税理士試験では5科目の合格が必要です。必修科目2科目と、どちらか一方は必ず受けないといけない選択必修科目2科目のほかに選択科目があります。それらを合わせて5科目の合格が必要です。本記事では、税法の選択科目の中で、事業税を選択した場合の難易度や勉強法などについて見ていきます。
税理士試験の科目は以下の通りです。必須科目の「簿記論」「財務諸表論」に加え、税法科目から3科目合格することが必要で、選択必須科目の「所得税法」と「法人税法」からどちらか1科目、そして残り2科目を選択科目の中から選ぶ方が多いでしょう。
税理士試験で科目の選択をする時に、せっかく勉強するのであれば、税理士試験合格後の自身のキャリアを考えて科目を選ぶのはある意味セオリーともいえます。
例えば、個人メインで仕事をする場合は、選択必須科目は*所得税*を選び、選択科目からは相続税法+1科目を選ぶといった具合です。
逆に法人メインの仕事を考えている場合は、選択必須科目は法人税を選び、選択科目からは法人税との絡みが多い事業税+1科目を選択するという人が多いという傾向があります。
もちろん、選択必須科目について、所得税法と法人税法両方を選択しても良いのですが、この2つは勉強に必要な時間がずば抜けてかかるため、どちらかを選択して、残り2科目を選択科目から選ぶというパターンが一般的です。
事業税を選ぶ場合は、法人税法を選択し、かつその問題構成から理論の比重が高いので、かなり理論を覚えて臨む必要があります。
では、そもそも事業税とはどういったものなのでしょうか?
事業税は、個人または法人が営む事業そのものについて課される税金のことです。事業を営むためには地方自治体の提供する設備・サービスを利用しなくてはならず、その対価として設定されています。
事業税の中でも、個人の事業者に対して課されるものを個人事業税、法人に対して課されるものを法人事業税と呼びます。
個人の収益に対して課される所得税や、法人の利益に対して課される法人税と似ていますが、事業税は事業そのものに課されているという部分に違いがあります。
ただし、事業税について理解するには所得税や法人税の知識が必要になってきます。
ここからは、税理士試験科目としての「事業税」について見ていきます。
事業税の試験時間は120分で、3日間ある試験日程の後半で行われることが一般的です。2024年度の税理士試験では、3日目の15時開始で、全科目の中で一番最後の試験科目でした。
なお、住民税のみ同時間帯で実施されましたが、他は全て別日時で実施されているため、他科目と併せて受験することも可能です。税理士試験全体の概要については、以下の記事をご参照ください。
論述式(記述式)で、計算問題と理論問題の中では理論問題の比率が高い傾向にあります。理論問題は暗記も重要ですが、そのアウトプットを柔軟にできるかどうかも大切です。また上述の通り、所得税や法人税との関連が深いため、これらの税知識が必要な問題も出題されます。
なお、国税庁が定めている事業税の出題科目は、以下の通りです。
出典:試験日程・試験科目について|国税庁
国税庁のHPには、「合格基準点は各科目とも満点の60パーセントです」と定められています。しかし、合格者が多すぎたり少なすぎたりしないよう各問題の配点が調整されるため、ただ6割の正答を書けば必ず合格できるというわけではありません。
理論問題はかなり難しい設問が出題されるケースも多いですが、計算問題はロジックを理解していれば解ける問題がほとんどです。
税理士試験の事業税の難易度はどのくらいなのでしょうか。
ここで、令和5年度の事業税の合格者数および合格率を見てみましょう。
受験者数 | 合格者数 | 令和5年度合格率 | (参考) 令和4年度合格率 |
---|---|---|---|
250人 |
41人 | 16.4% |
14.1% |
「受けている人数が少ない!」と思われる方も多いでしょう。実は事業税は、税理士としての実務であまり使うことがないということもあり、税理士試験の中でも1,2を争う、受験者数の少ない科目なのです。実際、令和5年度の試験では受験者数が最少の科目でした。
しかし、受験者数が少ないからといって合格しやすいわけではなく、合格率は決して高くないのも特徴です。税理士試験全体で令和5年度は18.8%であったことも踏まえると、16.4%の合格率だった事業税の難易度は高いといえるでしょう。
というのも、前述の通り、法人税とかかわりの深い事業税なので、既に法人税を受かっている人が受験してきたり、最後の1科目のみとなっている人が多く受験するからです。
また、他の科目に比べてボリュームが少ないため、受験する大部分の人が範囲全てをさらってきています。
こうしたことから、事業税受験者のレベルが高くなっているため、難易度も上がっているのです。
事業税の勉強時間については冒頭の表にもある通り、200時間程度が目安とされています。税理士試験科目の中では、勉強時間が比較的少なめといえます。
他の科目に比べて試験範囲が少なめであることなどが要因となっているようですが、この勉強時間だけをみて「ラクそうだから目指してみよう」と考えるのは尚早です。
なぜなら、事業税は必須科目の簿記論や財務諸表論、選択必須科目の所得税法や法人税法などを合格して、「5科目め」として受ける人が多いからです。
どの科目から受験するかについては特に定められていないものの、基本的な知識となる必須科目の2科目を最初に受けるのが一般的です。そこから選択必須科目→選択科目の流れで受験することが多いでしょう。
この場合、必須科目の2科目、選択必須科目のうちの1科目に加え、既に選択科目のうちの消費税法に合格しているとすると、既に4科目計1,800時間の勉強をしている状態で事業税に臨むことになります。つまり、税理士試験に2,000時間の勉強時間をかけて事業税の試験に取り組む人も一定数いらっしゃるということです。
そのような方と同じフィールドで合格を目指すのであれば、有効な勉強方法を採用しなくてはなりません。
ご紹介したように、事業税は計算問題と理論問題の双方とも出題されます。それぞれに分けて、効果的な勉強方法について解説していきます。
計算問題は配分としては少ないものの、できる限り100%の正答をしておかないと合格への道は厳しくなるので、少なくても試験前の練習段階では満点が取れるようにしておく必要があります。
そのために、何度も練習問題を解くことをおすすめします。予備校や資格講座などから配られたり、市販でも販売されている「答練(問題集)」を複数使用し、繰り返し解いていきましょう。ただし、毎年傾向を踏まえた最新の問題集が販売されますので、ご自身で購入する場合は、最新版を買うようにしましょう。
計算問題で100%の合格ができたとしても、理論問題である程度の点数を取得できないと当然合格はできないため、むしろ理論問題の習熟度が合否のポイントです。
理論問題については、条文の理解が要となります。範囲がことさらに膨大なわけではありませんが、暗記だけでなく様々な形でアウトプットできるようにしておきましょう。
特に力を入れるべきなのが、あまり得意でない分野の学習です。法人税法に合格していれば法人事業税の理論の理解にかかる時間はあまり多くないですが、個人事業税についてはそうはいかないでしょう。所得税法に合格している場合はその逆です。
このような今まで学んでない範囲の勉強に注力することで、合格をつかみ取ることができるでしょう。
もちろん独学で税理士試験を5科目突破している人もいますので、独学で合格することは可能です。
独学でどうにかしたいという方には、勉強時間が比較的少なくて済む事業税はおすすめの科目です。しかし、事業税は前述の通り、いわゆるマイナー科目。問題集やテキストを探しても多くは見つからないことがネックとなります。
事業税は地方税に該当するので、地方税の参考書を買って勉強するのもおすすめです。しかし、法人税の素養がないと理論を押さえるのも厳しいでしょう。
そして独学で勉強するのに何よりも最も大切なのは、モチベーションの維持です。税理士試験は年に1度なので、試験に合格するためにコツコツと積み重ねる必要があります。
ただ、限られた時間を有効に使うのであれば、「絶対に独学!」と拘らず、通学・通信・オンライン講座などの方が結果的に近道になる可能性もありますので、自分にあった勉強法を見つけるようにしましょう。
事業税が不利なことというと、マイナー科目のため、情報がないことから苦労しがちな科目であることです。
また、事業税の合格には正確な暗記力・速記能力・時間配分が重要です。暗記が好きで、書くのが早い人におすすめの科目となりますが、計算が速くても書くのが遅い人は向いていないといえます。
合格のポイントとしては、記述ばかりなので見やすい解答用紙を作成すること。60~70分で約9000文字を書くわけですので、手が痛くなるくらい文字を書き連ねる必要があるのですが、字が汚かったり、構成が見づらい人だと採点でマイナスポイントになる恐れがあります。しかし、丁寧に書いていると時間は明らかに足りません。
普段からキーボードばかり触っていて字をほとんど書いていないと言う人は、書く練習をするのも良いでしょう。
今回は税理士試験科目の一つである「事業税」について解説しました。「マイナーな科目である」「難易度が高い」という点から、決して他の選択科目よりもオススメというわけではないというのが正直なところです。どうしても相続税法や消費税法の方がニーズが高く、転職活動などにおいても活かしやすい傾向にあります。
ただし、医療法人など一部の企業に義務付けられている外形標準課税等は、法人事業税の知識が求められます。この税務申告には高い事業税の専門知識が必要とされるため、該当企業の税務部門やそのような企業をクライアントに持つ会計事務所では、事業税の知識が活かせるでしょう。
大切なのは、ご自身のキャリアに合わせて受験する科目を選ぶべきであるということです。税理士試験の各科目の概要について、以下の記事で解説してますので、併せてご覧ください。