これから税理士試験を目指す方や現在会計事務所にお勤めの方の中には、将来的に税理士として独立開業するというキャリアを想定されている人もいるでしょう。そこで、この記事では、税理士が独立開業する場合のメリット・デメリットや、今後の税理士業界の将来性を鑑みたときの税理士事務所の在り方などについて説明します!
難関試験である税理士試験を無事突破すると、いよいよ本格的に税理士としてのキャリアがスタートします。税理士試験合格後のキャリアの築き方は人それぞれ、個々人の選択に基づいていろいろなパターンの働き方が想定されます。ただ、その働き方は大きく2つに区分できます。それは、所属税理士と独立開業の税理士です。
次は、独立開業の税理士についてです。独立開業税理士とは、自身が代表税理士として税理士法人や会計事務所を経営する税理士のことです。
所属税理士とは異なり、営業時間や取扱う業務の方向性などを含め、すべての面において自分の意志を反映できる自由度の高さが特徴的です。他方、自ら経営の舵取りをしなければいけないので、仕事や収入面における安定性はありません。業務が軌道に乗らなければ、倒産リスクを避けることもできません。
社員税理士とは、会社などの組織との間で雇用契約を締結し、組織に雇われる形で職務をこなす税理士です。
所属(企業内)税理士の多くは、定例業務(経理業務)に携わっています。定例業務では、日常取引に関する資料の作成や経理処理、決済などを行います。
また、営業部門や生産部門から送られてくる情報を会計システムに入力したり、そのチェックを行う業務や、自社の職員に対する経費や交通費の精算業務を行うこともあります。
さらに、新たな会計システムの導入や、業務プロセスの改善などに携わる場合もあります。
税理士事務所を開業する前にまず、税理士登録を行う必要があります。税理士登録を行うためには、まず税理士試験に合格することと、最低2年の実務経験が必要です。それら2つがクリアできれば税理士登録をします。
その後、開業するまでの準備を始めます。まず、開業するための資金(200万円程)用意しましょう。税理士試験の勉強をしながら用意できれば尚良いでしょう。
独立開業するまでの準備としてほかに、開業場所(自宅or賃貸、又、来所型or訪問型)やインフラ(PC、会計、税務ソフト)を整備しましょう。
税理士の資格をまだ取得していない方は、税理士試験の制度や仕組み、受験資格の有無はどうなのか、勉強時間はどのくらいかかるのか、わからないことも多いと思いますので、そちららの方は以下のリンクの記事をご参考ください。
税理士登録に必要な2年の実務経験のタイミングは、税理士試験に最終合格する前後を問いません。つまり、税理士試験に合格してから有資格者として就職し実務経験を積むのも1つの方法ではありますが、税理士事務所などへ勤務をしながら税理士試験へのチャレンジを重ねることも認められているのです。税理士登録を最短で行いたいのであれば、税理士事務所などで働きながら、税理士試験への最終合格を目指すのがおすすめの方法です。
実際、税理士事務所の求人は、税理士有資格者だけに限られず、科目合格者に対しても広く募集がかけられています。特に、簿記論と財務諸表論に合格している場合であれば、ほとんどの税理士事務所で採用されるはずです。したがって、長い税理士試験へのチャレンジ期間のうち、出来るだけ早期に簿財のいずれかに照準を合わせてクリアした段階で税理士事務所へ就職し、税理士補助として実務経験を積むことができれば、今後のキャリア形成をよりスムーズに行うことができるでしょう。
税理士事務所で働きながら税理士試験を目指す方はこちらのコラムもご参考ください。
税理士試験に最終合格をし、2年以上の実務経験を経験すれば、晴れて税理士として登録することができます。日本で税理士と名乗って仕事をするためには、必ず税理士登録をしなければいけません。なぜなら、税理士は唯一税務を扱うことが許されている専門職なので、仕事のレベルを一定水準以上に保つ必要があるからです。いい加減な仕事をしていると税理士会から処分が下される場合もあるので、税理士資格を取得してからも業務に対しては常に誠実でなければいけません。
税理士会は日本全国15の組織で構成され、開業する住所地の支部に登録することになります。税理士試験の合格と、2年以上の実務経験を積んで勤務先からの在籍証明書を発行してもらって、税理士登録をする運びとなります。
税理士登録が完了すれば、税理士として独立開業することができます。つまり、本当に独立開業税理士への道を最優先するのであれば、税理士試験に合格し、2年の実務経験を経たタイミングで自分の事務所を持ってしまっても良いのです。ただ、そのような独立プランはあまりおすすめできません。
というのも、独立開業した段階で、税理士であると当時に経営者にもなるわけです。つまり、ただひたすら目の前の税務案件をこなすだけではなく、「どうすれば案件を獲得できるのか」「どうすれば顧客満足度を高めることができるのか」「どうすれば自分の事務所にしかない付加価値をサービスに乗せることができるのか」といういろいろな視点から事務所の経営を行わなければいけません。
つまり、独立開業税理士として成功するためには、単に会計や税務の知識が豊富なだけでは不十分で、顧客先企業の開拓方法などを含めた経営戦略にも精通する必要があるのです。そして、このようなスキルは、ある程度他の税理士事務所などで雇われる中で学んでいかなければ身に付けることができないタイプのスキルです。したがって、おおよそのイメージでは、実務経験が8年~10年程度になった頃に独立するのが王道ルートです。
税理士の独立までのプロセスについては以下のコラムでも紹介しています。あわせてご確認ください。
今回の初期費用の見積もりは、自宅ではなく、事務所を賃貸した場合の見積もりとなっております。そのような場合、敷金、仲介手数料がかかりますので、自宅開業をご検討中の方はもう少し低くお見積りください!
事務所 | 敷金 仲介手数料 PC |
登録費 | 税理士会登録費 支部会入会金 |
ソフト | パッケージ型ソフト購入費 |
その他 | ホームページ ロゴ 名刺 チラシ |
その他家具等 | 昇降デスク、書棚、作業台、椅子、シュレッダー、掃除機、冷蔵庫 |
事務所を賃貸する場合に敷金や仲介手数料は地域によっても異なりますが、一般的に15万~50万ほど見積もります。
PC・会計税務ソフト・その他システム関連費用総額30~60万円程が大体の目安でしょう。
ロゴ作成費のみで約5万円程、税務署名札代約1万円程見積もります。その他オフィス用品費用30~60万円程と見積もったところ、この約3つの項目で高く見積もった場合の目安の総額が約66万円。
前述したとおり、日本税理士会連合会には全国15か所の税理士会があります。また各税理士会には支部会が設置されており、税理士登録の際は、開業地の税理士会だけでなく、支部会にも登録し、所属しなければなりません。そのため税理士会名簿の登録のために、15万~18万円(登録免許税と手数料)がかかります。
大きく4つに区分したこの項目を足すとトータルで高く見積もった場合、大体、約200万円弱となります。
開業するにあたって、平均1000万弱必要となるところをこの費用で抑えられるのはメリットともいえるでしょう。
独立開業税理士の一番のメリットは、その自由度の高さです。営業時間、仕事内容、事務所の規模、事務所の場所、誰を雇うのか、どのような組織構成にするのか、どの業務に特化するのかなど、すべてを自分自身で自由に決定することができます。
勤務税理士は、所属する組織の経営方針に従わなければいけません。例えば、勤務税理士としてある程度経験を重ねてくると、「自分はもっと税務コンサルに力を入れたい」というように、希望が出てくるはずです。独立開業すれば、自分の希望を100%叶えることができます。
独立開業税理士のメリットは、定年退職がない点です。どの組織で雇用契約を締結したとしても、基本的にはどこかのタイミングで定年退職をしなければいけません。どれだけ自分に働く力があったとしても、年齢を理由に継続的な雇用が認められなくなってしまいます。
しかし、独立して自分で事務所を経営する以上、いつまで働くのかは自分が決めることです。したがって、何歳まででも事務所の第一線で働くことができますし、一線を退いたとしても、代表税理士の名前を残しつつ事務所内で一定の役職をに就き続けることもできます。生涯現役でいられるという強みがあります。
税理士の独立開業の年齢についてはこちらのコラムでも取り扱っています。あわせてご確認ください。
また、近年の女性進出の流れもあって、税理士業界もより自由な働き方でキャリアを形成する人が生まれています。育児と仕事の両立の観点から独立開業をするママさん開業税理士をはじめとして、年収にとらわれず自分にあった働き方を目的として独立開業を選択する税理士も増えています。税理士としての多様な働き方に興味がある方は、ぜひ以下のコラムもあわせてご参照ください。
独立開業税理士のメリットは、高収入を期待できる点です。組織に雇われている以上必ず収入に一定の上限が加わる勤務税理士とは異なり、独立開業税理士は自分の頑張り次第でどこまでも収入をアップさせることが期待できます。
独立開業税理士の平均年収は一般に3,000万円前後と言われています。勤務税理士の平均年収が約700万円とされている実情を踏まえると、いかに独立開業税理士が儲かる仕事かご理解いただけることでしょう。
しかし、こちらは大手税理士法人を経営している敏腕税理士を含めた平均値である点だけご注意ください。つまり、年収が300万円未満の独立開業税理士も存在するなど、年収の高い税理士と低い税理士の差はとても大きいです。高い収入を得るためには、それだけ経営努力を重ねる必要があります。
独立開業税理士の年収についてはこちらのコラムでも紹介しています。あわせてご確認ください。
次に、独立開業税理士になるデメリットについて説明します。
独立開業税理士のデメリットは、やはり勤務税理士の安定性を享受できない点です。経営方針などに関してすべて自由で決定できる反面、経営方針がうまくいかない場合には、その責任をすべて自分が背負わなければいけません。
事務所経営を軌道に乗せるためには、積極的に営業活動を行わなければいけません。地域の実情に即したサービスを展開する必要もあるでしょうし、それ相応の広告費用も捻出する必要があります。有給休暇や育児休暇を充分に取得できない可能性や、業務効率化のためのシステム構築の負担も背負わなければいけません。従業員スタッフを雇った場合には、彼らの生活に対する責任も負わなければいけません。
独立開業税理士のデメリットとして、廃業リスクの高さが挙げられます。つまり、例えば独立開業した税理士法人に自分しか税理士がいなければ、ご自身に何かあって職務をこなせなくなった段階で税理士法人を廃業せざるを得ないということです。これは、税理士という仕事の独占業務性に由来するものです。どれだけ優秀なスタッフがいたとしても、税理士資格の有無が事務所の生命線になるという点を忘れないでください。
それでは、税理士として独立した後、独立開業税理士がぶつかる色々な障壁について説明します。事務所を経営する以上、提供サービスや時代の流れなど、数多くの流動的な要素に常に気を配る必要があります。激動の時代を乗り越えていくために、独立開業税理士に興味がある方はぜひご参照ください。
AIや会計ソフトの普及によって、それまで税理士の主たる業務であった税務申告業務に関して大きな変革が生じています。
日本では、法人税、所得税、相続税、消費税などの国が課税する税目は申告納税方式によるものが大半を占めます。もちろん、税務は課税の公平を図るためどうしても複雑になりがちなので、今後も税理士がこれらの申告業務を請け負い続けることに変わりはないでしょう。
ただし、会計ソフトが広く普及し、またクラウドサービスが充実して、簿記の知識がなくても記帳ができる流れが主流になりつつあります。したがって、これまで税理士が収益の柱としていた記帳業務は減少しているので、独立税理士が収入を得るためには、これまでの税理士法人の経営方針をそのまま迎合するだけでは不十分です。
さらに、今後はAIにより、他の事務的な作業もだんだんと減少することが予想されます。AIが業務を台頭する時代の中で、どのような形で顧客にサービスを提供すれば事務所経営が成立するのかを考えましょう。
独立開業税理士になった以上、新規の顧客を獲得することは常に懸案事項です。しかも、この時代にあっては、例えば街中に税理士事務所の看板を立てておくだけは顧客獲得には不十分です。
新規の顧問先を獲得することを考える場合には、獲得したい顧客市場を明確に想定する必要があります。税理士の顧客というのは主に中小企業経営者ですので、彼らが経営をしていく上でどのような問題を抱えているのかをイメージしてみてください。
例えば、多くの中小企業が金融機関から事業融資を受けたり、創業者向けの助成金の利用を検討したりしています。そのため、中小企業経営者向けの事業融資を行なっている金融機関担当者と懇意になったり、助成金利用の相談を受け付けている商工会議所などと関係性を深めるというのはおすすめの手法です。
また、近年ではWEB経由で税理士を探す経営者が増えています。したがって、自社のホームページを用意して、有益な情報を提供することで顧客獲得を目指している会計事務所も増えています。
もちろん、ホームページを作りさえすればたくさんの人が自分のことを知ってくれるかというとそう甘くはありません。WEB経由の集客に力を入れている税理士の中には、メルマガやSNSを駆使して見込み客の開拓を行なったり、YouTube(ユーチューブ)で経営者向けのチャンネルを開設したりしている人もいます。
また、近年では、自分の求める条件に出会うために税理士のマッチングサイトがありますので、こちらを活用してみるのもかなり効果的でしょう。
多方面でIT化が進んでいるため、広告宣伝の手法も実に多様化しています。ぜひご自身のサービスを上手に宣伝しながら、新規顧客の開拓に注力してください。
顧問先の新規開拓も重要ですが、既存の顧客に対していかに高付加価値のサービスを提供するかという視点も重要です。
近年では、会計ソフトの普及によって個人の所得税申告や簡単な法人税申告などであれば、税理士に頼らなくても完結することが可能になっています。また、格安の経理代行サービスなどがたくさん存在していることも経営者は知っています。
したがって、従来のような税務申告の代理だけでは、税理士といえども価格競争に巻き込まれて利益を出すことが難しくなっているのです。顧問先企業から見て付加価値の高いサービスを提供できない税理士は淘汰されつつあるのが実情といえるでしょう。
こうした状況に対応するためには、経営する事務所にしか提供できないようなサービスを設定したり、サービスに税理士独自の付加価値をつける必要があります。
例えば、会計情報を活用した顧問先への経営アドバイス(MAS業務)や、資金調達の仲介などの高付加価値のサービスが挙げられます。また、税務に精通した税理士だからこそできる税務コンサルティングや、より経営面に深く根差した戦略コンサルなどのサービスを提供することも考えられます。顧客クライアントごとに、オーダーメイドのサービスを提供できれば、獲得した顧客に対して継続的なサービス提供が可能となるでしょう。
いずれにせよ、従来のように顧問先から「先生」と呼ばれながら、安定した顧問料収入を得るといった税理士のビジネスモデルは、今後ますます厳しくなっていくことは理解しておきましょう。
独立して税理士として活躍するための方法やメリット・デメリットについては以上です。
税理士として独立開業するには、開業後の収入の不安が懸念材料です。しかし、今般、政府の後押しも手伝って副業が社会的に広く認知されました。終身雇用が崩壊した現代、副業をする会社員はますます増えると予想されます。それによって「副業をする会社員の確定申告」という、新たな市場が形成され、マーケティングの手法によっては税理士にとって大きな収益源になる可能性もあります。税理士業はやり方によってはまだまだチャンスがある業界です。
ただし、このような税理士法人経営にとって後押しとなる実情ばかりではありません。AIや会計ソフトの普及によって、従来型の税理士の経営モデルが立ち行かなくなりつつあるという現実もあります。したがって、独立開業税理士としての将来を想定するときには、必ずより実践的な経営方針を見出す努力を続けなければいけません。
どの時代、どの業界にあっても、独立して事業を継続するのは簡単なことではありません。税理士という専門職についてもそれは当てはまります。ただ、数々の障害を乗り越えることさえできれば、必ず独立開業税理士として成果を収めることができるはずです。ぜひ果敢にチャレンジを続けてください!