「循環取引」と呼ばれる不祥事がニュースを賑わせることがあります。循環取引は、ノルマに苦しむ営業部員などが巻き込まれやすく、普通の会社でも頻発している会計不祥事です。
今回は、循環取引の一般的な概念や取引の目的、循環取引が問題とされる理由や罰則などについて解説していきます。
法律・会計上における循環取引の定義は、実は必ずしも明確にされていません。
明確な定義はされていませんが、循環取引とは、最初の売主と最終の買主とが同じである連続的な取引と説明されることがあります。取引が輪のようにつながっているのが特徴的です。
たとえば、次のような手口が考えられます。
A社:1,000円で仕入れた商品をB社に1,100円で架空販売
B社:A社から1,100円で仕入れた商品を、C社に1,200円で架空販売
C社:B社から1,200円で仕入れた商品を、A社に1,300円で架空販売
同じ商品が、A社〜B社〜C社〜A社の間を輪のように循環します。実際の循環取引では、商品が移動せずに伝票のみが流れていくケース(架空取引)がほとんどです。
上の例を見ると、A社は1,100円で売った商品を1,300円で買い戻しており、結果として損をしています。そのため、循環取引に何のメリットがあるのか、普通の感覚であれば疑問に思うことでしょう。
循環取引の目的の1つ目として、売上の水増しが挙げられます。
上の例では、架空販売のため3社間で商品は動いていませんが、3社とも売上が増えています。あわせて、帳簿上では仕入も計上されるため、利益への影響は生じません。
期末なのに売上の目標値に到達していない、上場企業で前期より売上が減ると株主からの突き上げが怖いといった場合に、取引先やグループ会社などと結託して、循環取引による粉飾決算を行ってしまうケースがあります。
架空の売上を計上して粉飾決算を行うことで、取引先などにおける信用性の保持や、金融機関からの格付けである債務者区分の向上を狙うのです。
循環取引の目的の2つ目として、短期的な資金の調達が挙げられます。
循環取引により、架空販売の対価として手形を受け取り、手形を割り引いて現金化する手法です。
金融機関からの借入ができなくなり資金繰りに行き詰まる、不渡りを出したら倒産するなどの切羽詰まった状況で当座の現金が欲しくなり、循環取引に手を出すケースがあります。
一時的な資金調達はできますが、上の例では1,100円で売った商品を1,300円で買い戻すなど、取引の輪のなかで各自がプラスした利幅の分だけ、より多くの金額を支払うことになり、取引額が膨張していきます。結果として、資金不足や架空在庫の累積などにより、スキームが破綻して連鎖倒産に至るのです。
会計上のルールでは、循環取引のように在庫が動いていなかったり、販売しても返品されたりする場合は、売上とみなされません。実在する取引では、返品があったら売上を取り消します。
循環取引が問題とされる理由は、本来は売上として認められないものを、売上として計上しようとする、つまり不正会計を行っているとみなされるからです。
架空の売上を計上することで、本来は該当企業にそれだけの力量がないのに、信頼性の保持や債務者区分の向上が可能となるため、ケースによっては詐欺罪に問われることがあります。
さらに、上場企業においては、有価証券報告書などへの虚偽の記載は金融商品取引法などの違反とみなされます。該当企業だけではなく、関連する親会社などにおける虚偽記載につながり、グループ全体の違法行為や信用性の毀損にまで発展する可能性は否めません。
循環取引により想定される罰則には、次のようなものが挙げられます。
上場企業の場合、循環取引により有価証券報告書などで売上の水増しなどの虚偽記載を行うと、金融商品取引法や証券取引法の違反で刑事責任が問われます。場合によっては、詐欺や横領、背任や私文書偽造などの罪状も付随する可能性があります。
刑事責任だけではなく、取締役などの場合は、会社や株主から損害賠償請求を受けるケースや、最悪上場廃止の危険性まであります。
非上場企業の場合も、融資を行った金融機関などから詐欺罪で告訴される可能性がありますので、非上場企業だから罰則と無関係ということはありません。
循環取引とは、最初の売主と最後の買主が同じ円状の取引のなかで、商品は動かず伝票だけがグルグル回っているケースが多いです。
循環取引の目的には、主に売上の水増しや短期的な資金の調達がありますが、架空の売上計上は不正会計とみなされ、明るみになったときに信用力の毀損や違法行為による罰則につながる恐れがある点に注意しましょう。