目は、簿記論、財務諸表論。必須選択科目は、法人税法、所得税法。選択科目には、相続税法、固定資産税、国税徴収法、消費税法または酒税法、事業税または住民税があります。
具体的には、会計学に関する科目として簿記論と財務諸表論の2科目に合格し、税法に属する科目として所得税法、法人税法、相続税法、国税徴収法、消費税法などから3科目に合格します。
一方、税理士試験を受験して5科目合格しなくても、税理士試験が免除されて税理士になれるルートも用意されています。これが税理士試験の免除制度です。
税理士試験の科目免除制度は、下記の3種類があります。それぞれの免除要件を満たすと、種類に応じて税理士試験自体か特定の科目の試験が免除されます。
免除要件を満たすと試験や科目が免除される理由は、そもそも税理士試験は税理士になるために必要な知識や能力の有無を判定するものであり、免除要件を満たしている場合は必要な知識や能力を有していると判断できるからです。
資格による免除制度とは、一定の資格を有している者については税理士試験自体が免除される制度です。該当する資格としては弁護士と公認会計士があります。
まず弁護士については税理士試験を受験することなく税理士として登録できることが弁護士法に規定されています(弁護士法3条)。これは弁護士が法律のエキスパートであることに基づくものです。
もっとも、弁護士になるための勉強や試験は税法や簿記とはあまり関連性がないため、実際には他に勉強をせずに税理士として登録する例は多くありません。
次に公認会計士については、平成29年4月1日以降に公認会計士試験に合格した者は、税法に関する研修を修めた場合に無試験で税理士資格を取得することができます。
平成29年の試験以前は公認会計士試験に合格すれば無条件で税理士として登録できましたが、法改正によって研修が必要になりました。
国税従事による科目免除は、税務署をはじめとする官公庁における事務のうち、国税や地方税に関する事務に所定の年数従事してた場合、税理士試験の科目の一部が免除される制度です。
税務署に長期に渡り勤務した場合は試験の免除が与えられることが、税務署で働くことの一つのメリットでもあると言えるでしょう。
国税に関する事務に一定期間従事していた場合は、国税に関する税法科目が免除されます。地方税に関する事務に一定期間従事していた場合、地方税に関する税法科目が免除されます。
免除に必要な勤務期間は要件によって異なりますが、通算で10〜20年以上です。また、勤務期間が23〜28年以上で所定の研修を修了した場合は、会計学に関する科目も免除されます。
免除が認められるまでに有する期間が長いため、税理士になることを目的にするには不向きですが、国税従事者が退職後に税理士を目指す場合などに有効です。
学位取得による科目免除は、大学院に進学して税理士試験に関連する論文を執筆して学位を得た場合に、学位の種類に応じて税理士試験の科目の一部が免除される制度です。
平成14年3月までに大学院に進学した場合、商学の修士または博士の学位を有する者は必須科目となっている簿記論と財務諸表論の受験が免除となります。次に、法学または経済学のうち、財政学の修士または博士の学位を有する者は、選択必須科目と選択科目の3科目の受験が免除されます。
そのため、法学系と商学系の両方の大学院の修士号を取得した人は、税理士試験を受験することもなく、全科目が免除され、税理士になることができるのです。
平成14年4月以降に大学院に進学した場合は、「修士(博士前期)の学位」であるか「博士(博士後期)の学位」であるかで、科目免除のための要件が異なってきます。
これらの要件を満たすことで、その学位に属する残りの科目が免除されます。
例1:①修士(会計学)の学位を取得し、②簿記論の試験に合格
⇨財務諸表論(会計学)の試験が科目免除となる
例2:①修士(税法)の学位を取得し、②法人税法の試験に合格
⇨税理士資格取得に必要な残りの税法科目(選択必修科目・選択科目)が科目免除となる
これらの要件を満たすことで、その学位に属する科目が免除されます。
学位による科目免除制度を利用する場合には、ご自身の経歴や資金的、時間的余裕をよく考慮して検討するようにしてください。
規定の科目において、教授、助教授、講師といった立場で一定期間以上にわたって教鞭をとっている人はその学位に属する科目が免除されます。
税理士試験を受ける際に、簿記1級に合格していると科目が免除されると勘違いする人もいるようです。簿記1級は税理士試験の受験資格の1つであり、簿記1級で免除される税理士試験の科目はありません。
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税理士試験の免除申請を利用できるメリットは、やはり5科目という多くの受験勉強の負担を減らし、税理士試験に合格できるところでしょう。
例えば、1科目となる税法科目に合格し、修士学位や博士学位によって免除申請をして認められたとします。すると、会計学の必須科目以外は、残り税法科目1科目に合格しさえすれば、税士資格が得られるのです。
法人税法や所得税法は、税理士として働くうえでは欠かすことのできない知識が詰まった科目とはなりますが、合格するまで勉強をする負担を考えると、やはり免除申請を受けられるメリットは大きいです。
税理士試験の免除申請をするデメリットは、税理士試験の免除申請を受けるための手段として大学院に進学をした場合です。
ここで1点注意すべき点として、大学院に進学して修士論文で税理士試験の免除認定を希望する場合、税理士試験の科目が必ず免除されるわけではないことに注意が必要です。
大学院進学で税理士試験の科目免除を受けるには、執筆した修士論文が国税庁の審査をパスする必要があります。つまり、試験免除を受けるためにはまず大学院に進学し、修士論文を完成させ、論文が審査を通過するという手順を踏みます。
大学院に進学すると最低でも2年の在学期間が必要になり、その間の学費もかかります。試験が免除されると聞くと一見楽なようですが、実際には受験とは異なる苦労や負担も少なくありません。
勉強や研究についていけずに中退したり、修士論文を完成できずに留年するなどの可能性もあります。特に要注意なのが、せっかく修士論文を提出したにも関わらず、国税庁の論文審査で不合格になってしまうことです。
論文審査に不合格になった場合、税理士試験の科目免除が不認定となり、せっかく時間と費用をかけて大学院に通っても試験免除の恩恵を受けることができなくなってしまいます。
提出された修士論文のうち何割が国税庁の審査に不合格になってしまうかの正確なデータは公開されていませんが、毎年僅かながら通過できないケースが存在します。
それまでの時間と費用を無駄にしないためにも、大学院での日々の努力と論文の完成は非常に重要になります。
また、税理士試験の免除申請をするだけの実力をもっていない人が免除申請をした場合にもデメリットがあります。税理士として実際に仕事を始めた後、何かミスなどをした際などに「免除申請をして税理士になったからだ」と評価されることがあるという声も一部では聞かれます。
今回は税理士試験の科目免除に関する情報を解説しました。税理士試験は合格率が10%~20%程度でとても難しい試験です。そのため、近年は税理士試験の科目免除制度を利用しながら試験合格を目指す方も増加傾向にあります。
免除の要件は大学院生や社会人、有資格者によって異なりますので、不明な点は公的機関(国税庁など)に必ず確認するようにしてください。
受験者の方の中には、意外と自身が免除の要件を満たしていることを知らない方もいます。数科目でも免除が適用されれば、その分税理士資格取得への道も近くなりますので、受験を検討している方は、今一度科目免除の要件をチェックしておくことをおすすめします。
税理士試験の免除申請は、受験者にとって負担が軽くなる制度です。そのため税理士になるという夢を叶えるために大いに活用したいものです。ただ、メリットばかりではなく、デメリットも存在しますので、よく考え、判断をするようにしてください。