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資本政策とは?具体的な方法から注意事項まで詳しく解説!

HUPRO 編集部
資本政策とは?具体的な方法から注意事項まで詳しく解説!

資本政策とは、企業が事業のために資金調達をする際に、株主構成の計画を最適化するための施策・戦略のことです。株式上場やM&Aに向けて行う資本政策では、創業者は調達する資金額と与える株主権とのバランスを取る必要があります。本記事では、資本政策についてその方法を解説します。

資本政策とは

資本政策とは、企業が資金を調達するための施策・戦略のことを言います。

株式によって資金調達をする場合は、株主構成や発行済株式数などをちゃんと計画しておかないと、売却した株式によって会社が乗っ取られてしまうことになりかねません。

資金の調達をはかりつつ、株主の構成のバランスを取って、適正な資本を得るために発行株式数などを調整する必要があります。

この最適化を図るための計画が「資本政策」です。

資本政策を行うことによって、企業の資金を調達できるだけでなく、株主の利益を確保し、株主の構成バランスを整えることができます。(逆に、すでにバランスが崩れている場合は安定株主を確保するために資本政策を行うこともあります)

それでは、次の項から具体的な方法を見ていきましょう。

資本政策の立案

資本政策は、いったん実施してしまうと後で修正できません。
「売りすぎたから返して」というわけにはいかないのです。そのため、実行前の早い段階において、十分な検討を行って立案する必要があります。

必要な資金とその時期を策定する

まずは、必要な資金の金額と時期を明らかにします。いくら集めるかが決まらないと、調達しようがありません。
このためには、中期事業計画を作成し、各事業年度にいくらの資金が必要かを明らかにします。資本政策と事業計画は表裏一体です。事業計画が甘いため資金が足りなくなってしまい追加で調達することで安定していた株主のシェアを確保できなくなってしまったり、逆に資金が余ってしまったりということがあります。

調達方法を策定する

次に、必要な資金のうち銀行借入などで賄うことのできる金額はいくらかを明らかにします。できれば株式を譲渡したり発行したりせずに資金を調達する方が良いからです。それでもまだ難しいようであれば、資本政策の出番となります。

計画を立てたら、実行する前にはシミュレーションを行ってみることも必要です。状況に応じて見直し「これで良い」となってからスタートしましょう。

資本政策の具体的な方法

資本政策にはいくつかの方法があります。全てオールマイティーに同じ方法が適しているとは限りません。時期と目的に合った方法を選択する必要があります。

株式移動

既存株主が保有している株式を、法人・個人等に譲渡することです。株式を移動させた分持ち株比率が変わります。相対取引なので、基本的に売買価格は自由ですが、妥当である必要があります。

上場における審査では株式の売買価格が妥当な水準であるかどうかを判断するために、IPO前の5年程度の株式移動取引について、公認会計士や税理士などが作成した「株価算定書」の提出を求められる場合があります。

このとき、不当に高額あるいは低額で株式の売買を行っていたと言うことになると、IPO自体が認められないこともあります。このようなことを防ぐために、株式移動の前には第三者機関による株価算定を行い、妥当な金額を算出しておきましょう。

株主割当増資

株主割当増資とは、既存の株主に対して、所有株式数に応じた新株引受権を与えることです。

原則として、株主割当増資は、増資した後の株主構成は増資前に比較しても変化しません。そのため、既存の株主構成を保ったまま資金調達を実施したい場合に用いられます。
ただし、投資家層が既存株主に限定されるため、大規模な資金調達には適していません。

第三者割当増資

第三者割当増資は、資金調達で一般的に用いられる手法です。株主であるか否かを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与えて資金調達を行います。割当先はベンチャーキャピタルや従業員の持ち株会、事業パートナーなどが多いです。

気をつけたいのは、発行済株式数が増加するため、既存株主の持ち株比率が均等に低下することです。この際の割当株価についても、株式移動と同様に第三者機関の株価算定により妥当な金額を算出しておきましょう。

新株予約権

新株予約権とは、一定期間内において発行した会社に対して使うことにより、新株の交付を受けることができる権利をいいます。

新株予約権証券の所有者は、新株予約権を行使して、一定の行使価格を払い込むことで会社に新株を発行させる、または会社自身が保有する株式を取得することが可能です。

ただし、新株予約権を発行しすぎると株価が大きく下落し、新株予約権が売れない可能性があります。

ストックオプション

社内向けの新株予約権がストックオプションです。
役員や従業員に対して無償または有利な価格で株式を購入できる権利を付与します。新株を取得できる金額を現在の株価以下に設定し、その権利を行使できる期間を数年後に設定することで、株価が上昇するとその分のキャピタルゲインが得られるため、優秀な人材を確保したり、社員のモチベーションアップのためによく利用される方法です。

株式分割

株式を一定の割合で増加させるものです。例えば1株10000円の株を2分割すると5000円の株が2株できます。株式分割後の発行済株式数は定款で定められた発行可能株式総数の範囲内に限られます。主に上場直前に行われることが多いです。、IPO時に株式は100株単位(1単元)で売買されることになっており、更に各証券取引所は1単元が50万円未満であることを推奨しているため、高くなった株価を株式分割して、売買しやすくするのが主な目的となります。

資本政策の失敗

資本政策をうまくおこなうことができなかった場合、以下のような失敗が生じる可能性があります。

目標の金額が調達できない

事前に事業計画の精度が低いと、実際の株価が予想と異なる場合があります。
そうなると、資金調達額やキャピタルゲインが当初の目標に達成しないため、新たな資本政策を作らないといけません。
場合によっては次項のようなことも起こります。

会社の経営権を第三者に奪われる

IPOの時だけでなく、公開後の売り出しについても株式の保有比率には注意しておく必要があります。第三者に1/3の持ち分比率を持たれると、拒否権を発動されて会社の経営に支障を来す場合があります。

IPO後に幹部社員が退職

ベンチャー企業の経営者は得てして独善的になりがちです。幹部社員はそれに対して不満を持っているような場合、株式公開後にキャピタルゲインを得てさっさと退職してしまったり、士気が下がってこれまでようなパフォーマンスを出してくれないこともよくある話です。経営者目線とよく言いますが、従業員はあくまで従業員です。会社の資源と考えて大事に扱いましょう。

資本政策の上での注意事項

資本政策において失敗しないために、いくつか注意事項があります。

事業計画の内容を現実的なものに

資金調達においては、基盤となる事業計画の精度が低いと目的が達成できなくなります。事業計画は、現場からの意見も取り入れ現実的な内容にしましょう。経営者の楽観的予測や直感をそのまま事業計画にするのは危険です。

非現実的な計画に基づいた資本政策は長期的には経営の悪化につながります。

資本政策は適宜見直す

業績予想、資金需要、経営者の意図等は一定せず、変化するものです。資本政策も定期的に見直し・変更することが必要となります。

資本政策による会計・税務上の問題を勘案

会計・税務上の問題を考慮しておきましょう。開示する財務諸表に与えるインパクトや、税務上のリスクを熟慮しておくことは重要です。
会社法、証券取引法、公開前規制、株式公開基準を十分に理解した上で立案を行いましょう。

法規制について確認

未上場企業が第三者割当増資や株主割当増資など増資を行う時であっても、勧誘人数が50名以上だったり、短期間に複数回増資を行う場合は金融商品取引法で定められた書類を提出しなければいけません。

また、税法基準をクリアしていない場合、贈与税や受贈益課税として多額の税を支払うことになる場合もあります。

資本政策は闇雲にすればいいというものではないのです。前述の通り、しっかりと計画をたてて行わなければなりません。

まとめ

株式会社の運営においては、株主の持株比率が絶対的な力をもつことになるので、株式公開の成功のために資本政策は極めて重要な意味を持ちます。
会社にとって望ましくない株主が多数の株式を握っている状態では、会社の運営は非常に厳しくなってしまいます。
資本政策は、実行後の修正が効きません。したがって、資本政策の立案は、十分な検討を行ってから実行する必要があります。

この記事を書いたライター

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