通常、中小企業では固定資産の減価償却費を法人税の基準に則って処理している為、法人税とは違う処理をすることはあまり考えていないかもしれません。しかし、大会社となってくると法人税とは違う減価償却方法を採ることもあります。
そこで、今回は減価償却費と税効果会計の関係について解説します。
まず、一般的な償却方法である法人税法における減価償却費の計算方法を紹介します。
法人税法上、原則として10万円以上の資産については即時に費用化できるもの以外は固定資産として数年にわたって減価償却費として損金処理されていきます。
固定資産については、大項目が決められており、建物、建物付属設備、工具器具及び備品、機械及び装置、構築物等になります。また、この勘定科目をさらに用途や材質などで再分類をして、決められた耐用年数に当てはめ、その耐用年数に合わせて定額法、定率法等の届出を行っている方法によって減価償却費を計上していきます。
法人税法上定められた方法以外のものを用いて償却計算をした結果、法人税法で認められる額以上の減価償却費を計上してしまうと、別表4において加算処理を行い、費用処理されたにもかかわらず税務上の損金に算入できないこととなり、その分税金を損してしまうこととなります。
では、なぜ法人税とは異なる減価償却費を計上することがあるのでしょうか。
まず、企業の管理会計と法人税が乖離している場合です。
例えば法人税法上は機械装置の耐用年数が15年であったとしても、企業がその機械を動かして製品代金を回収するのを5年と定めたとします。その際、5年間の収益で機械代金を回収できているかどうかを見極めるために、管理会計上は5年の耐用年数を使ったとすると、15年の耐用年数を使った時よりも早期に減価償却を行うこととなります。よって、法人税法と異なる減価償却費の計上が行われてしまいます。
また、会計監査人設置会社のような大きな会社では、減損会計を行うことがあります。減損会計では、収益獲得能力が低くなった資産や遊休している資産などについて、一定の使用価値まで簿価を切り下げることをします。簿価を切り下げる際に「減損損失」という勘定科目を用いるのですが、これはいわゆる減価償却費を一括で計上していることとそれほど大差はありません。
よって、税法上はまだ減価償却費を計上しなければならない資産であるのに、減損損失を計上することによって早期に減価償却費を計上してしまい、会計と税務が乖離することが起こり得ます。
例えば、会計上100万円の減価償却費を計上しており、税率が30%だったとします。税務上全て減価償却費が認められたとすると30万円法人税等が下がります。一方で、税務上で全額減価償却費が認められないとすると法人税等は下がることはなく、先ほどの例と比べて30万円法人税等を損することとなります。
また、決算書上も利益に対して法人税等が高く計上されてしまい、いびつなものとなるだけではなく、会社としては費用を計上しつつも法人税等を支払わなければならず、踏んだり蹴ったりとも言えます。
そこで、税効果会計の登場です。
税効果会計では、先ほどの100万円会計上減価償却費を計上しつつも税務上は認められない場合、100万円×30%の30万円を繰延税金資産として計上するとともに、法人税庁調整額という収益勘定を用いることができます。
こうすることによって、確かに法人税法上得はしていないものの、会計上30万円分の利益が計上されるため、結果最終利益は法人税で償却が認められたものと同じ結果となるのです。
また、実際に超過している減価償却費が法人税法上も認められた期に繰延税金資産を取り崩して法人税等調整額を借方に計上することで、調整を採ります。
では、どんな時でも繰延税金資産が計上できるかと言えば、実はそうではありません。というのも、繰延税金資産は、現在税務上認められなかったとしても、今後税務上認められた期に節税効果が生まれる場合のみ計上できるからです。
例えば今期税法上認められる減価償却費を超過してしまったものの、翌期にその分が税法上認められれば翌期に節税できると考えられます。しかし、翌期にそもそも所得が発生していなければ意味がありません。
このように、将来課税所得が発生する見込みがある場合のみ繰延税金資産が計上できることとなります。具体的には、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に記載されている為、本適用指針にそって検討をすることとなります。
減価償却費が税法上の限度額を超過した場合、超過分について税効果会計を適用して利益を計上することができます。しかし、その際繰延税金資産を計上できるかどうかは将来の課税所得が発生するかどうかにかかっている為、合理的な経営計画の策定が必要となる点に注意しましょう。