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顧客や株主だけじゃない!ステークホルダーの意味と使い方

HUPRO 編集部
今さら聞けない!ステークホルダーの意味や使い方

「ステークホルダー」は、2020年1月のダボス会議の主題にもなり、近年ますます目にするようになった言葉です。しかし、いざステークホルダーとは?と聞かれてすぐ答えられない人も多いのではないでしょうか。今回は、ステークホルダーの本来の意味と、どんなところで使うかをわかりやすく解説します。

ステークホルダーは「利害関係者」?

ステークホルダーとは、stakeholderをカタカナにしたもの。
日本語では「利害関係者」と訳されます。しかし、これは現在の「ステークホルダー」の意味としては適当ではありません。現在では「ステークホルダー」の解釈は、直接的には利害関係があるように思えないところまで広がっています。

企業が商品やサービスを提供する顧客や、その利益を受ける出資者(株主)というだけでなく、企業の運営に関わる人々、つまり従業員・債権者・金融機関・取引先・そしてそれらの家族や地域社会、さらには将来世代も含むのが、ステークホルダーです。広義には「社会全般」を意味します。実は、かなり広い範囲を指す言葉となっているのです。

ステークホルダーの一般的な範囲

・投資家
・株主
・債権者
・顧客・消費者
・取引先
・従業員
・地域社会
・社会
・政府・行政・国民

これまで、企業は「株主第一」で経営を進めてきました。しかしそれは、結果として格差の拡大を生み、目先の利益を追うための環境破壊などを生み出すことにつながっています。

そこで出てきたのが「ステークホルダー資本主義」です。企業は、株主だけでなく従業員や、取引先、顧客、地域社会といった、あらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきという考え方が提唱されました。これは、近年広まりつつあるESG投資や、SDGsの考え方とも合致しています。現代は、企業は利益の追求だけでなく「社会的責任をどう果たすか」が問われるフェーズに入っているのです。

企業によって微妙に異なる「ステークホルダー」の使い方

「ステークホルダー」という言葉の認知は広がっても「意味がよくわからない」と思われるのは、企業によってその使い方が違うからかもしれません。

ステークホルダーという単語を一番よく見るのは、企業理念やCSR、ESG経営やSDGsへの取り組みなど、企業のホームページやパンフレット、ディスクロージャー誌などではないでしょうか。

その場合、企業のステークホルダーとして想定されているのは「顧客・社員とその家族・株主・取引先・地域住民」など、直接的に企業と関わる人たちであることが多いです。

しかし、本来のステークホルダーは、社会や政府・行政・国民なども含みますので、取りこぼしがあることになります。これは間違っているわけではありません。全てのステークホルダーを大事にというのは理想ですが難しいため、重要視するステークホルダーが企業ごとに違うのです。

自社やこれから就職・転職を希望する企業が「ステークホルダー」という時、どの範囲まで指すのか、その企業が重要視している「ステークホルダーの範囲」をしっかり確認しておく必要があります。

ステークホルダーの企業事例

それでは、企業がどのようにステークホルダーを解釈しているのか、具体的に事例を見てみましょう。

アイリスオーヤマ

顧客、自治体・団体、地域社会、従業員、将来世代を「ステークホルダー」とみなし、各所に合わせたコミュニケーションを実施しています。

出典:アイリスオーヤマ「ステークホルダーとの繋がり」

SOMPOホールディングス

お客様、株主・投資家、取引先、NPO/NGO、地域社会、代理店、社員を「ステークホルダー」とし、それぞれとのコミュニケーション「ステークホルダー・エンゲージメント」(後述)を重視しています。

出典:SOMPOホールディングス「ステークホルダー・エンゲージメント」

ブラザー

お客様、ビジネスパートナー、地域社会、従業員、株主を「ステークホルダー」とし、各ステークホルダーに向けてどのような働きかけをするかを明示しています。

出典:ブラザー「ステークホルダーの皆さまとともに」

ヤマハ

お客様、株主・投資家、従業員、取引先、地域社会、地球環境を「ステークホルダー」としています。事業活動がプラスマイナス双方の影響を及ぼす対象として「地球環境」を重視しているところが特徴的です。

出典:ヤマハ「ステークホルダーとのかかわり」

どこまでがステークホルダー?

ステークホルダーの使い方の例

ステークホルダーという言葉は、かなり広い範囲を指します。文脈から「ステークホルダー」が、具体的に誰をメインで示すのかを見てみましょう。

「株主総会でステークホルダーの理解を得る必要がある」→株主

「ステークホルダーの皆様のために開発した新しいサービス」→顧客

「工場移転にはステークホルダーの理解が必要」→従業員や移転先の近隣住民

「経営理念をステークホルダーに伝える」→従業員や関連企業を含む社会全般

「未来のステークホルダーのために奨学金制度を」→将来世代(今は子供でも、将来顧客や従業員などの候補であるため)

こうやって見ると「株主」や「顧客」と言えば良いのでは?と思うかもしれません。しかし、ステークホルダーという言葉を使うことによって、複数の層に所属する人をカバーすることができます。
例えば、従業員で株主で会社の工場の近所に住んでいて、子供がいる(将来世代)などです。

誰しも企業にとっての立ち位置はひとつではありません。逆に考えると「ステークホルダー」という言葉は、さまざまな立場にいる人たちをまとめてカバーできる便利な言葉ともいえるのです。

ステークホルダーが用いられるビジネス用語をおさらい

ここで「ステークホルダー」が用いられるビジネス用語を簡単におさらいしておきましょう。

ステークホルダーマネジメント

企業のプロジェクトにおける「ステークホルダー」は「プロジェクトをとりまく関係者」です。プロジェクトをひとつとっても、社内外の多くのステークホルダーとのやりとりが必要となります。例えば以下の人々です。

・顧客
・プロジェクトマネージャー(PM)
・プロジェクトリーダー(PL)
・プロジェクトメンバー
・プロジェクト関連部門
・協力会社

ステークホルダーマネジメントとは、プロジェクトに関連するステークホルダーとの関係を友好に保ち、プロジェクトを円滑に進めるための計画・管理をさします。

ステークホルダー分析

ステークホルダーとの関係を良好に保つためには、それぞれのレイヤーに応じた働きかけが必要です。

「ステークホルダー分析」では、まず自分が関わる仕事やプロジェクトのステークホルダーを想定します。そして企画への影響度や関心度などの要素から属性を分析することで、彼らにどのようにアプローチすればよいかを探るという流れです。

プロジェクトを進める上での初期段階で行われます。

ステークホルダー・エンゲージメント

「ステークホルダー・エンゲージメント」とは、企業が活動や意思決定を行う上で、ステークホルダーの期待や関心を把握するために行われる取り組みを差します。
ステークホルダーの意見を企業経営の意思決定に活用することで、企業の成長を図ること、ステークホルダーとの相互理解を深めることで、よりよい社会貢献への道を探ることが目的です。

企業によってステークホルダー・エンゲージメントの取り組みは異なりますが、例としては以下のようなものがあります。

・顧客:相談窓口・サイト等での製品情報提供、ヘルプデスク、顧客満足度調査、ショールーム、SNS活用による意見の吸い上げ、セミナー開催

・従業員:社内報、従業員意識調査、内部通報システム、適正な人事への取り組み

・取引先企業:説明会、アンケート、訪問による情報交換、調達ガイドラインなどの作成

・地域社会:ボランティア活動、業界団体を通じた寄付

・株主:株主総会、IR説明会、機関投資家訪問、統合報告書・株主通信の発行、IRサイトでの情報提供、株主向け見学会

もともと「ステークホルダー資本主義」だった日本企業

企業は、自社の商品やサービスと直接関わる人だけではなく、それを取り巻く人、ひいては社会全体に対して責任を持つべきだというのが「ステークホルダー」の考え方です。
しかし、これは日本にとってさして目新しい思想ではありません。日本企業は社会貢献することを是とする企業文化を従来から持っていました。

例えば、古くは近江商人の経営哲学のひとつ「三方よし」。これは商売において「売り手」と「買い手」の満足に加えてさらに「世間」つまり「社会」に貢献することが、良い商売という考え方です。
また、松下幸之助も「企業は社会の公器」と言っています。企業は、自社の利益を求めるだけでなく、社会が求める仕事を担うこと、次の時代に相応しい社会そのものをつくっていく役割があるという意味です。

グローバル企業の「株主第一」の考え方が流入してくる前は、確かに日本企業は「ステークホルダーを大事にする」という哲学を持っていました。
いま、改めて「ステークホルダーとは」と考える時が来ているのかもしれません。

この記事を書いたライター

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