巡回監査士という資格があるのをご存知でしょうか。巡回監査士には定期的にクライアント企業を巡回し、記帳処理や税務処理がきちんと行われているかを監査する役割があります。会計事務所での実務経験が半年から1年くらいの若手スタッフにとって、格好の勉強の目標になりうる資格です。今回は巡回監査士について解説していきます。
巡回監査士は、TKC全国会が実施している民間資格です。TKCの名称はT(栃木県)K(計算)C(センター)に由来し、会計事務所および地方公共団体などに対して各種情報サービスを提供する東証一部上場企業です。TKC全国会は、TKCの顧客である税理士や公認会計士によって1971年(昭和46年)に結成されました。
巡回監査士資格には、巡回監査士と巡回監査士補の2つの資格があります。巡回監査士は以前は上級職員実務試験として実施され、平成26年より名称変更されました。巡回監査士補は以前は中級職員実務試験として実施され、平成28年より名称変更されました。
巡回監査士の役割は、定期的にクライアント企業を巡回して監査などを行うことです。
クライアントが保有する会計帳簿等の資料を元に、記帳内容や会計処理や税務処理等が正しく行われているかどうかを確認します。必要に応じて修正点を指摘するなどの指導を行います。
また、設備投資のタイミングや当期の決算の見通しや節税対策の検討など、経営に関する相談を受けるときもあります。クライアントにとっては企業経営の身近な相談相手にもなるでしょう。
参考:TKCグループ|決算書の信頼性を高める「巡回監査」等の取り組み
試験は年1回で、令和元年度は11月に実施されます。受験料は、巡回監査士は1科目2,200円(税込)、巡回監査士補は1,650円(税込)となっています。
全国を10エリアに分けて実施されていますが、ほぼ各県に一つずつ試験会場があります。
巡回監査士試験に関する公式情報は、次のリンクをご参照ください。
参考:TKCグループ|巡回監査士及び巡回監査士補資格のご案内
試験科目は以下の全6科目です。税法科目が4科目と、巡回監査科目が2科目となっています。
・所得税法
・法人税法
・消費税法
・相続税法
・巡回監査Ⅰ(職業倫理・巡回監査)
・巡回監査Ⅱ(企業会計・経営助言)
税理士試験と同様に科目合格式になっており、数年がかりで合格を目指すことが可能です。ただし、税理士試験のように必須科目と選択科目はなく、全科目が必須科目となっています。
試験時間は各科目45分です。税理士試験のように3日制ではなく、午前から午後にかけて1日で全6科目の試験を行います。
合格基準は各科目70%以上で、全ての科目に合格すれば巡回監査士または巡回監査士補の資格を取得することができます。
巡回監査士と巡回監査士補試験を受験するには、それぞれ所定の条件をクリアする必要があります。
巡回監査士補は、原則として税理士事務所または税理士法人における6ヶ月以上の実務経験が必要です。
巡回監査士は、税理士及び税理士試験合格者、もしくは巡回監査士補資格の取得者となります。巡回監査士資格の受験にあたっては、まず巡回監査士補資格を取得してからということになるでしょう。
なお、巡回監査士は2年ごとの更新制です。更新時には指定された研修の受講等が必要になります。
全科目合格率を見ますと、巡回監査士は平成26年以降で7.6%、11.5%、12.6%、13.3%、26.6%となっています。巡回監査士補は平成28年以降で22.3%、18.1%、21.1%です。巡回監査士補は平均的に約20%ですが、巡回監査士は平成30年の合格率がとても高い年でした。
科目別では、巡回監査ⅠとⅡで合格率が高く、消費税法と所得税法で合格率が低いという傾向があります。
ちなみに平成30年(第68回)の税理士試験の合格率は、受験者数30,850に対し、全科目合格者672名、一部科目合格者4,044名でした。全部と一部を合わせた合格者4,716名に対する合格率は15.3%ですが、全科目合格者672名に対する合格率は2.3%です。
税理士試験と比べれば、さすがに巡回監査士資格の難易度はかなり低めです。
受験の目安としては、巡回監査士補は税理士事務所や税理士法人での実務経験年数が6ヶ月以上から受験し、3年以内の取得を目指す、となっています。巡回監査士では2年以上から受験し 5年以内の取得を目指します。
合格までの勉強期間は、1科目の勉強期間を2週間とすれば、6科目合計で3ヶ月ほどとなります。ただし、試験は年に一度しかありませんので、業務が忙しくあまり勉強時間がとれないようであれば、科目を絞って2年か3年かけて計画的に合格をめざす方法も考えられます。
巡回監査士試験は税理士試験よりは易しいですが、全科目合格率は20%前後ですから、適度に難しい試験といえます。会計事務所に半年以上勤務したら、そろそろ巡回監査士補の受験を考えてよいでしょう。
最終的に税理士をめざすとしても、その足がかりとして、程よく高すぎない目標になります。勉強の目標となり、税理士資格へのマイルストーンにもできる資格です。
もし巡回監査士の試験に合格し資格を取得できれば、自分の知識に自信を持てるようになりますし、任される業務の幅が広がったり、より高度になったりすることでしょう。
また、会計事務所によっては合格一時金が支給されたり、資格手当てとして基本給が上がったりするところもあるかもしれません。