税理士として働くことを目指している方の中には、「税理士の就職に学歴がどのように影響するのか」に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、税理士の就職と学歴の関係について解説します。会計事務所で収入を上げるにはどうしたらいいのか?についても解説していますので、参考にしてみてください。
まずは税理士になるために多くの人が受験する税理士試験と学歴の関係について見ていきましょう。
そもそも学歴によって税理士試験が受けられないということはあるのでしょうか?
結論、どのような学歴でも受験することはできます。実際に2023年税理士試験の受験者の学歴別分布は、下表の通りでした。
出典:令和5年度(第73回)税理士試験結果|国税庁HP
ただし税理士試験の一部科目については受験資格があり、それらの科目を受ける際に、学歴によっては他の条件をクリアしなければないこともあります。次で税理士試験の受験資格について、紹介していきます。
前提として、試験科目のうち必須科目である簿記論と財務諸表論については、受験資格の制限が無くどなたでも受験できます。かつてはこれらの科目についても受験資格がありましたが、2023年試験から緩和されました。
税理士試験の受験資格として、「学識」・「資格」・「職歴」によるものがあります。このうち「学識」による受験資格のなかに学歴の記載があり、具体的には以下のように定められています。
上記のいずれか一つでも満たせば受験資格として認められるわけですが、このいずれも満たせなかったとしても他の「資格」や「職歴」による受験資格で受験することは可能です。税理士試験の最新の受験資格については、以下の記事をご参照ください。
先ほど税理士試験の受験者の学歴別分布を表でご紹介しましたが、その表には各学歴の受験者の合格率も記載されています。
この表において大学卒は21.1%、高校・旧中卒は23.8%でした。
つまり2023年の試験に限れば、高校・旧中卒の方が合格率は高い数字でした。他の年の試験を見ても、率の上下はあるものの、大卒の方が必ず合格率が高いという法則はありません。
このことから、最終学歴と合格率に相関性は無く、いかに合格に向けた勉強をしてこれたかの方が重要であることが分かるでしょう。
税理士資格を活かして働くことを考える場合、就職先としては大きく分けて以下の2つが挙げられるでしょう。
将来的に税理士として独立開業を目指している人の場合は、会計事務所で働くことを選択することが多いはずです。
会計事務所への就職活動では、税理士資格を保有していたり一部の科目を取得している場合は、学歴が問題となることはないと考えて構いません。また、税理士業界での業務経験がある場合などの転職活動についても、学歴は重視されないでしょう。
ただ、大学生の就職活動や未経験からの転職活動で、税理士試験の合格科目も無い場合は学歴が関係してくる可能性があります。
とはいえほとんどの会計事務所では、大卒者であれば有名大学の卒業であるか否かは重要視されませんし、高卒の学歴の人であっても、会計事務所で正社員として働いている人はたくさんいます。
ただし、会計事務所というのは従業員数名〜数十名程度の小さな組織である場合がほとんどです。そのため、良くも悪くも採用の意思決定を行う開業税理士の考え方で合否が決まる部分があります。大卒者に限定して採用していたり、有名大卒者だけを採用したり、代表と同じ大学の卒業生が採用されやすいというケースが無いわけではないのが実情です。
会計事務所の職員の学歴を見てみると、大卒が多いです(とくに経済学部や経営学部、商学部など)。というのも、会計事務所で働く人の多くが税理士試験の受験生だからです。
先述した受験資格の中で、特定の学問に関する単位取得して満たす方法は他に比べると確実に取得しやすいといえます。そのため、税理士になろうと考えたら、とりあえず大学に行こうと考えるのが一般的な手段なのです。
ここまででご紹介したように、税理士試験の合格も会計事務所への転職も高卒で十分可能です。
ただし、税理士試験は自分の努力次第で合否が決まりますが、どうしても転職では採用側の判断を仰ぐ形になります。上述のように事務所によって学歴を合否の判断要素に入れていることもあるため、そのような場合に備え、何かしらのアピールポイントを持っておくのがオススメです。
もちろん税理士試験の一部科目でも持っておくに超したことはありませんが、やはり難易度は高いので日商簿記を取得しておくのも良いでしょう。むしろ多くの会計事務所が日商簿記2級以上を必須資格としているので、最低限でも2級は取得しておきましょう。
ただ、必須資格が簿記2級以上という求人では応募が重複した場合、他の応募者とその資格での差別化はできません。そのため、武器にしたいのであれば日商簿記1級を目指すのがよいでしょう。日商簿記1級は2級の上位互換となるだけでなく、税理士試験の受験資格も得ることができます。学歴で受験資格を満たせない高卒の方にとっては、その面でもメリットになるでしょう。
税理士資格を履歴書のアピール材料として、一般企業の経理財務職を目指すという方もいらっしゃるかもしれません。この場合は、一般的な採用活動における学歴の扱いと大きな差はないと思われます。
つまり、誰もが名前を知るような大手企業の新卒採用では、有名大学卒であることが有利です。
一方で中小規模の企業においては、学歴はあまり重要視されない傾向があります。
高卒者であっても税理士試験に合格していることは一定数高い評価になるでしょう。
ただし、一般企業の就職においては税理士試験の科目合格についてはそもそも評価対象にならない可能性もあります。(税理士試験の科目合格がどの程度の難易度なのか知識のない人が多い印象です。)
ここまで、税理士を目指す人向けに就職活動の実態について解説してきました。
会計事務所で働く場合には、現実には大卒者の同僚が多くなると思いますが、高卒であっても採用される可能性はありますし、大卒者と同じ条件で働くことは可能です。
理解しておいていただきたいことは、税理士として活躍するためには実務スキルが学歴よりも圧倒的に重要だということです。
採用後に、先輩や同僚に同じ大学卒の人がいたら親近感を持ってもらえて多少は働きやすい、というようなことはあると思いますが、仕事をしていく上で学歴が問題になるようなことはまずありません。
実務経験に自信が無い場合は、プラスアルファのスキルを持っておくこともオススメです。その中でも、近年税理士に求められつつある英語力があると、税理士としての市場価値を上げることができ、転職活動においても有利になるでしょう。
英語力が税理士に必要になりつつある理由や、具体的にどの程度の英語スキルがあるとよいのかについては、以下の記事をご参照ください。
税理士は他士業との親和性が高いため、他の資格も取得してダブルライセンス保持者として活躍する道もあります。
会計事務所に業務を依頼するクライアントは、税務だけでなく労務や会計監査などの課題を抱えているケースも少なくありません。そのため、公認会計士や社労士などの資格を取得しておくことで、一括でそのような課題解決ができる税理士になることができます。
税理士のダブルライセンスについて、詳しくは以下の記事をご参照ください。
会計事務所で働く場合、実際には学歴よりも税理士試験の進捗状況が問われる場面の方が多くなるでしょう。
具体的には、税理士試験5科目に合格しているか、科目合格があるなら何科目か、そしてどの科目に合格しているかが問題となります。
なぜかというと、これらの試験勉強がどのぐらい進んでいるかによって、会計事務所職員の仕事のパフォーマンスは大きく変わるからです。
会計事務所で3年程度の経験を積めば、税理士試験に合格していなくても、法人税や消費税の申告、所得税の申告(確定申告)や年末調整といった基本的な業務はこなせるようになります。
しかし、仕事をしていく上では複雑な税法の解釈が必要になることもあり、こうした場面で頼りにされるのはやはり税理士試験の合格者です。
税理士という仕事は日常的に税法の勉強を継続していくことがとても重要な仕事ですから、税理士試験に合格している人は、それだけでも一定の評価を受けられます。
会計事務所で働くなら、少しでも早いタイミングでの税理士試験の合格を目指すのが良いでしょう。
評価において重要視されない学歴は、もちろん年収にも関係しません。年収の観点でも重要になってくるのは、実務スキルです。
税理士としての実務能力とは、会計や税金の計算、申告書の作成ができることだけで評価されるものではありません。
収益に直結するような新規顧問先の開拓(既存顧客からの紹介ということもあります)や、自分が所属する会計事務所に手数料収入が入る節税対策の提案(生命保険への加入など)ができる人は、高卒者であろうが税理士無資格者であろうが、会計事務所では優秀な人材として評価されます。
また、全く別の観点として、税理士資格や税理士試験科目に合格していると資格手当がもらえる場合があります。多くの会計事務所が資格手当を制度として導入しているため、資格が年収アップに直結しやすいといえます。
さらに、どのような職場で働くのか、その規模感はどうなのか、といった部分でも税理士の年収は左右されます。詳しくは以下の記事をご参照ください。
今回は、税理士と学歴の関係について解説しました。
税理士の就職先は会計事務所と一般事業会社の経理財務に大きく分かれます。有名大学を卒業している必要がある、高卒でも可などは、その開業税理士や企業の考え方・風土によりますので、自分に合った就職先を探すことが重要です。
ただし、税理士として学歴よりはるかに評価を左右するのは実力です。クライアントがどうしたらより良い経営が行えるのかを考えて行動することで、よい評価に繋がります。税理士受験生においては、勉強の進捗度がどれくらいなのか、合格できそうなのかによって評価が変わってきます。
学歴があろうとなかろうと「働けない」ということはありませんが、より良い評価をもらうためには実力をつけることを意識して動くことが大切です。
最後に、本記事を監修していただいたShareValue会計事務所の代表を務める沖田翔様について、ご紹介させて頂きます。
沖田様は高校卒業後、大手自動車会社にて自動車整備士・自動車販売営業として勤務したのち、3年間の試験勉強を経て公認会計士試験に合格。その後、大手監査法人やスタートアップ支援専門の会計事務所での勤務を経験し、2018年に株式会社ShareValue(ShareValue会計事務所)を設立されました。
代表を務められているShareValue会計事務所は、創業支援や資金調達に強く、税理士だけでなく公認会計士としてのアドバイスを行えることを特徴とした会計事務所です。詳細につきましては、以下より事務所様のサイトをご覧ください。
ShareValue会計事務所│HP