税理士の働き方として近年注目されているのが、一般企業に雇用されて働く「企業内税理士」です。税理士事務所や税理士法人などで働く税理士が大多数である中で、企業内税理士として働くのはどのような魅力があるのでしょうか?今回は企業内税理士について、その働き方と年収について解説します。
企業内税理士とは、税理士の中でも一般企業で働く税理士のことを指します。
税理士資格を取得した後、税理士事務所を開業したり、税理士法人や会計事務所で専門家として働くパターンがメインのキャリアとして認識されていますが、一般企業で働く企業内税理士という働き方もあります。
社会的に税理士を名乗るためには、税理士会に申請・登録を行い、所定の年会費(10~15万円程度その税理士会ごとに異なります)を払う必要があります。この税理士としての登録パターンは、開業税理士、所属税理士、社員税理士の3つのみで、「企業内税理士」という登録方法はありません。そのため、一般企業で働く企業内税理士は、登録時には開業税理士として、自宅などを事務所として登録することになります。
税理士登録後も企業内税理士として勤務する場合は、
・業務執行に関する誓約書
・勤務先からの登録することについての承諾書
を税理士会に提出する必要があります。
その内容は、社内業務として税理士業務を行わせるのではなく、社外の税理士に依頼すること、第三者に税理士業務を会社のサービスとして提供しないことなどを誓約するものです。勤務先からもその条件で雇用することについて承諾を得る必要があります。
一般企業では、その企業が何をやっているかで、企業内税理士が配属される部門は異なります。経営企画部門や経理部門に配属されることが一般的で、最も多いパターンである経理部門では、各種決算業務や有価証券報告書の作成を中心に行うことになるでしょう。
金融機関(銀行や証券会社など)に在籍している企業内税理士の場合、相続関連の部署で財産評価や事業承継のコンサルティングなどに携わることもあります。
税務だけでなく、税務+αの幅広い分野に携わることができるのが、一般企業の魅力でしょう。
日常の経理業務については、社内経理システムなどに則った伝票処理を行うなどの実務から、上場企業の場合は四半期決算がありますので、3か月ごとの決算作業、決算短信や有価証券報告書、決算書類などの作成が必要です。
連結決算などが絡むグループ企業の場合は、それぞれの部門が集計を行う分担が決まっている場合があり、最終的に経理部がまとめたりといった調整が求められます。
上場企業であれば、J-SOX対応の業務が必要です。業務プロセスのテストや、関係会社に出向いてテストを行う場合もあります。
会計事務所による監査を受けている場合は、内部監査部などと連携して監査対応を行います。監査についての担当部門がある場合も、経理部からデータ提出が必要ですし、会計士のレビューを受ける必要がありますので、諸々の対応が求められる業務です。
消費税や法人税の確定申告、予定納税などの試算と納付など、企業体が大きいほど年に何度も申告を行います。半期に一度は中間申告があるため、仮決算などの作業も伴います。
海外に事業所を持つ会社の場合は、国際税務の仕事が絡む場合もあります。
税制改革などに伴い、独自のシステムを導入しているところであればシステムの仕様変更を行ったり、また、抜本的なシステム変更や開発に携わる場合もあります。
経理システムは他の社内システムと連動している事も多いので、情報システム部門と連携し、現場への教育、問い合わせ対応など業務内容は幅広いです。
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企業内税理士の年収は平均で600万円ほど、役職が付けば1,000万円以上も可能です。ただし、税理士事務所で働くのに比べて企業の規模や給与体系によって、その金額は大きく異なります。
厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、税理士の平均年収は約958万円であるため、平均で比べると企業内税理士の年収はやや低めであるといえますが、管理部長クラスになればそれを優に超える年収を実現できるでしょう。
企業内税理士以外の税理士の働き方として多いのが、税理士事務所や税理士法人に雇われて働く、もしくは税理士事務所の代表などを務める開業税理士です。
ここでは、それぞれの働き方をする税理士と企業内税理士との年収を比較してみます。
税理士事務所や税理士法人で働く税理士の平均年収は700万円ほどと想定されており、企業内税理士よりはやや高めです。
ただし、会計事務所はBig4税理士法人で働くかそれ以外で働くかによって年収が大きく変わります。Big4税理士法人ではポジションごとに明確に年収帯が分かれていますが、給与水準自体が高いため800~900万円が平均値と考えられます。
Big4税理士法人でマネジャーやシニアマネジャーといったポジションまで上がると、1,000万円は簡単に超えることができるでしょう。またそれ以外の会計事務所の中でも、相続や国際税務などの高度な業務に特化した事務所の場合は、給与水準が高めであることが多いです。
これらを踏まえると、企業内税理士より高い年収の税理士が多いと考えられます。
日本税理士会連合会の2015年公表のデータによると、開業税理士の平均年収は約3,000万円とされているため、企業内税理士よりはかなり高い年収を実現できるといえます。ただし、営業力や経営能力が高い一部の開業税理士が億単位の年収を稼いでいるため、多くが1,000万円~3,000万円ほどの年収帯だと考えられます。
その金額であったとしても、企業内税理士よりも高い年収を実現しやすい働き方であるといえるでしょう。
このように税理士の中では企業内税理士の年収は決して高いわけではありません。そんな中で企業内税理士として年収をアップさせたいのであれば、元々給与水準の高い会社に税理士という資格を持った強みを生かして転職するというのが一番の近道です。
所属している企業での年収アップを目指すためには、できる業務幅や持てる裁量を増やしていく必要がありますが、税理士資格を持っている時点でその幅や量はある程度決まっています。つまり、企業内で大幅な年収アップを目指すというのは、税理士にとって有効な手段とは言えないのです。
そのため、今より高い年収が提示される企業への転職を考える方が年収アップを実現しやすいでしょう。企業の年収というのは業界によっても異なりますが、税理士という仕事はどの会社にもある経理業務に関わることなので、今までとは畑違い業界の企業に転職するというのも可能です。
年収の高い企業というのは基本的に一部上場などの大企業や外資系の企業となります。例えば、金融や外資系など、30代で1000万円代が当たり前という業界であれば、税理士資格を武器に転職することで、そのランクの年収を得ることができます。
また、見た目の年収には反映されていませんが、退職金などの福利厚生やワークライフバランスに関しても、大企業の方が充実しています。
あるいは、ベンチャー企業のCFOなどの役員として転職して新たなチャレンジをしてみるという方策もあります。上場によって創業者利益を得ることができる場合も。
税理士全体の年収事情についてはこちらのコラムでも詳しく紹介していますので、あわせて是非ご覧ください。
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企業内税理士は他の税理士より年収がやや低いとお伝えしましたが、「これを受けて企業内税理士の需要は低いのではないか」「企業内税理士として働くべきではないのではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、企業内税理士という働き方はメリットも多いため、オススメの選択肢といえます。ここでは、具体的なメリットについていくつか紹介します。
税理士事務所で働いたり開業税理士として働く場合、その事務所の売上に年収が左右されるため、年収の波が大きく上下する可能性が高いです。一方で、税理士を雇う企業はある程度事業が安定しているため、経営成績による年収の不安定感を感じることは少ないでしょう。
そのため、家族を持っていて安定した生活を送りたいという税理士にとって、魅力的な働き方であるといえます。
税理士事務所や税理士法人は、特に繁忙期になると残業時間や休日出勤が増えるなど、一定のハードワークが求められる傾向にあります。それに比べると一般企業は、営業職などの他の社員と同じ労働条件で勤務するため、そこまでのハードワークをさせる環境は少ないです。
企業内税理士のキャリアのゴールとして、CFOが挙げられます。CFOは決裁権や裁量権が非常に高く、税理士事務所では味わえないようなやりがいを感じることが出来るでしょう。役職が高い分、その企業の中でも高い年収をもらえる点でも、「目指し甲斐のある」ポジションといえるでしょう。
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税理士資格を持っているからといって、必ず税理士事務所で働かなければいけないわけではありません。実務経験がある税理士であれば、どの企業でも即戦力として重宝されるでしょう。年収の安定感などメリットも多い「企業内税理士」という働き方も考えてみてはいかがでしょうか。