経理や財務など会計関連の職種以外の人は、会計の知識は不要なのでしょうか?答えはNO。会計の知識は全ての職種で必要です。特に重要なのは財務諸表。なかでも財務三表の読み方です。企業の安全性、収益性、将来性はしっかりしているかの見極めに役立ちます。財務諸表を読むスキルを身につけ転職活動に生かしましょう。
まず、簡単に「財務諸表」「財務三表」の言葉の意味に触れておきましょう。
企業は年に一度、決算を行います。その時に作成するのが「決算書」です。
この決算書を、金融商品取引法(証券取引法)で「財務諸表」と呼びます。一方、会社法での呼び名は「計算書類」です。
厳密にいうと、うちわけの書類や呼び名は少しずつ異なります。しかし、大体同じものだと思っていてかまいません。
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
によると、財務諸表とは以下のものを指します。
・貸借対照表(B/S)
・損益計算書(P/L)
・キャッシュフロー計算書(C/F)
・株主資本等変動計算書(S/S)
・附属明細書
連結決算の場合は、これに「連結包括利益計算書」が加わります。
なお、国際会計基準によって財務諸表を作成する場合には、以下の4つの書類となります。
・財政状態計算書
・包括利益計算書
・持分変動計算書
・キャッシュ・フロー計算書
財務諸表には様々な書類がありますが、中でも重要な3つの書類を「財務三表」と呼びます。
以下の3つの書類です。
・貸借対照表(B/S)
・損益計算書(P/L)
・キャッシュフロー計算書(C/F)
この3つの書類を読み解くことで、企業のお金の流れがわかるようになっています。
損益計算書からは会社の「収益性」、貸借対照表からは「安全性」、キャッシュフロー計算書からは「将来性」を見ることができるのです。
ただし、キャッシュ・フロー計算書については、金融商品取引法の適用を受ける上場会社のみ作成・開示が義務付けられています。日本の企業の99.7%は中小企業のため、キャッシュ・フロー計算書を作成する義務はありません。
財務諸表は、財務諸表は、法律で書式が決まっています。業種によって特例はありますが、基本的に統一フォーマットです。原則をつかめばどんな企業でも読めるようになります。大事なのは規則を知ることです。
貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)は、企業の決算日時点での財政状態を見るものです。英語では「Balance sheet」であることから、「BS(ビーエス)」と呼ばれることもあります。
貸借対照表は、左右に分かれており、左側は会社の「資産」、右側は「負債」と「純資産」です。「バランス」というように、左右の数字は必ず一致するようになっています。
つまり資産の合計=負債の合計+純資産の合計 という式が成り立つのです。
資産・負債・純資産のそれぞれの項目を見てみましょう。
貸借対照表の「資産の部」にある主な項目は以下の通りです。
現金:紙幣や硬貨のほかに、他社の小切手も現金として扱います
普通預金:普通預金口座に入っているお金です
当座預金:当座預金とは小切手や手形などを決済するための預金です
受取手形:受け取った手形です
売掛金:商品の販売代金でまだ現金化していないものです
貸付金:他人に貸付しているお金です
有価証券:他社の株式や社債・国債などを指します
繰越商品:決算日までに売れなかった商品です
未収金:商品以外の有価証券や備品の代金を受け取っていないものです
建物:保有するビル・店舗・倉庫など
土地:保有する土地
備品:オフィス家具やPC,コピー機など
車両運搬具:会社で使用する車など
**特許権・著作権:法律によって定められた権利
貸借対照表の「 負債の部」にある主な項目は以下の通りです。
借入金:他人に借りたお金⇔貸付金
支払手形:支払うべき手形⇔受取手形
買掛金:後払いで商品を購入した代金⇔売掛金
未払金:後払いで商品以外のものを購入した代金⇔未収金
預り金:源泉徴収した所得税や社会保険料など一時的に預かっているお金
引当金:退職金や賞与など将来の支出や損失に備えるお金
貸借対照表の「 純資産の部」にある主な項目は以下の通りです。
資本金:株主からの出資金
繰越利益剰余金:会社が出した利益
資本準備金:資本金としない出資金
利益準備金:配当の1/10を積み立てたもの
任意積立金:将来に備えて会社が積み立てたお金
資産を増やすためには調達するための資金が必要となります。
そのため、負債か純資産もその分必ず増えるのです。
負債は返済義務のあるお金、つまり借金ですが、純資産は出資されたり利益の蓄積だったりして返さなくてもよいお金のことです。つまり会社の財産を表します。
例えば、資産であるビルや工場をたくさん持っていたとしても、負債が大きければ借入金が多く、状況は厳しいことがわかります。会社の財産は、資産の大きさだけでははかれません。貸借対照表を見て、純資産がどのくらいあるかで会社の財力がわかります*
貸借対照表については、以下の記事でも解説しています。あわせてご覧下さい。
損益計算書は、企業がどのくらいの利益・損失を出したかを記載した決算書です。英語では「Profit and Loss Statement」(利益と損失の申告)略して「P/L」とも呼ばれます。
最近の損益計算書は、上下に並べる形式が主流になっていますが、上の図は、収益と費用・利益の関係をわかりやすく示したものです。損益計算書の勘定科目は、収益と費用、そして「収益-費用」で算出される「利益」で構成されています。黒字の場合は利益がプラスになり、赤字の場合はマイナスです。
損益計算書は、貸借対照表のように収益・費用・利益を借方・貸方に分けて表記することが少なくなっています。というのは、以下の注目すべき指標があるからです。
・売上総利益=売上高(収益)-売上原価(費用)
・営業利益=売上総利益-販売費・一般管理費(費用)
・経常利益=営業利益-営業外費用(費用)+営業外収益(収益)
この指標を見やすくするために、最近の収益計算書はタテ表示になっているものが多いのです。
出典:株式会社セブン・イレブン・ジャパン貸借対照表・損益計算書
こちらは、株式会社セブン・イレブン・ジャパンの第48期 (令和2年3月1日から令和3年2月28日まで)損益計算書です。これをもとに項目の解説をしていきます。
項目の中には業種特有のものがありますので、あくまで一般的な項目を拾っていきましょう。
営業総収入(収益):営業で得たすべての収入
売上高(収益):顧客からの商品の売り上げ
売上原価(費用):商品の原価
売上総利益=売上高(収益)-売上原価(費用)いわゆる「粗利」
販売費および一般管理費(費用):販売促進費、交通費、人件費など
営業利益=売上総利益-販売費および一般管理費(費用)
営業外収益(収益):本業以外の活動で経常的に得ている収益
営業外費用(費用):企業の本業以外の活動から生じる費用
経常利益=営業利益-営業外費用(費用)+営業外収益(収益)
特別利益(収益):特別な要因でその期にだけ発生した臨時的な利益
特別損失(収益):特別な要因でその期にだけ発生した臨時的な損失
当期純利益(利益):収益から費用を引いた儲け
よく言う「年商」は「収益」です。「年商5億円!」だったとしても、費用が4億円かかっていたら利益は1億円となります。大事なのは、売上原価や経費である費用を差し引いた「利益」なのです。
損益計算書については、以下の記事でも解説しています。あわせてご覧下さい。
「キャッシュフロー計算書」は、会社の資金の流れを明らかにしてくれる書類です。
営業活動、投資活動、財務活動それぞれの活動によってどれだけの資金を稼いだか、または支出をしたかを示します。キャッシュフロー計算書を見ると、お金がどれだけ入り、どれだけ出ていったか、そして最終的に手元にいくらの現金があるかがわかります。
貸借対照表の項でも述べましたが、会社は手元の現金がなくなった時に倒産します。帳簿上の利益が上がったとしても、資金の流れがストップしていたら倒産してしまうのです。
キャッシュフローを把握することは、企業にとって非常に重要なのです。
しかし、財務三表のうち、キャッシュフロー計算書の開示が義務付けられているのは上場企業のみとなっています。
そのため、非上場企業では開示されていないばかりか作成していない会社も多いです。
キャッシュフロー計算書については、以下の記事でも解説しています。あわせてご覧下さい。
財務三表の構成と、項目がわかったところで、使われる指標を簡単に解説しておきます。
貸借対照表を用いて行います。
長期的に株式を保有することを目的としている株主や、銀行などの債権者が企業の安全性を分析するのに次のような指標を用いることがあります。
①流動比率:流動資産÷流動負債
②当座比率:当座資産÷流動負債
③自己資本比率:自己資本÷総資本
④負債比率:負債÷自己資本
⑤固定比率:固定資産÷自己資本
⑥固定長期適合率:固定資産÷(自己資本+固定負債)
⑦インタレスト・カバレッジ・レシオ:(営業利益+受取利息配当金)÷支払利息
それぞれの指標については、以下の記事でも解説しています。ぜひご確認ください。
収益性分析は主に損益計算書、特に利益を用いて行います。損益計算書単体の指標であれば1年間どのような収益性であったか確認が可能です。さらに、貸借対照表も合わせれば、どれだけ効率的に利益を獲得しているかがわかります。
①売上高総利益率:売上高総利益÷売上高
②売上高営業利益率:営業利益÷売上高
③売上高経常利益率:経常利益÷売上高
④総資本経常利益率:経常利益÷総資本
⑤自己資本当期利益率:当期純利益率÷株主資本
以下の記事でも解説しています。ぜひご確認ください。
財務諸表は、数字がずらずらっと書いてあるのでよくわからないと思われがちです。
必要なのは慣れです。フォーマットは決まっているので、構成と項目を理解すれば誰でも読めるようになります。まずは自分の会社や興味のある会社をどんどん見ていくと良いでしょう。
例えばコマーシャルをよく見るようになった企業や、本社売却など、大きなニュースのあった会社の財務諸表を見て、財務諸表にどのように反映しているかを確認するのも良い練習になります。
なお、財務諸表は、貸借対照表だけ、損益計算書だけで見るものではありません。
また、単年だけで見ても本来の姿は見えてきません。その年に特別損失があって業績が悪いように見るのかもしれません。前年度、前々年度も一緒に確認しましょう。
財務諸表の分析については、以下の記事でも解説しています。ぜひご確認ください。