監査法人とは、監査業務を通じて企業が適切な会計処理を行っているかを証明する法人です。試験に合格した公認会計士の9割が就職するといわれていますが、業務内容などについてイメージが浮かぶ方は多くないかもしれません。今回はBig4と呼ばれる大手から中小監査法人まで年収や転職する方法まで徹底解説していきます。
監査法人とはその名の通り、企業の監査を主たる業務として行う法人を指します。公認会計士法に基づき、公認会計士が5人以上在籍していることが設立の条件となります。
監査法人では公認会計士の基礎とも呼べる監査業務を主に行うため、公認会計士試験に合格した人の9割が監査法人に就職しており、公認会計士のキャリアのスタート地点でもあります。
〈参考記事〉
監査法人の基本的な役割は、企業の信頼性と透明性の確保にあります。
詳しくは後述しますが、監査法人の主な業務である会計監査では、各企業が法令に則って正しく会計処理を行っているかを調査して、結果を株主や債権者に証明・報告します。
どうしても発生してしまう人為的なミスだけでなく、意図的な不正や粉飾を未然に防ぎ、信頼性を構築することは投資家(株主)や取引先が安心して企業とやり取りできるようにするという意味でも企業にとって看過できない重要なミッションなのです。
企業が健全に運営されていることを証明した情報を基に、投資家やステークホルダーは融資判断を行うため、これらの債権者に対する信頼を強化することができる監査は企業にとって重要な業務となります。
ここからは、監査法人の仕事内容を見ていきましょう。主な仕事は監査業務とコンサルティング業務などの非監査業務に分けられます。
監査業務とは、上述の通り、公認会計士が企業の財務諸表を第三者的な視点からチェックすることで、会計処理が正しく行われているのかを確認する業務です。企業から開示された財務諸表を細かく見ていき、報告書として意見表明を行います。
なお、この監査業務は公認会計士の独占業務であるため、公認会計士しか行うことができません。
上場企業や、資本金5億円以上もしくは負債総額200億円以上などの非上場企業など、所定の条件を満たす企業は監査を義務付けられており、その他様々なニーズに応じて監査を行います。
〈参考記事〉
監査法人では、監査業務以外の業務も行います。
その内容は幅広く、経営戦略の立案から組織再編など経営全般にわたるコンサルティング業務を行いながら、顧客が抱える経営課題を解決するアドバイスを行っています。
代表的なものとしてはM&Aアドバイザリー業務や株式公開支援といった上場サポートなどが挙げられます。
これらは公認会計士の独占業務ではないため、公認会計士以外でも行うことができます。しかし、公認会計士の高い専門知識を活かすことができ、企業側からのニーズも高いため、近年では監査法人においてもこの非監査業務の割合が増えている傾向にあります。
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日本には、中小規模を含めると約200以上の監査法人があります。
監査法人の区分については主に下記の3つに分けられます。
日本の4大監査法人というのは次の4つの監査法人を指します。
これらの4つの法人は、世界的に規模が大きい会計事務所である「Big4」と提携している日本の監査法人です。
上場企業100社以上を監査し、かつ常勤の監査業務従事者が1,000人以上の監査法人であり、日本の上場企業における監査業務収入の8割程度のシェアを有しているといわれています。
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準大手監査法人とは次の5つの監査法人を指します。
これらの5つの法人は、大手監査法人以外で、比較的多数の上場会社を被監査会社としている監査法人のことです。
ほとんどが国際会計ファームの一員であり、品質も高いですが、4大監査法人と比べて規模が小さめのクライアントが多いのが特徴です。
上記以外の監査法人を指します。
中小監査法人とひとくくりにいっても、従業員が数十名のところから数百名まで規模は様々です。また、海外特化やIPO特化など、特定の業界に特化した監査業務を行ったりと、人数やクライアントの規模では測れない強みがあります。
ここからは、実際に監査法人で働くにあたって気になる情報を解説していきます。
まず気になる年収について、会社の規模によっても変わりますが、監査法人の役職ごとの平均的な年収は以下の通りです。
スタッフ(1~4年目) | 約400~600万円 |
シニアスタッフ (5~8年目) |
約700~800万円 |
マネージャー (9~14年目) |
約800~1,000万円 |
パートナー (15年目~) |
約1,500~2,500万円 |
監査法人の年収は、年齢よりも公認会計士の資格や、監査法人での勤務経験の有無によっても大きく変わってきます。いずれにしても、1年目から約400〜600万円も年収があるというのは、日本の全国的な水準よりも比較的高い傾向であるといえます。
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ここからは、どのような人が監査法人の勤務に向いているのかについて、その3つの特徴をご紹介します。
監査法人で仕事をするにあたり、クライアントの会計処理が正しく行われているかを調査するためにも、チーム内のメンバーだけでなくクライアントの経理担当や役員など、様々な方からヒアリングする必要があります。また、監査結果を報告する際にも、結果を適切に伝えるためのコミュニケーション能力が必要となります。
監査法人では基本的にプロジェクト単位で仕事をするため、クライアントの業界や規模により異なる様々な問題に対処することが求められます。未知の問題に対する柔軟な思考力を持つことで、新しい解決策を生み出すことが可能となり、効果的に対処することができるでしょう。
監査法人では、与えられたタスクを的確に、時間内にこなす能力が求められます。チームでプロジェクトを進めることが多いため、組織やチームのプロセスを遵守し、与えられた自分の業務を全うすることができれば、周りと協力して規模の大きい案件を達成することができるでしょう。
では、実際に監査法人で働くにあたり、転職難易度はどれほどなのでしょうか。
結論から申し上げますと、現在の監査法人の転職市場は売り手市場であり、大手・中小に関わらず積極的に採用を行っています。
ただ、その転職難易度は年齢やキャリアによって異なるといえます。
20代であれば、公認会計士資格を取得していれば転職できる可能性は高いですが、30代の場合は前職での成果や、何らかの実務経験が求められることも少なくありません。40代になると、実務経験だけでなくマネジメント経験なども求められる傾向があるため、こうした自身の強みや経験をしっかりアピールすることが重要です。
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では、実際に監査法人で働くためにはどうすればよいのでしょうか?
ここからは監査法人で働くためのポイントについて、士業・管理部門特価のキャリアエージェントが解説していきます。
まず、監査法人に就職・転職するには公認会計士試験に合格している必要があります。
先ほどご紹介したように監査業務は公認会計士の独占業務にあたりますので、外部監査や内部監査を問わず監査人は公認会計士でなくてはなりません。
監査法人は通常、論文試験合格発表の直後に定期採用を開始します。一般的には、11月中旬ごろに、説明会や面接などの就職活動が始まるので、スケジュールはしっかりとチェックしておきましょう。
また上記を見ていただければわかるように、監査法人の就活は2週間〜3週間程度の短期戦です。
公認会計士試験の合格後、短い期間内で面接対策などをしっかり行うことが、監査法人への就職を成功させるカギとなってきます!
前述のように、監査法人への就職はいかに短い期間できちんと書類の作成や面接対策を行えるかということに懸かっています。監査法人への就職を考えているのであれば、試験の合格発表よりも前から、事前にエントリーシートの作成や志望動機を固めておくことをおすすめします。
特に、志望動機を固める上で大切なのが、数ある監査法人の中からなぜその監査法人を選んだのかということです。
前述のように、監査法人にはBIG4系や独立系などさまざまな形態があります。
それぞれの特徴をきちんと把握した上で、自分がなぜその監査法人に入りたいのかということを考えておきましょう。
応募先の求人や監査法人の特徴を分析することで、その監査法人がどのような人材を求めているか把握できるようになります。その人材に必要な能力を更に分析し、自分に何ができるか考えてアピールするのが良いでしょう。
また、志望動機や自己PR以前に社会人としてのマナーもきちんとチェックしておきましょう。服装や、話し方、言葉遣い、表情など、基本的な事項も徹底しておく必要があります。
本来、公認会計士はとても価値の高い資格なので、持っているだけでかなり就職や転職においては有利です。その一方で、監査法人を目指す方の多くが公認会計士を持っているため、上記のようなポイントも含め、しっかりと選考への対策をしておく必要があります。
ですので、人材エージェントを活用して綿密な選考対策を行い、ミスマッチの無い法人に応募していくのがオススメです。
さらに業界特化型エージェントにおいては、金融機関や士業バックグランドを持つ人材の転職支援実績を多く有しているため、企業として一定の選考に係るナレッジや企業とのパイプラインを有しており、転職に関するリアルな情報提供が可能です。
士業・管理部門の転職エージェント「ヒュープロ」では、監査法人への転職をお考えの皆様のキャリアをサポートさせていただいております。
将来に向けたキャリアパス・キャリアプランのご相談や、転職市場のご説明などももちろん可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
〈参考記事〉
最後に、監査法人への転職を目指す方からよく寄せられる疑問についてQ&A形式でご紹介していきます。
監査法人への転職を考えている方からよく寄せられるのが「監査法人は激務」であったり「仕事がつまらない」ということに対する不安です。
激務ということについては、法人によって異なりますが、監査法人が激務というイメージはこの繁忙期の忙しさが要因だと思われます。一方でそれ以外の閑散期となれば定時で帰れる人もおり、担当会社やポジションによって異なりますが、忙しさは緩和されます。
また監査法人の業務については、入って間もないスタッフレベルの人が、単純作業の多いルーティンに飽きてしまう、もしくは監査という業務が合わないと感じて、キャリアチェンジのために監査法人を退職するケースがあります。
ただ、監査を一定期間経験した後に、税務やアドバイザリーの部門で活躍することもできます。特にアドバイザリーについては、会計分野はもちろん、M&AやIT分野でも「監査を経験してきた人材」が求められることが多々あるので、監査法人で監査業務を経験した公認会計士だから活躍できるキャリアであるといえるでしょう。
〈参考記事〉
監査法人への転職を考える際、Big4と呼ばれる大手監査法人から中小監査法人まで選択肢が多岐にわたるため、結局どこがいいのか迷ってしまう場合もあるでしょう。
そんなときはご自身が何を大切にして仕事選びをしたいのか問いかけてみてください。それを叶えられる可能性が高い職場を探せば、自ずと選ぶことができるでしょう。
ここではよくあるご希望に沿って、いくつか例を挙げさせていただきます。
勤務地を絞って職場を選びたい場合は、事務所の所在地も重要なポイントとなります。もし、なるべく転勤などは避けたい、あるいは地元で働きたいといった希望がある場合は、拠点によって事務所を選択するということを考慮に入れてみてはいかがでしょうか。
中小監査法人に比べて、Big4監査法人の方が高年収を得られる傾向にあります。昇給により異なりますが、Big4監査法人の平均年収の800~900万円に比較して、中小監査法人だと600~700万円が平均年収になります。
雰囲気や社風もご自身が最大のパフォーマンスを発揮するために重要な要素となります。こちらについては数値データや企業のHPだけではほとんど分からない部分ですが、スキルアップをしたい、とかワイワイした雰囲気で働きたいなどの希望があれば下記の記事をご参考にしてみてください。
〈参考記事〉
監査法人と会計事務所の大きな違いは業務です。
監査法人の主な業務は「監査」、会計事務所の主な業務は「記帳代行業務」と「税務業務」です。
また、監査の専門家は公認会計士であり、税務の専門家は税理士ということになります。したがって、監査法人には主に公認会計士が所属しており、会計事務所には、主に税理士が所属しているということになります。この違いは、業務の内容によるものです。
もちろん、公認会計士が会計事務所に所属することはできますが、監査は主に大企業や上場企業に対して行う業務となるため、専門である会計監査の知識を活かす幅は限られるということになります。一方で、税理士であっても監査法人に属することはできますが、専門である税務の知識を活かす幅はかなり狭くなってしまいます。
今回は、一般的にはあまり馴染みがないと思われがちな監査法人の仕事内容について解説してきました。実は、私たちの生活に深くかかわる仕事だということがお分かりいただけましたでしょうか。また、監査法人での仕事は「単調でつまらないように感じる」といったことを言われることもありますが、とても複雑で大変な仕事の分、やりがいのある職業であることは間違いありません。
これから監査法人への就職・転職を目指す人にとっても、この記事が参考になれば幸いです。