転職しようと考えた時、年収がどのくらいもらえるかというのは、多かれ少なかれ誰もが気になるポイントでしょう。では、会計事務所ではどのくらいの年収が相場なのでしょうか?今回は会計事務所の年収について、新卒の初任給から金額を左右する要素まで、徹底的に解説します。
会計事務所で働く従業員のみの平均年収について、直近で正確なデータは発表されていません。ただし、平成16年に総務省が行ったサービス産業動向調査によると、約361万円でした。現在の最低賃金の上昇率などを踏まえると、現在の会計事務所の平均年収は400万円程度とみるのが妥当でしょう。
しかし、会計事務所で働く方の年収はかなり個人差があるため、むやみにこの金額を参考にしてはなりません。それでは、その個人差はどのような要素で決まるのかについて、次の章で解説していきます。
会計事務所の年収が決まる要素としては、次の3つが大きいです。
実務をどのくらいしているのかは、会計事務所に関わらず年収の決定要因です。特に未経験者と実務経験者では大きく年収が異なります。実務経験は、その年数によって年収の金額も変わる傾向にあり、下表のような目安が一般的です。
未経験 | 年収250万円〜300万円前後 |
実務経験 3年から5年 |
年収350万円〜450万円前後 |
実務経験 6年から10年以上 |
年収500万円〜700万円前後 |
ただし年数以外でも、資産税や国際税務といった特定分野のある会計事務所では、上記の平均を超えて高い年収を得られるケースもあります。また、法人や個人のクライアントの担当を持っている場合はその件数によって左右されることも多いです。
会計事務所の業務は専門性が高く、実務の程度が生産性に大きな影響を与えます。そのため転職の際も、実務経験年数は大きく年収に影響を及ぼします。
どのような資格を持っているのかも、会計事務所における年収を左右する要素の一つです。特に「税理士」「公認会計士」には独占業務があり、資格の有無で提供できる価値が大きく異なります。
多くの会計事務所では、「税理士」「公認会計士」の資格を有する人を欲しており、市場価値も高くなるため年収は高くなります。
厚生労働省の発表する平成30年度の「賃金構造基本統計調査」によれば、税理士と公認会計士の平均年収は下記の通りです。
【税理士・公認会計士】
平均年収 | 892万円 |
平均年齢 | 38.6歳 |
毎月の給与額 | 56.4万円 |
年間賞与 | 214.9万円 |
※「税理士」と「公認会計士」の平均になりますので、
純粋に税理士だけの平均年収というのは発表されていません。
全職種の平均が460.3万円(毎月の給与額32.4万円・年間賞与71.5万円)であることを考えると、税理士はやはり高給であるといえる職種です。
出典:平成30年賃金構造基本統計調査 厚生労働省
出典:賃金構造基本統計調査の新職種区分における「公認会計士、税理士」の取扱について
厚労省の「賃金構造基本統計調査」によると、事業所規模によって、以下の通り給与の差があることがわかっています。(この数字は全業種で出していますので、会計事務所の数字ではありません。)
1000人以上 | 939万円(平均年齢37.4歳) |
100~999人 | 767万円(平均年齢36.9歳) |
10~99人 | 675万円(平均年齢44.6歳) |
つまり、会計事務所に限ったことではありませんが、
年収を決めるのは職種や業種の内容もありますが、どのぐらいの組織規模に所属するかという部分も大きくウェイトを占めます。
同じスキルと経験を持った税理士であっても、所属する会計事務所によって、仕事内容も年収も変わってくるのです。一概に会計事務所の規模が大きければ、その分必ずしも年収が高いとは言えませんが、目安にはなります。 大手になればなるほど、優秀な税理士を集めようと年収などの条件を良くする傾向があるからです。
会計事務所の分類は大きく分けると以下の4つです。
事務所の規模が大きいほど、大企業をクライアントとした業務内容になります。BIG4のような大手の事務所だと、扱う案件が単なる記帳代行や税務申告だけでなく、国際税務や経営コンサルティング、M&A、事業再生など多岐に渡り高度なものが要求されます。そのため、クライアントからの報酬額も上がり、その分年収も高くなるというわけです。
士業・管理部門特化の転職エージェント「ヒュープロ」として様々な事務所や転職者からの情報をもとに、会計事務所のおおよその年収事情を年齢別にご紹介したいと思います。ただし、上述した要素が大きく影響するため、必ずしも該当する年代の相場がもらえるわけではないことにご留意ください。
平均年収:350〜400万円
20代は未経験者もしくは実務経験が乏しい方が多いため、年収はそこまで高いとは言えません。また、税理士試験は難関であるため、20代で税理士を取得しているとかなり貴重な人材です。実際に全税理士の中でも、20代の割合は1%未満となっています。そのため、資格を活かして高年収を実現している方も、この年代では少ないです。
平均年収:400〜550万円
30代になってくるとスキルや経験が差が出てきますので、年齢で一概に括るのは難しくなってきます。ならすとこのくらいの年収であるという理解をいただければと思います。
BIG4に勤めている税理士であれば、30代で年収1,000万円に達している割合も一定数あります。また、小さい規模の会計事務所でも相続税を専門にしていたり、コンサルティング業務に強みを持っているなど、何かしらに特化した事務所ですと、スキルを持った税理士に対して高水準な年収条件を提示することも多いです。
もちろん、税理士として会計事務所を開業している場合は、その事務所の経営状態次第で高年収も実現可能です。
平均年収:1000万円〜
会計事務所に勤めて40代以降になってくると、税理士として独立してる人の割合も多くなってきます。独立した場合、所長として年収数千万円を得る人もいれば、勤務時より大きく下がってしまうケースも多々あります。独立後の年収は税理士としてのスキル以外にも経営者としての手腕も問われることになります。
ヒュープロ内に掲載されている、会計事務所の求人情報について、年収のレンジごとにまとめてみました。
是非確認してみてください。
税理士・税務スタッフの年収別求人情報
▶️年収300万円〜400万円の求人はこちら:税理士・税務スタッフの転職・求人情報を探す
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ここまで会計事務所の年収について解説していきましたが、業界全体に「年収が安い」というイメージが一定数根付いているのも事実です。そのようなイメージがある理由について紹介します。
会計事務所の8割程度が従業員1~9名の零細事務所と言われています。ご紹介したように、事務所の規模は年収を左右する要素の一つに該当しますので、低い年収で働いている人がほとんどであるというイメージがついているようです。
会計事務所の場合、税理士をサポートする「税理士補助」の役割を担う従業員も必要であり、その税理士補助はパートやアルバイト、業務委託などで対応する人も少なくありません。そのため、そのような方を含めた平均給与で見るとそこまで高い年収とは言いづらくなるため、安いイメージに繋がるようです。
とはいえ、「年収が安い」というのはあくまでイメージであり、実際は努力次第で高年収も実現できる業界であることはご理解いただけたかと思います。具体的には、下記を実践できれば年収が上がる可能性があります。
1.実務経験年数を積む。 2.資格を取得する。 3.規模の大きい職場に転職する
そして何より大事なことは、多くの年収を払ってくれる会計事務所へ入所することです。この記事を読み、自分の経験年数と資格を照らし合わせ、適正な年収かどうかを判断することをおすすめします。
最も気になるポイントなのに、年収情報はなかなか調べにくいものです。この現状は会計事務所に限りません。
募集概要を見ても「事務所規定による」(あるいは何も書かれていない)といったような記載で「じゃあ実際いくらなのか」ということがわからないパターンも多いものです。かといって、問い合わせで「年棒はいくらですか」「給与はいくらですか」とは聞くことは困難でしょう。
本来であれば、入所前に自分が行う仕事と収入に対しては、はっきりさせておくのが望ましいのですが、これからお世話になる先に、お金のことをなかなか聞きづらいのが日本の企業文化です。
しかし、いざ入所してみたら年収が下がってしまった!ということだと、いくらやりがいのある仕事につけたとしても、かなり失望してしまうのではないでしょうか。
こうしたミスマッチを防ぐのに役立つのが転職エージェントです。 自分のキャリアをもとに、年収について「その経験で、募集しているポジションであれば、実際にいくらぐらいの年収になるか」といったような情報も転職エージェントであれば確認することができますし、場合によっては年収の交渉も行ってくれます。
転職を考えてみた時に、現在の年収は仕事内容に見合っていないと考えることが多いと思います。もし同じような仕事を他の事務所で行った場合に、自分の年収がどうなるのか?こうした疑問も転職エージェントで解消できます。まずは気軽に登録して相談してみてはいかがでしょうか。
最後に会計事務所の年収について、よく聞かれる質問をまとめました。
当社「ヒュープロ」でご紹介している求人の中では、新卒の年収は300万円が相場といえます。新卒の段階で実務経験があるとしてもアルバイトやインターンのみであり、資格についても簿記2級や税理士試験の一部科目合格までが一般的ですので、差はつきづらいでしょう。
アルバイトについても正社員の場合と同じ要素が時給の金額を左右する可能性があるものの、大きな影響は与えないでしょう。基本的には各地域の最低賃金の金額からその200円程度上で推移するのが一般的です。ただし、税理士有資格者の業務委託などであればその数倍の金額になるケースもあります。
もちろん、税理士資格を有していない人でも会計事務所で働くことはできます。
会計事務所の業務の中には、税理士の独占業務以外にも税理士業務の補助業務というのがたくさんあります。それらの業務は税理士資格を有していない人が、税務スタッフとして行っています。
これから未経験で会計事務所への転職を目指す人の中には、「資格もなし、実務経験もなしで採用してもらえるのか不安…」と感じている方もいらっしゃるでしょうが、結論から言うとこの点は問題ありません。
会計事務所で働く人でも、税理士資格なし、実務経験もなしの状態からキャリアをスタートする方が一定数います。従業員が100名を超えるような大手事務所では科目合格や実務経験が必須となっていることもありますが、大多数の小規模事務所では資格なしの未経験者にも門戸が開かれています。
資格無しで実務経験も無い場合はやはり年収として250〜300万円程度となりますが、スキルと専門性をつけていけば確実に年収を上げていくことができます。
ただし、税理士試験はそう簡単な試験ではないので、働きながら合格を目指す人は、試験合格を後押ししてくれるような環境のある会計事務所を選ぶようにしましょう。また、未経験で税理士資格が無い状態であっても、日商簿記2級は持っておくのがオススメです。
※当コラムに掲載されている年収は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をはじめ、公表されている統計やデータに基づくものです