公益法人等の非営利法人については、一般の普通法人と同様、消費税の課税事業者となれば、消費税の納税義務が発生します。
ところで、公益法人等はその活動の原資として補助金や寄付金等の収入があり、それを活動の原資としているケースが多くあります。
この補助金や寄付金については消費税課税対象外であるため消費税が課されることはありません。一方で、公益活動を行うため使った経費には消費税が課されます。仮に、課税売上に係る消費税がほとんどないにもかかわらず、課税仕入に係る消費税を全額、税額控除することができるならば、消費税の納付が少なくてすむか、あるいは還付金が発生することとなります。
普通法人は通常、事業収入は課税売上に該当する場合が多く、原則通り消費税を納付することとなるため、このままでは、普通法人と公益法人等との間で不公平が生じます。
この不公平を除くための特例として、特定収入に対応する課税仕入等の仕入税額控除が一部制限されます。
今回は、この「特定収入に係る仕入税額控除の特例」についてお話したいと思います。
特定収入は消費税法基本通達16-2-1において以下のように定義されています。
・租税
・補助金
・交付金
・寄附金
・出資に対する配当金
・保険金
・損害賠償金
・資産の譲渡等の対価に該当しない負担金、他会計からの繰入金、会費等、喜捨金等
ここでは寄附金や補助金収入などをイメージするといいでしょう。これらは、政策的理由により消費税が係りません。
例えば、ある公益法人が行った事業について、収入支出が以下の場合、
・事業収入:1,100万円(1,000万円+消費税100万円)、
・補助金収入:1,000万円(この補助金は使途が特定されていないものとします)
従って、特定収入が総収入に占める割合(特定収入割合)は50%となります。
・事業経費:2,000万円
上記の場合、経費の2,000万円の内、例えば人件費や保険料のように消費税のかからない支出もあることから、消費税のかかる支出は1,320万円(1,200万円+消費税120万円)だったとします。
これを、消費税の原則どおり計算すれば、売上に係る消費税100万円―仕入に係る消費税120万円=20万円の還付になります。
これは明らかに不合理です。従って支払った消費税120万円のうち、半分は消費税のかかっていない補助金から出ているわけですから、その部分の控除は認めないとするのが、「特定収入に係る仕入税額控除の特例」の趣旨です。
この場合には、仕入に係る消費税は、120万円ではなく、60万円(120万円×50%)とされます。従って、消費税は20万円還付ではなく、40万円の納付(100万円―60万円)となります。
この例ですと、「還付を受けるという時点で、何か変な制度だな?」とピンとくる方がいるかもしれません。しかし例えば、消費税のかかる支出が1,320万円ではなく、880万円だったらどうでしょうか?
売上に係る消費税120万円―仕入に係る消費税80万円=40万円の納付で、特におかしいと思うことなく申告してしまうのではないでしょうか?
もちろん、この計算も誤りで、実際には、120万円―40万円(80万円×50%)=80万円の納付となります。
要は、特定収入(補助金、寄付金、会費等)に対応する仕入に係る消費税額の部分を一部認めないというものです。
だとすると、会費や補助金が少しでもあるとこんな複雑な計算をしなければならないのか、とうと、そんなことはありません。総収入の内、特定収入が占める割合(特定収入割合)が5%以下の場合にはこの特例は適用されません。この場合は全額支払に係る消費税を控除できます。
つまり、会費や寄附金、補助金などが少ない場合にはこの特例の適用はなく、気にしなくてもいいということになります。
ただし、今回のこの計算は、特定収入が、その使途が特定できるかどうか、すなわち、寄附金や補助金がひも付きであるかどうか、などによって計算が非常に複雑になってきます。こういった場合には、税理士に依頼することを検討した方が無難でしょう。
今回は「特定収入に係る仕入税額控除の特例」についてお話しました。
「特定収入に係る仕入税額控除の特例」が適用されるのは、
・寄附金や補助金、会費収入等が多い(5%超)
・消費税の課税事業者である
・簡易課税方式を選択していない
という場合です
このような法人は、「売上に係る消費税―仕入に係る消費税=納付税額」という計算よりも、実際には多く納税しなければならない可能性があります。なぜなら、仕入に係る消費税が一部認められないからです。
上記の3要件に合致しそうな法人の場合には、この「特定収入に係る仕入税額控除の特例」のことをしっかり理解しておく必要があります。また、この計算が複雑すぎてよくわからないという場合には、敢えて簡易課税を選択するということも考えられます。簡易課税を選択すると控除される仕入税額は課税標準額に業種ごとの一定率を乗じて算定されるため、上記のような複雑な計算は一切、必要ありません。