平成26年の改正によって、従来の補助税理士の制度は新たに所属税理士としてスタートすることになりました。名称が変わっただけではなく、委嘱を受けて税理士業務等に従事できるようになったなど、従来の制度からの大きな変更点があります。そこで今回は、所属税理士の制度のポイントや注意点についてご紹介します。
従来の税理士制度では、税理士として業務を行う場合は開業税理士、社員税理士、補助税理士のいずれかとして登録する必要がありました。このうち補助税理士とは、経営者ではなく勤務として事務所等に所属している税理士のことです。いわゆる顧問契約である委嘱契約は、税理士などの士業においては憧れの契約の1つですが、従来の制度では補助税理士は委嘱契約を締結することはできませんでした。委嘱契約は開業している税理士や、税理士法人を運営する社員税理士のみが行えるものでした。この点、補助税理士が所属税理士の制度に変更されたことに伴って、改正税理士法施行規則第1条の第2項に基づいて、所属税理士は顧問契約を締結することができるようになりました。
これは従来の補助税理士の制度からの大きな変更点であり、所属税理士は自分が所属する事務所等で実務経験を積みつつ、同時に委嘱契約によって自分のキャリアアップや顧客開拓を図ることも可能です。所属税理士の制度は魅力的ですが、無条件で委嘱契約を締結できるわけでない点には注意が必要です。所属税理士が委嘱契約を結ぶためには、使用者である税理士または税理士法人から承諾を得ることが要件になっています。
所属税理士がクライアントと委嘱契約を締結する場合、自分が所属する事務所等の使用者である税理士や税理士法人から承諾を得なければなりません。
この承諾については重要なポイントが2つあります。承諾は書面で得なければならないこと、承諾は契約を締結する前に得なければならないこと、の2点です。使用者である税理士や税理士法人からの承諾は、口頭での許可ではなく必ず書面という形で得る必要があります。また、承諾については基本的に契約の終了までの間は有効になります。事業年度毎に更新を得る必要はありません。
委嘱契約を締結する場合はその都度、予め承諾を得ておく必要があります。承諾を得る前に自己の判断で契約をしてから、事後に承諾を得ることは認められないので注意しましょう。
次に、委嘱契約を締結する際には委嘱者と契約書を交わすことになりますが、契約書以外にも大きく2点、必要な書類があります。使用者による承諾書の写しと、説明書面です。
使用者である税理士または税理士法人による同意は書面で作成する必要があるので、その書面のコピーを契約書に添付します。
次に、説明書面には税理士法施行規則第1条の2第3項に基づいて以下の内容を記載することが必要です。
・勤務する税理士事務所や税理士法人の名称と所在地(勤務する事務所が従たる事務所である場合は、主たる事務所の所在地も必要)の記載
・所属税理士である旨の記載
・使用者である税理士または税理士法人の承諾がある旨の記載
・自らの責任において委嘱を受け、税理士業務等に従事する旨の記載
・所属税理士の署名押印
また、書面に記載しなければならない法定事項とは別に、委嘱者が制度の意義や内容を理解しやすいように、丁寧に説明することも大切です。
委嘱契約を無事に済ませたら、実際に税務等の業務を遂行することになりますが、申告書の提出の時期になると税務代理権限証書の名義が問題になります。この点、従来の補助税理士の制度では、実際の実務の主要部分を補助税理士が行っていたとしても、証書については使用者の名義で提出するのが通例でした。改正後は、所属税理士が直接受任した場合には所属税理士の名義で提出することになります。税務代理権限証書は、委嘱契約に基づいて作成されるものだからです。自分の名義で書類を直接提出することは大きな喜びを感じられる瞬間でもあります。
次に、税務代理権限証書だけでなく、直接受任した業務に関する申告書の名義についても問題になります。申告書については、税理法人の名称、所属税理士の肩書と名前、直接受任の旨、の3点を自署して押印します。委嘱契約の業務の報酬については、所属税理士として働いている事務所からの給料とは別に、委嘱を受けた所属税理士が自ら直接受け取ることができます。注意点として、委嘱契約を自らの名で締結できることは所属税理士制度の大きな魅力ではありますが、同時に大きな責任を伴うものでもあります。受任業務について委嘱者に損害を与えた場合、委嘱を受けた所属税理士の責任になるということです。
この点、所属税理士も税士職業賠償責任保険に加入することができ、直接受任した業務が保険給付の対象になることから、所属税理士が委嘱契約を締結する場合、万が一に備えて保険に加入しておくと万全です。