販管費には様々な勘定があります。人件費と呼ばれる科目の中に法定福利費というものがありますが、福利厚生費と見た目が似ていますよね。この使い分けはしっかりとしなければなりませんが、今さら聞けないという人もいるでしょう。
そこで今回は、法定福利費について現役公認会計士が解説していきます。
法定福利費とは、企業が負担する社会保険料や厚生年金費用、労働保険にかかる費用を言います。企業が負担するもののみ計上されますので、従業員が個人負担する分は含まれません。
ここに計上される社会保険料は、通常の給与にかかるのものみならず、賞与などにかかるものも含まれます。簡単に言えば、販管費に計上されている給与手当、役員報酬、賞与にかかる社会保険料のうち、会社負担分を指すと考えればよいです。
ただし、製造業であり、工場の従業員給与を製造原価に算入させている場合には、それに合わせて該当する法定福利費も製造原価に算入させる必要があります。個人別に把握できない場合は、製造原価と販管費の給与の比率に応じて法定福利費を按分する計算が行われます。
法定福利費と似たような名称の科目に、福利厚生費というものがあります。法定福利費は先ほどお話しした通り社会保険料が計上されますが、福利厚生費は従業員に対しての福利厚生目的で支払われた費用を言います。
福利厚生費の具体的な内容としては、従業員を招いての親睦会費用や、従業員に対する部活動の補助、福利厚生としてのトレーニングジムの補助等が該当します。ただし、本来は個人で負担しなければならない補助金については従業員の給与として認定されますので注意が必要です。
法定福利費と福利厚生費の共通点としては、従業員のために会社が支払った費用というところです。しかし、「法定」福利費とあるように法律上会社が負担しなければならないのが法定福利費で、福利厚生費は企業が独自で決めた福利厚生に対して支払われたものとなります。
法定福利費は従業員の社会保険費用のうち会社負担分であることをお話ししました。この社会保険は、支払われた給与や賞与について翌月末までに支払うものです。つまり、4月に入社した新入社員の社会保険料は5月に支払われるべきものですので、いつ社会保険料を徴収するかが問題となります。
もし4月に社会保険料を徴収した場合は約1か月預かっておいて5月に納付されることになります。この時、4月の給与がほとんどない新入社員となると、社会保険料を差し引かれるのは酷となります。よって、5月に徴収して5月にそのまま納付するほうがありがたいことも多いです。
また、この方式をとれば毎月末に従業員からの預かり金勘定が発生しないため、間違った預かり金がずっと滞留してしまうリスクがなくなります。
一方でこの方式で社会保険料を徴収してしまうと、退職者は退職月に2か月分の社会保険料を徴収されます。退職者がわざわざ問い合わせする可能性もありますし、徴収が漏れてしまった場合には再度退職者に該当金額を振り込んでもらわなければなりません。よって、会計処理や実務上のメリットデメリットを勘案してどちらの方法にするか決定する必要があります。
通常はどのような方式をとっていても法定福利費は12か月分の給与と賞与の分が計上されます。ちなみに、法定福利費は食品国保等特殊な社会保険でない限りは給与金額の概ね15%程度が会社負担分となります。
よって、給与と賞与の合計金額に15%を掛けた金額と法定福利費が近い数字になっていれば期中の仕訳に問題がないといえます。これが大きくかけ離れているようであれば、個人負担分も紛れ込んでしまっていたり、未払費用計上が漏れてしまっていたりする可能性があるので仕訳を再度見直す必要があります。
法定福利費は支払った分は全額損金算入できます。また、期末に確定している法定福利費についても支払っていなくとも未払費用計上していれば損金算入できます。
気を付けなければならないのが、期末に決算賞与を支払うことが決まっていて、個人別に支払額を通知しており、速やかに賞与を支払っていることを満たしており、決算賞与についても未払計上できた時です。
決算賞与が未払賞与として計上されているのだからその法定福利費についても未払費用計上できそうに見えますが、賞与が支払われるのはあくまでも翌期になりますので、法定福利費が確定債務となるのは賞与を支払った月となります。よって、期末日時点では社会保険料は確定債務となっていないため、未払法定福利費については損金算入ができません。
ただし、上場会社などでは該当部分も未払法定福利費を計上したうえで法人税の申告で自己否認をし、繰延税金資産を計上する方法がとられます。