「簿記検定」というと、商工会議所が実施している「日商簿記」を思い浮かべる方も多いでしょう。実は簿記検定と呼ばれるものは、この他に全国経理教育協会の「全経簿記」と、全国商業高等学校協会の「全商簿記」の3つの検定があります。本記事では、社会人向けの簿記検定のうち「日商簿記」の陰に隠れがちな「全経簿記」について比較しながら解説します。
まず、3つの簿記検定について、それぞれの概要を見てみましょう。
・日商簿記
主催者:日本商工会議所
級:1級・2級・3級・初級
受験生:学生・社会人
試験実施月:6月と12月
試験会場:全国の商工会議所
商工会議所の検定試験
・全経簿記
主催者:全国経理教育協会
級:上級・1級・2級・3級・基礎
受験生:専門学校生・学生・社会人
試験実施月:上級は2月と7月/それ以外は2・5・7・11月実施
試験会場:全国経理教育協会加盟の専門学校
公益社団法人 全国経理教育協会
・全商簿記
主催者:全国商業高等学校協会
級:1級・2級・3級
受験生:商業高校の学生
試験実施月:1月・6月
試験会場:全国商業高等学校協会加盟の高等学校
公益社団法人 全国商業高等学校協会
それぞれの簿記検定は、検定の主催者が異なります。また、最後の「全商簿記」については、主催団体からもわかるように、主に商業高校をはじめとした高校生が受験する簿記検定なので、次項以降では比較対象から省いて解説します。
全経簿記の正式名称は「簿記能力検定試験」。以下の5種類があります。
受験資格は制限はなく、年齢や国籍、学歴に関係なく誰でも受験可能です。各級とも1科目100点満点とし、全科目得点70点以上で合格となります。
ただし、上級は、各科目の得点が40点以上で全4科目の合計得点が280点以上取得するのが合格の条件です。
・上級(商業簿記/会計学、工業簿記/原価計算)
※「商業簿記/会計学」の科目を受験しなかった場合「工業簿記/原価計算」の科目を受験できません。
上場企業の経理担当者・会計専門職として会計数値の意味を理解し、その情報を経営管理者として理解できること、また製造・販売過程に係る原価の理論を理解したうえで、原価に関わる簿記を行い、損益計算書と貸借対照表を作成できること。
日商簿記1級と同等とみなされ、合格すると日商簿記と同様に税理士試験の受験資格を得ることができます。
・1級(商業簿記・会計学、原価計算・工業簿記)
※1級については、商業簿記・会計学または原価計算・工業簿記の1科目だけ合格し、1年以内に残りの科目に合格した場合でも、1級合格証書を交付されます。
大会社の経理・財務担当者あるいは経営管理者として複式簿記の仕組みに精通し損益計算書、貸借対照表、株主資本等変動計算書を作成でき、連結財務諸表についての初歩的知識を保有すること。
製造原価報告書および製造業の損益計算書と貸借対照表を作成でき、また、作成した製造原価報告書と損益計算書を管理に利用できる能力を持つこと。
・2級(商業簿記、工業簿記)
中規模の会社の商業簿記について理解し、営業費用に加え,収益費用勘定(名目勘定全般)の見越し繰延べを行う決算整理およびこれに伴う翌期の処理(再振替)ができ、これによる損益計算書と貸借対照表を作成できること。
工程管理のための基本的な帳簿作成と管理能力を持つこと。
・3級(商業簿記)
小規模の会社の簿記について理解し、基本的な帳簿と照合機能を中心とした複式簿記の仕組みを理解し、営業費用の決算整理(簡単な見越し繰延べの処理)ができ、これによる損益計算書と貸借対照表を作成できること。
・基礎(基礎簿記会計)
組織管理のための基本的な帳簿を作成でき、複式簿記の原理と仕組みを理解できること。決算管理のない損益計算書と貸借対照表または会計報告書を作成できること。
※出題範囲の内容詳細については、全国経理教育協会WEBサイトで確認できます。
公益社団法人 全国経理教育協会
全経簿記と日商簿記はどう違うのでしょうか。その難易度と合格率を簡単に比較したものが以下の表です。
全経簿記上級は日商簿記1級と同等とみなされ、合格すると税理士試験の受験資格を得ることができますが、合格のためには必須といわれる勉強時間が異なります。
全経簿記上級合格には600時間~800時間の勉強時間を目安とされますが、一方で日商簿記1級合格には800時間~1,000時間の勉強時間が必要とも言われています。
難易度や合格率から見ると、「全経簿記」の方が受かりやすいため、税理士試験の受験資格を簿記検定で得たい人は、「全経簿記」がねらい目ともいえます。
全経簿記についてみてきましたが、簿記検定の資格を活かした就職をしたい人は、そもそも募集要項で指定されていることも多い「日商簿記」の方がおすすめです。
しかし、日商簿記の方が同等程度の難易度とされている全経簿記よりも合格するのが難しく、勉強時間もより必要なため、税理士試験の受験資格をなるべく早く得たい人は、年に2回実施している全経簿記上級の方が可能性が高いと言えるでしょう。
実際のところ、日商簿記を本命として、全経簿記を前哨戦として受験される方も多くいます。全経簿記は日商簿記と比べるとより基礎的な知識を問われるので、基礎固めとして勉強の取り掛かりにしてみるというのがおすすめです。