決算を行うにあたって必要な作業の一つが「棚卸(たなおろし)」です。なかでも、実際に現物を確認して点検・カウントを行う手続きを「実地棚卸」といいます。本記事では、実際に実地棚卸を行うにあたり、具体的な手続き方法について解説します。
決算期末の資産残高を確認するために行う棚卸は、財務諸表における資産表示の適正化のためには欠かせない業務です。
棚卸には実地棚卸と帳簿棚卸があります。実地棚卸はそのとおり実地で現品を確認しながら行う棚卸のことです。
帳簿棚卸とは、在庫の入出庫管理表を作成し、商品を受け入れたり出庫したりしたその都度個数を記入しておくというものです。帳簿棚卸については、帳簿をチェックするだけなので時間をかけずに行うことができますが、記入もれなどがあった場合に実際の個数とのずれを確認することができないというデメリットもあります。
月次や四半期などは帳簿棚卸を行っている場合であっても、決算月には必ず実地棚卸を行いましょう。
実地棚卸を行うことで、正確な在庫数量を集計することができるので、帳簿上の在庫と実際の在庫の差異や保管状況の問題点などについて発見することができます。
会計監査を行っている会社では、実地棚卸の現場に監査人が立ち合いや実際のカウントを行い、報告されている在庫数量の妥当性を確かめる場合もあります。
それでは、実際に棚卸を行う手続き方法についてみていきましょう。
棚卸は全社で行う大掛かりな作業のため、行う当日までに準備をしておく必要があり。事前の確認事項や準備としては以下のようなものがあげられます。
棚卸エリアにおける棚番号などを附番し、どのエリアで作業を行うかを明確にします。
棚卸はダブルチェックによりミスと不正を防止するため、2名一組で行います。担当者ごとにどのエリアを担当するかを事前に通達しておきます。
棚卸は、全店一斉に行うため、何時から行うかということを周知徹底します。棚卸のために、店舗の閉店を早めたり、休業日にしたり場合もあるので、店舗を構えている場合は事前にでアナウンスも必要です。
同一商品や同一品名のものはできる限り同じ場所にまとめます。
台帳との付け合わせができるように品名や価格など商品がわかるように付箋などに書いて貼っておくと良いでしょう。
預かり品などを間違ってカウントしないように、できる限り返却・返品しておきます。棚卸の対象はあくまで自社保有のものなので、棚卸必要商品とそうでないものは分けておき、棚卸不要なものはわかるように目印をつけます。
倉庫などのレイアウト図に棚番号を附番し、相対する棚卸票を連番で作成します。
棚卸票には、保管場所や棚番、商品名や品番・数量などを記載できるようにします。
後ほどチェックに使うため、記入漏れや月次の〆漏れなどがないかどうかを再確認します。
棚卸票を、担当者に割り当てて、実際の棚卸を開始します。
棚卸は棚番号の若い順(1~もしくはA~など)から順に行っていきます。2名1組で、カウントする人と、棚卸表の記入者に別れ、1つの棚が終わったら、役割を交代してダブルチェックします。
棚卸中に入荷されてしまったものは、在庫とは区別して仕入れ計上や棚卸を行いません。また、棚卸前に出荷して売り上げ計上が間に合わなかったものはその旨を棚卸票に記載します。
全ての棚の棚卸が終了したら、棚番号の若い順から棚卸票を回収します。
実地棚卸が終わった後は、棚卸表に記入された数量を帳簿上の在庫数量と照らし合わせて差異をチェックします。差異があった場合は、帳簿と実地棚卸の両方をチェックしてその差異がどこから生じているのかを確認しましょう。
あまりにも差異が多い場合は、在庫管理体制に問題があるため、実地棚卸の頻度を増やして管理体制を見直すなどの対応が必要な場合もあります。
商品の在庫数が確定したら、その在庫を資産として計上するために、評価する必要があります。在庫の評価方法には、原価法と呼ばれる方法と低価法と呼ばれる方法があり、いずれかを採用します。
在庫を取得原価のままで評価する方法
在庫を取得原価または期末の時価のどちらか低い方の金額で評価する方法
上場企業では原則として、低価法を適用しています。非上場企業ではどちらでも適用が可能ですが、低価法を採用する場合は、事前に届け出が必要です。
実地棚卸は、決算における在庫を確認するために必ず行うものですが、横領などの不正防止や日ごろの在庫管理の方法について改めて見直す機会ともいえます。時間も手間もかかる作業ですので、実施方法や部署ごとの責任分担をどうするかなど、具体的な棚卸方法については、「棚卸実施要領」などマニュアル類を定めておくことで、作業の質を均一化できるようにしておくと良いでしょう。