新規事業を立ち上げた個人事業主や、資本金1,000万円以下で新会社を設立した法人の場合は最初の2年間は消費税を払わなくてよい(免税事業者)、ということをご存知の方は多いかと思います。設立1、2年目は消費税を計算して申告納付しなくてもいいということでした。
しかし、上記の場合でも設立2年目には消費税を納めなくてはならない、つまり、消費税課税事業者となってしまう場合があります。
それが特定期間による判定に引っかかってしまった場合です。この特定期間による判定というものを意外に知らない方が多いかもしれません。
今回は、【税理士監修】のもと、消費税の課税事業者の判定の際の要件となるこの特定期間についてお話したいと思います。
基準期間とは簡単に言うと2年前の期間のことを言います。そしてこの2年前の期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合、その年は原則として消費税の課税事業者となります。
例えば、設立1年目で年間の課税売上高が1,000万円を越えると3年目から消費税課税事業者となります。この場合、個人の方は3年目の翌年3月31日までに、法人では原則として3期目の決算日から2か月以内に、消費税申告書を提出し、消費税を納めなくてはなりません。
この基準期間による判定についてはご存知の方も多いでしょう。
基準期間に対して、特定期間とは個人事業主の場合は、その年の前年1月1日から6月30日までの期間をいい、法人の場合は原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6月の期間をいいます。
簡単に言うと、基準期間は2年前の1年間ことを言い、特定期間は前年の上半期のことを言います。
事業を行う者のうち、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者は、原則として消費税の免税事業者に該当します。
ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間において以下の2要件をいずれも満たした場合は消費税の課税事業者となります。
・特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合
・特定期間中に支払った給与等の金額が1,000万円を超えた場合
この特定期間による判定があることを知らない事業主も意外にいらっしゃるので注意が必要です。
要は、たった半年間で売上1,000万を超え、高い給料を支払うことが出来るほどの会社なら十分、税金を払う資金力があるのだから、2年を待たずに来年から払ってください、ということでしょう。
たとえ設立初年度であっても、事業開始の日から6ヶ月の期間(特定期間)における課税売上高及び給与等支払額の合計額が1,000万円を超えることで、2年目から消費税課税事業者となってしまいますので注意してください。
ところで、いくら儲かっている商売を始めたとは言え、出来ることなら2期目も免税事業者として消費税を支払わずに済ませたいと考える経営者もいることでしょう。
実は、この特定期間の判定には「短期事業年度」という特例があります。短期事業年度とは、次のいずれかに該当する前事業年度をいい、この場合、前事業年度は特定期間とはなりません。つまり、上記2要件を満たしても課税事業者とはならないのです。
(1)前事業年度が7ヶ月以下の場合
(2)前事業年度が7ヶ月を超え8ヶ月未満の場合であって、前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間の末日の翌日から前事業年度終了の日までの期間が2ヶ月未満の場合
例えば、設立初年度から上半期で課税売上高1,000万円超、給与等支払額1,000万円超のどちらも満たすことが事前に予想できるなら、初年度の事業年度を7か月以下とすることで、2期目も免税事業者となることができます。
今回は、消費税の課税事業者の判定における、特定期間についてお話しました。特定期間による判定のことを知らないと、思わぬ税負担を強いられることとなるかもしれません。しっかり理解しておきましょう。
また、特定期間の判定について短期事業年度の利用により、消費税の負担を回避することができることも解説しました。この方法を利用するためには、その事業年度開始の日から半年間の課税売上高と支払給与の総額を事前に試算しておくことが必要となります。
課税事業者となるかどうかの判定を行うのは、設立1年目から3年目あたりの事業者が多いかと思います。決算日をいつにするか(初年度を何か月にするか)を設立前に決めなければなりません。その場合、特定期間も考慮して決定するようにしましょう。また、初年度を7か月超とした場合は、設立後において、特定期間の判定要件に該当しないか注意するようにしましょう。
一方で、設立初年度から特定期間の判定で2年目から課税事業者となった個人や会社は、まぎれもなく優良事業です。従って、取引先からの信用、ひいては社会的ステータスも得られるというメリットもあります。
節税も大事ですが、やり過ぎには気を付けて、本業の売上げを伸ばすことに力を入れることも忘れてはならないでしょう。