士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所|HUPRO MAGAZINE
士業・管理部門のキャリアコラムが集う場所

カテゴリ

米国基準決算と日本基準決算の実務における違い

HUPRO 編集部
米国基準決算と日本基準決算の実務における違い

1. はじめに

今回の記事では外資系企業で経理担当者として働く方々向けに米国基準決算と日本基準決算の違いについて紹介していきます。
本題に入る前に簡単に筆者の経歴を記載致します。筆者は大手監査法人に4年半勤務し、法定監査業務や財務デューデリジェンス等の業務を経験しました。その後、大手監査法人から外資系の金融機関の経理部門に転職し5年程になりますが、その間日本基準決算、米国基準決算、IFRS決算のレポーティングに携わっております。こうした実務面での経験もふまえて米国基準の決算を行う上での実務面のポイントも適宜記載していきたいと思います。

2. 米国基準決算と日本基準決算の違いについて

(1)制度面の違い

日本の会計制度は歴史的に米国の影響を受けてきた面があるため、米国基準の体系は日本基準と似ている点が多いように見受けられます。米国基準も日本基準と同様に、個々の会計処理について細かく規定する規則主義を採用しており、原則主義で作成されているIFRSとは基準の体系が異なったものとなっています。また、上場企業の開示制度については米国も日本と同様に四半期ごとの開示をしており、開示が要求される財務諸表についても特段大きな差異は無いように見受けられます。

(2)実務レベルでの違いや留意すべきポイント

 米国基準決算の決算数値の作成は、米国基準専用の会計システムを構築していれば直接的に米国基準の決算数値を作成することが可能ですが、日本基準決算を前提とした試算表や日本基準の財務諸表の数値に修正仕訳を反映していくという手法で行われる場合が多いです。米国基準決算の決算数値について上記のような作成過程を経る場合、以下の項目が留意すべきポイントかと筆者は考えています。
① 決算修正項目の把握
米国基準に従って財務諸表を作成しようとする場合、日本基準で作成されている試算表や財務諸表とは勘定科目の相違や基準の相違による決算数値の差異が生じます。このような項目については日本基準の会計数値に修正仕訳を反映して米国基準の決算数値を作成していくことになりますが、経理担当者は事前に必要な修正項目を把握しておくことが重要です。
勘定科目の相違については、米国基準決算で使用される勘定科目と日本基準決算で使用される勘定科目の対応関係を把握し、適切に勘定科目の関連付けをしないと日本基準決算から米国基準決算への勘定科目の組替作業はできません。そのため、米国基準決算で使用する勘定科目が日本基準決算で使用しているどの勘定科目にあたるかということを確認しておく必要があります。
次に決算数値の差異の修正では、差異が生じる項目について、経理担当者は米国基準でのあるべき決算数値を適切に把握しておくことが重要です。例えば、固定資産の減価償却計算に用いている耐用年数が米国基準と日本基準で異なる場合には、米国基準用の固定資産台帳を設定して帳簿価額や減価償却費等の決算数値を適切に把握できる体制を整える必要があります。また、有給休暇引当金等の米国基準決算では計上が要求され、日本基準決算では計上されないような項目については、その決算数値を算出する際に基礎となる情報が適切に収集できるかといった点を確認しておく必要があります。

② 財務諸表の形式の違い
米国基準においても貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった財務諸表が作成されます。貸借対照表、キャッシュフロー計算書には特段大きな相違は無いように見受けられますが、米国規準で作成される損益計算書については経常利益の段階損益項目が無く、形式面での日本基準との大きな相違点となっています。

③ 決算報告する際の留意点等
米国に本社がある企業に勤められている方であれば、筆者と同じような経験をされているかと思いますが、筆者が勤務していた金融機関では四半期ごとに米国基準で作成した財務諸表のパッケージを米国の本社に提出する必要がありました。パッケージの提出の際には、決算数値の増減分析のコメントの提出を求められ、英語でコメントを作成しなければならなかったため、苦労した記憶があります。また、決算数値は米ドルに換算されて報告されているため、増減分析の際には為替による変動と、円貨ベースの実際の変動額をそれぞれ把握する必要があり、手間がかかりました。
円貨ベースで米国基準の決算数値の報告を行うのであれば問題ありませんが、米ドルに換算して決算数値の報告を行うのであれば、昨今のように為替の変動が大きい状況下ではその影響は無視できず、経理担当者は為替変動による影響額を把握しておくことは必須となります。
また、米国の本社が上場企業である場合は内部統制監査の対応が必要な場合があります。自社が内部統制監査の範囲に含まれている場合、本社への財務報告が適切になされているかをチェックされます。そのため、経理担当者は報告しようとする米国基準の決算数値が、適切なプロセスに基づいて作成されているかといった点に留意する必要があります。

3. 最後に

米国基準は日本基準の参考となってきた背景から、似ている面が多くあるように見受けられます。日本基準決算に慣れている方であれば、米国基準の決算についてもそれ程苦労せず慣れるのではないでしょうか。英語に苦手意識がある経理担当者の方は少々苦労するかもしれませんが、日本基準決算と米国基準決算の両方を経験していれば、活躍の場も広がっていくので、是非前向きにチャレンジしてみてください。

この記事を書いたライター

HUPRO MAGAZINEを運営している株式会社ヒュープロ編集部です!士業や管理部門に携わる方向けの仕事やキャリアに関するコラムや、日常業務で使える知識から、士業事務所・管理部門で働く方へのインタビューまで、ここでしか読めない記事を配信。
カテゴリ:コラム・学び

おすすめの記事