税理士は試験を受けなくても行政書士として登録が可能です。このため税理士の方で行政書士のダブルライセンスをもち、差別化を図っている事務所もあります。本記事では、税理士が行政書士登録を行うことによって生じるメリットについて解説します。
行政書士とは、行政に提出する書類作成のプロです。行政書士法には以下のようにその業務が定められています。
行政書士法第一条の二には、行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成することを業とする。
行政書士の主要業務には、建設業や不動産業運輸業などの各種許認可業務があります。業法に基づく申請を代行する仕事なのですが、これは数年ごとに更新が必要です。
起業して、個人事業主または法人として事業を始める場合に、必要となる代表的な許認可には以下の5つがあります。
バス・タクシー・トラックなどの運送業を始めるには、複雑な許認可申請書を作成しなければなりません。
一定規模以上の建設業を営む場合は、都道府県知事又は国土交通大臣の許可が必要です。
行政書士は建設業の許可の要否や、許可条件を満たしているか否かの判断をし、必要な書類を作成及び代理申請を行います。また建設業に関連する各種申請や届出などを行います・
行政書士は、産業廃棄物処理について、各種許可申請や更新許可などを行います。
飲食店や遊技場などを開業する際には、営業開始前に保健所や警察、消防署などへ許可申請届出が必要となります。
不動産関連の事業を始める場合は、宅建業の免許を受けなければなりません。免許には国土交通大臣免許と都道府県知事免許の二つに大別されます。
行政書士は、免許に関し必要な書類の作成及び代理申請を行います。また免許申請後の変更や更新免許換えといった手続きも行います。
こうした許認可が必要な職種では、必要な手続きをせず、許認可のないまま営業を開始すると、刑事罰が科されてしまう場合もあります。
行政書士の業務は、上記のように「官公署に提出する書類を作成」という幅広いものです。なかでも、税理士業務と関わりが深い内容としては、個人事業主が法人成りするときに会社を設立する際の定款認証や、契約書の作成、また、建設業の許可や入札審査といったものが挙げられます。
事業開始時に許認可申請を行政書士として受け、その申告業務を税理士として顧問契約をすることもできますし、会計事務所の顧問先にこうした業種があるのであれば、税務申告とともに許認可申請の更新業務を行政書士として受注するという事も可能です。
近年は、行政書士においても、中小企業支援に力を入れて織、事業承継・事業再生支援や、知的資産経営の導入、公的融資申し込み、補助金や助成金申請など、中小企業の経営事業活動全般に関わる助言や提案を行っています。
こうした業務は、税理士のコンサルティングの業務と非常に親和性が高いといえるでしょう。
クライアントからしてみると、必要に応じてこの件は税理士、この件は行政書士といった対応をしなければならないとすると、それに応じた時間も手間もかかってしまいますよね。
相談する窓口はまとまっていた方が、明らかに使い勝手が良いので依頼しやすくなります。
もちろん税理士側にとっても、税理士だけでなく行政書士のダブルライセンスがあることで、両方の仕事を受注できるのですから、そのぶん収入も増え、事務所の経営を安定化させることにつながります。
クライアントにとっては、頼りになる事務所として知り合いの別企業を紹介してもらえたり、保険の加入を促すことができたりなど、プラスアルファの収入も望めるでしょう
税理士自体は定年退職がない仕事なので、資格保有者はここ20年ほど、毎年増加している状況です。令和元年10月末日現在で78,570名が税理士として登録されています。
出典:日本税理士会連合会WEBサイト 税理士登録者数
これから税理士として生き残りを図るためにも、他の資格も合わせて取っておくというのが経営戦略として有効な手段であると言えるのではないでしょうか。
ダブルライセンスを取る事で、より多くの集客を見込めるメリットもあり、新たな顧客獲得にも広がるでしょう。
また、開業税理士でない場合でも、転職においてダブルライセンスを持っていることは有利に働きます。近年ニーズが高まっているワンストップ会計事務所や一般事業会社においても、自分の価値を高めるために検討したいですね。
行政書士となる資格を有する者は、以下のいずれかです。
①行政試験行政書士試験に合格した者
②弁護士となる資格を有する者
③弁理士となる資格を有する者
④公認会計士となる資格を有する者
⑤税理士となる資格を有する者
⑥国又は地方公共団体の公務員または独立行政法人の役員または職員としてとして行政事務に相当する業務を担当した期間が通算20年以上の者
税理士はこの⑤に該当するため、無試験で行政書士となる資格を有しています。
しかし行政書士なるには、資格を有するだけでなく、日本行政書士会連合会に備える「行政書士名簿」に登録する必要があります。
参考:行政書士新規登録申請
登録には、費用が掛かります。東京行政書士会では以下の通りです。
・事前振込費用 225,000円(登録手数料 25,000円・入会金 200,000園)
事前に指定口座に振込・振込み手数料負担
・登録申請時に現金を持参:21,000円
(東京都行政書士会会費3ヶ月分18,000円/東京行政書士政治連盟会費3ヶ月分3,000円)
※4カ月目以降は月額会費が合わせて7000円かかります。
・登録免許税:30,000円(収入印紙を購入)
出典:東京都行政書士会・東京行政書士政治連盟 登録・入会のご案内
これで晴れて行政書士として登録することができます。
しかし、登録をしたからといって行政書士としてエキスパートになれるわけではありません。
行政書士としての勉強もたゆまず行うことと、あわせて実務をこなしていくことが必要になります。
手続と諸経費を支払うことで、税理士であれば無試験で登録できる行政書士。
行政書士業務と税理士業務は親和性が高いものが多く、税理士としてより広いサービスを顧客に提供することができます。特に顧問先で許認可申請を行うことが多く、行政書士を必要としている場合、相続や事業承継といった業務で自分の強みをより活かしたい場合など、ニーズに合わせて登録することで、顧客満足度を高めるとともに、新たなクライアント獲得につなげることもできるのではないでしょうか。