税理士試験の登竜門的な科目である簿記論と財務諸表論。まずこの2科目を受験する人がほとんどでしょう。ではようやくこの簿財に合格した場合、次にどのようなステップを踏むことが良いのでしょうか。今回は、簿財合格後のキャリアはどのように考えるかを現役公認会計士が解説していきます。
簿財に合格するといよいよ税理士試験の神髄である税法科目選びとなります。代表的なものは法人税、所得税、消費税、相続税であることは皆さんおわかりのことと思います。では、どの科目を選ぶことがキャリアアップにつながるのでしょうか。
どの選択肢もキャリアアップには間違いありません。もし迷われるようであればこの4つの中から3つ選択して合格するに越したことはないでしょう。しかし、膨大な暗記量を求められる税理士試験ですので、少しでもその量が減らせるのであれば的を絞ったほうがよいでしょう。
まず、代表的な法人税を選択した場合です。法人税は読んで字のごとく法人に課される税ですので、税理士業務で最もポピュラーな税法であるといえます。
そのため、法人税の合格は会計事務所に転職する際に最も重宝される税法であると言えるでしょう。大手会計事務所であれば法人顧客比率が高まってきますし、小さな個人会計事務所であっても当然法人顧客はたくさんあります。
また、会計事務所から転職して一般事業会社に行こうと思った時も法人税の申告書が作成できるのはとても有利に働きます。自分で独立開業しようと思った時も法人税の申告書からは逃れることはほぼできないでしょう。
そういう意味で、迷ったら選択すべき科目が法人税といえます。このほかにも、法人税か所得税は選択すべき必須科目になるのですが、法人税を合格してから所得税を受ける人はある程度いますが、所得税に受かってから法人税に行く受験生は少ないです。よって、同じくらいの合格率であっても法人税のほうが若干合格しやすいのではないかという筆者の私見も踏まえて、おすすめは法人税といえます。
では、所得税を選択した場合はどうでしょうか。所得税はサラリーマンなど事業をしていない人に最もなじむ法律とはなりますが、個人事業主や不動産所得のある人にとっても関連の深い法律となります。
よって、会計事務所でも個人の顧客はたくさんいるため、所得税の知識は必須といえます。個人事業主であれば法人と帳簿の作成方法はとても似ているため実務上は法人税の知識があればある程度対応できますが、より深い知識をつけようとすると所得税法が必要となります。
今後、独立してFPのように個人をターゲットとしたマーケティングを考えているのであれば所得税法は視野に入れておいたほうがよいでしょう。その際、相続税も併せて合格しているとさらに視野が広がると思います。
次に、消費税法を目指す場合についてお話します。消費税法は単独で使用するというよりも法人税や所得税と関連して使用する科目となります。よって、簿財合格後消費税単独で受験するというよりも、法人税合格後もしくは並行して受験する科目といえます。
消費税法は近年改定が行われたり、輸出入をする企業が増えたりする傾向からますます複雑化しています。そんな中で、「消費税専門」とうたう税理士はほぼいないことから、専門性を発揮できる場面もあると思います。
しかし、先ほどお伝えした通りあくまで消費税法は法人税法等と紐づけて力が発揮できる項目といえるため、法人のエキスパートとなるために消費税法もといった位置づけとするほうが良いと考えます。
税法の中でも異色と見える相続税ですが、近年かなり注目を浴びている税法といえます。というのも、事業承継税制や相続税の対象拡大など以前よりもますます大事な知識といえるからです。
最近では相続や事業承継税制など資産税に特化した事務所が増えてきています。これはニーズが高まっているにも関わらずその専門家はまだまだ少ないため、利益率がとても高いことが理由といえるでしょう。
相続の専門家が少ないということで、相続税合格ということはかなり重宝されますし、大手会計事務所では相続税部門に配置されるでしょうし、中小会計事務所にとってもこれから力を入れようと思っている分野なので戦力としてとてもありがたいと感じることでしょう。
誤解を恐れずに言うと、法人税、所得税、消費税というのは実務である程度勉強すれば一通りのことはできますが、相続関係はそうはいきません。というのも、毎年相続税が発生する人数と全国にいる税理士の人数はほぼ一緒とされており、相続税を実務で経験できることは本当に少ないのです。
これらのことから、将来的に相続専門税理士になるにしても、相続もできるオールマイティの税理士を目指すにしても、現状では相続税というのはキャリアアップにとてもおすすめの税法といえるでしょう。