物流に欠かせない倉庫・運輸業。ネット通販も盛んになった最近では、その存在を身近に感じる方も多いのではないかと思います。そんな倉庫・運輸業における経理業務は何か特徴的なものがあるのでしょうか?本記事で現役公認会計士が詳しく解説します。
荷主から委託を受け、物品を保管する倉庫。倉庫業のニーズはここ最近のネットショッピングの隆盛に伴い非常に高まっています。もともとは明治時代に端を発する古い業界で、倉庫業者としての登録を受けるためには「倉庫の種類毎に定められた施設・設備基準」を満たす施設を構えるだけでなく、預かった保管物をきちんと管理するために「倉庫管理主任者」を選任する必要があるため、事前の設備投資が必要な事業ということもあり、旧財閥系の会社が多いのが特徴です。
(※倉庫自体を賃貸する事業は「貸倉庫業」となり不動産賃貸業に分類されます。)
また、運輸業は倉庫から受け取った荷物を送り主まで届ける仕事。宅配便などのサービスをつい想像しますが、ものを運ぶという意味では、鉄道や水運、航空事業や郵便も運輸業に当たり、広義の意味では中継地点である倉庫業も含まれます。
いずれにしても、我々が日常生活を送るにおいて、必要な物資を手に入れるためになくてはならない業務と言えるでしょう。
倉庫業においては、荷主からの受注を受け、貨物量や倉庫の空き状況等を確認したうえでの荷物の入出庫等の作業指示、売上計上、請求書発行、入出庫等に係る費用(下請作業費等)の計上等の業務を行うという行の流れになっています。
この際に入金や売上・費用計上チェックを行うのが経理担当の仕事です。倉庫の管理を行う担当者や営業担当者からの売上伝票や請求書などをチェックし、入金確認・債権の消込・未入金リストに基づく営業担当への連携や、請求書に基づいた支払いなどを行います。
運輸業においては、荷主からの受注を受け、貨物量や空車状況を考慮した配車・傭車を行い、配送手配が完了段階での売上計上、請求書発行、運送に係る費用(傭車料等)の計上等の業務を行うという流れになっていますが、業務フロー自体は細かい内容が多いものの、経理担当者の行う業務内容としては、倉庫業とそう変わることはありません。
倉庫・運輸業において経理担当者が荷受けを手伝うといったような業務外の仕事に携わることはほぼありませんが、運輸業の場合は中小企業が多いため、窓口や電話担当などを兼務することがあるかもしれません。
倉庫・運輸業における特徴的な経理精算として挙げられるのは、本来であれば収益計上については、貨物が送付先に配送された時点で行うべきところを、会社によって会計処理が行いやすい日付で行うことがあるというところでしょうか。
例えば、倉庫業では保管業務の取引慣行として、1ヶ月の保管料収入を10日ごとに分割して計上する3期制と呼ばれる方式が採用されていることが多くあります。
これは、それぞれの機関における最大の荷物数量で保管料を算出する方法で、品物を頻繁に出し入れすることで在庫量が変動しやすい倉庫の場合は、保管のためのコストを抑えることにもつながります。(逆に出し入れの少ない冷凍倉庫などは2期性が採用されている場合も多くあります)
運輸業では、貨物を大量に輸送する業務を継続して行っているため、それら1つ1つの荷物ごとに会計処理を行うのは大変です。そのため、積み込んだ日にまとめて計上処理を行うなどしている場合があります。
そのほか、倉庫・運輸業については事業所が全国に点在しており、事業所同士の取引も多くあるため、事業所間でも本支店会計を採用しているケースもあります。
また、勘定科目ですが、倉庫・運輸業については業界特有の勘定科目が見受けられる事が良くあります。
例えば、運輸業であれば営業未収金、営業未払金、営業収益、営業原価、傭車料(他の運送会社のドライバー付トラックを利用した際の支払運賃)などです。
倉庫業では、倉庫をはじめとした固定資産についての経理業務、運輸業では車両に関する減価償却や修繕費、車両ごとの損害保険やドライバーに関する給与支払いなどの業務が多いこと、鉄道・航空運賃や関税などの輸出入関連費用について一時的に建て替えるため立替金が大きいのが特徴的な傾向となります。
倉庫・物流業においては、他の業種に比べて国際会計基準(IFRS)適用企業が少なく、多くの企業が日本基準を適用しています。
また、収益の認識基準も業界慣例で独自方式が採用されており、2021年4月1日以上の連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用される「収益認識に関する会計基準」への対応によって経理業務のフローやシステム変更、また従来の請求・支払方法などの変更が生じる場合があります。
しかし、まずは一般的な簿記の知識を身に着けることが何よりも重要です。基本を踏まえてからそれぞれの会社の採用している処理の流れも含めて経理業務を行っていきましょう。
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