決算において正しい決算書を作成するために、最も気を付けたいことの1つが、売上や経費の「期ズレ」です。税務調査でもよく指摘を受ける代表的な項目で、場合によってはペナルティを受けることもあります。本記事では処理を誤りやすい「期ズレ」について、その発生原因と注意点について解説します。
課税対象の期間は、個人事業主であれば1/1~12/31、法人であれば任意の1年分を区切ってその期間の収益から必要経費を差し引いて課税所得を決定します。
基本的に取引は、「納品→請求(請求書発行)→入金」といった流れで行われていますが、この流れの途中に決算日が入ると、売上計上のタイミングを誤ってしまいやすくなるのです。
例えば、決算日が12月31日、請求書締日が毎月20日の個人事業主や会社が、決算月の12月21日から31日までの売上を1月(来期)に計上してしまったり、経費の計上について、本年中に購入したものを次年度の経費としてしまったりというようなことです。
この場合は、年内の売上や経費が、計上すべき今期ではなく来期にずれてしまいます。
こうした計上すべき期と違う期に計上してしまうことを「期ズレ」というのです。
期ズレによって売上や経費が来期に計上されてしまうと、売上や経費がその分少なくなり、本来の所得が算出されず、場合によっては税金の金額が変わってしまうこともあります。
もし少ない金額で納税していた場合は、場合によっては修正申告だけで済まず、過少申告加算税や延滞税などのペナルティが課されることもあるのです。
ちょっとしたミスでは済まされないのが「期ズレ」であり、決算処理を行う際にはしっかりとしたチェックが求められます。
「期ズレ」を起こしてしまうのは、もともとの会計管理の考え方について誤った理解をしているからかもしれません。以下の2つの考え方についてしっかりと押さえておきましょう。
発生主義とは、現金の収入や支出に関係なく、売上や経費が発生した時点で計上するという考え方です。
売上は、原則として「納品やサービス提供が完了した日」に計上します。つまり、請求書を発行したときでもなく、代金が入金されたときでもありません。
この「納品やサービス提供が完了した日」については、商品によって
①出荷基準②検収基準③使用収益開始基準④検針日基準という4つの基準にいずれかを採用して良いことになっています。しかし採用した基準は毎期継続して使い続けなくてはなりません。
例えば、決算が3月の会社で、3月25日に商品を納品して、決算日以降の4月5日に請求書を送り、5月25日に支払いを受けたとします。この場合の売上は請求書を発行したり、代金が支払われた時ではなく、あくまで商品を納品した3月に計上し、3月決算に組み込むべきなのです。
逆パターンで、3月中に前金を受領し、納品が4月になるような場合は、決算時にはあくまで「前受金」として処理し、納品が完了した4月の売上として計上します。
もう1つの会計原則は「費用収益対応の原則」です。経費を計上するにあたって、どれだけの支出に対して収益を得たのかを対応させるための原則です。
まず、収益と費用を期間を通じて間接的に対応させる期間的対応があります。これは、売上に直接結びつかない家賃や水道光熱費、広告宣伝費などが該当します。
さらに、商品を売り上げた時、それぞれ個別のかかる費用を計上して損益計算を行う個別的対応もあります。例えば、仕入原価は経費ですが、売り上げたタイミングで初めて原価を経費として計上します。売り上げがないのに原価だけが経費になっているケースは往々にして良く見られるので要注意です。
期ズレが起こってしまうのは、以下の理由が考えられます。
・上記の会計原則をきちんとわかっていない
・誤って記録してしまった
・意図的に行った
まずは、発生主義と費用収益対応の原則をふまえ、決算月の売上と経費計上については、特にしっかりと方針を立てて計上処理に取り組むようにしましょう。
期ズレが起こりやすいのは、代金の前払いや事業年度をまたいだ取引や精算が行われる場合です。売上と原価を対応させるのは骨の折れる作業ですが、決算月には請求・支払・精算については変則的なスケジュールを組んでても、事業年度内に間に合わせるよう役職員への周知徹底を行いましょう。
本来、今期に計上すべき売上などが来期に計上されてしまうと、法人税額に影響するため、意図的に期ズレを行う経営者が少なくないため、期ズレは税務調査においても厳しくチェックされるところです。税務調査で指摘を受けた場合、それが悪意のない単純なミスであったとしても、修正申告や追加納税になることがありますので注意しましょう。
「これはどうなるのか?」というような疑問があれば、専門家へ相談することが、正しい申告への近道です。