絵描きとしてのスタートから、公認会計士試験に合格し、事務所代表として活躍されている林千尋先生。会計事務所は会社の『外部経営サポート室』であると考える林千尋先生に、これからのAI・IT化時代で求められる会計士についてHUPRO編集部が聞いてきました。
—最初に、会計士試験を目指したきっかけをお聞かせください
学生時代はもともと絵描きになりたくて、絵の勉強ばかりしていました。
留学もしたのですが、絵描きでは食べていけないことを痛切に感じました。その時期に、ちょうど友人が会計士の勉強をしていたので、それに影響されて私も勉強をはじめました。
昔からなりたかったとか、憧れていたわけではないですが、必死に勉強して、公認会計士の資格をとりました。
—もともと絵の勉強をされていたのですね!会計士試験の勉強で大変だったことはありますか?
もうすべてが大変した。絵ばかりやっていたので、経済や会計には触れたことはないですし、法律科目は細かいし、難しいし。とにかく馴染みもなく、それまでの勉強とは全く違う分野だったので、かなりきつかったです(笑)。それでも必死に勉強しました。
大学卒業後にいろいろやっていて、勉強を始めたのは28歳の時ですが、運良く2年で会計士試験に合格することができました。今振り返ると、勉強していた2年間は予備校に通いながら命がけで勉強する毎日でした。既に学生ではないですし、社会人として生活もかかっているから本当に必死でした。
—会計士の資格をとって一番変わったと思うことはどんなことですか?
資格をとって一番感じたことは、社会に居場所ができたことです。それまでは、絵の勉強をしていると言っても、どこか偏見があったり、会計士の試験勉強に比べて周りに理解してもらうのはなかなか難しく、大変窮屈でした。一方、会計士の試験勉強を頑張った結果、資格を取ることができ、周りからは認められ、そして、自分の居場所を感じられるようになりました。
でも、実は絵の勉強も、今になってとても役に立っています。ビジネス界では、どんな仕事でもクリエイティブな発想が求められる時代になり、アートに関して一生懸命やっていたことが今に活きています。
—公認会計士になられて、現在は事務所を経営されていらっしゃいますが、仕事の上で大切にされていることや事務所の強みを教えてください。
うちの事務所では、ビジネス承継に関する業務を大事にしています。
相続に関する業務内容で、相続税の節税対策はどこの事務所でもやっていると思いますが、本当に求められているのは、次の世代へのビジネス承継だと考えています。
「今や自社の事業は、ビジネスとして成り立たない」、「事業を引き継ぐ後継者がいない」など、会社の経営者は様々な問題を抱えていらっしゃいます。相談する人も少なく、次世代への相続や事業の承継はたいへん難しい問題です。
会計士は「数字」のことにはもちろん詳しいですが、「数字」に加えて、経営のコンサルティング要素を含むサービスの提供ができる人は、意外と少ないように思います。
なぜなら、ただ会計業務をこなすだけでは、経営コンサルティングの知識や経験を積むことはできないからです。会計に加えて、経営の知識や経験も必要ですし、なにより会社の経営陣、社員とのコミュニケーション能力が不可欠です。
私どもの事務所は、堅実な会計サービスと、進取的なコンサルティングサービスをご提供できる会計事務所であると考えています。
—会計士の方がコンサルティングもできるようになったらもう無敵ですね。ですが、そうなると経営コンサルティングとの差別化はどのようにお考えですか?
たしかに、会計事務所にしかできないコンサルティングサービスをご提供して、差別化を図る必要がありますね。現在は、会計事務所も、あるいは会社の経理部も、膨大な処理作業に追われて、ただ単に数字を集計して申告書を作って終わり、というケースがたいへん多いです。
税務署のために膨大な会計作業を行っているようにも感じられてしまいます。
本来、会計事務所として数字を出すだけが仕事ではありません。
会社の経理部も会計事務所も、数字を集計した後、経営判断するための資料を作成して提供することが本来の仕事ではないでしょうか。税務署に出す申告書はあくまでも外に提出するものであって、会社の経営にはそのまま使えません。
会社の経営に活かせる、“経営のわかる”月次資料を作成することが必要です。
社長はもちろん経営のプロですが、細かい集計は「数字」のプロの会計士が行い、専門知識のない社長でもご覧いただけるようなわかりやすい、一目でわかる「グラフ」を作成するといった経営サポートが求められます。
「数字」を出して根拠を示すことで、社長の経営に関するご相談にのることができるんです。客観的な「数字」に基づいて、あくまでも具体的な経営サポートができることが会計士としての強みです。
客観的な「数字」を基にした行動の打ち出しを行わないと、単なる掛け声だけで終わってしまって、結果に結びつきません。
今後は、手間とコストのかかる、いわゆる面倒くさい仕事はすべて機械に取って代わり自動化されます。会社の経理部も、会計事務所も、本来やるべき業務に集中できるようになります。
経理部は「経営サポート室」として、会計事務所は「外部経営サポート室」として、今まで以上に重要な役割を担うことになります。
—なるほど。AIやITが発展していくと会計事務所は仕事が減るという話もありますが、そのことに関してはいかがですか?
そういう話は最近話題になっていますね。
ある発表ではIT化やAIが発展することで、43%の仕事が代替され、集計や入力などの経理業務はすべて自動化の対象になると言われています。多くの会計事務所が、たいへん危機感を覚えていることは事実です。
しかし、私は危機ではなく、逆にチャンスだと思っています。
現在、会計事務所で行っている業務の半分、もしくはそれ以上が自動化できるというのは、とてもありがたいことです。アナログで行っている業務が自動化されることは、そこで空いたリソースを他に回す事ができます。
そうすることで本来会計事務所として求められる「経営のサポート業務」にもっと集中できるようになり、今後はさらに広く、経営に関するサービスをご提供できるようになるでしょう。
ITやAIに代替されるのではなく、人間がそれらを上手く使って、人間は人間にしかできない仕事をしていく形になっていくと思います。
—今までの業務の中で一番印象に残っていることをお聞かせください
今までで一番お客様の役に立っているなと感じたことは、“元気になっていただくこと”です。社長や経営陣の方は、行き詰まった時に、社内で相談することは意外と難しいようです。そんな時に、社外の人間に話すだけでも、気が楽になることがあります。会計士としてご信頼いただき、安心してお困りごとをご相談いただくことができます。
社長は、「もう打つ手がない、八方塞がりだ」と言われますが、話をお伺いすると、基本的な事でまだまだできていない事が山ほどあるケースがほとんどです。社長は、やれること、やるべきことが見えてくれば、途端に元気になられます。
元気がなかったのは、やるべき「行動」が見えていなかったからです。単なる話し相手ではなく、数字を根拠に経営の実質的なサポートも行いながら、その上でいろいろな話をお聞きして元気になっていただき、実際に会社の業績が回復したと感謝された時はとても嬉しいですし、お役に立てているという実感もあります。
—林先生の今後のビジョンをお聞かせください
現時点では、大まかなビジョンや数値目標は持っていますが、明確な方向性の絞り込みはできていません。今まで、十分に戦略を練ったり、取り組んだりしてきましたが、AIやIT時代のビジネス界の未来像は想像がつきません。基本的にはできることから取り組んでいこうと思います。
その結果、クライアント企業の社長や経営陣、社員の方々に元気になっていただくことが、うちの一番の強みかなと思っています。会計事務所として、「数字」を通して、クライアント企業のお役に立っていきたいと考えています。そのためにも、今できることを一つひとつ取り組んでいきたいと思います。
—今日はお話を聞かせて頂いてありがとうございました
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