「弁護士は法律事務所で働くもの」という価値観も変化してきた現代。転職もあたりまえになり、弁護士のキャリアパスも多様化が進んでいます。転職をする場合、弁護士は中途採用市場でどのような評価を下され、どのような選択肢があるのでしょうか。
まず、弁護士の転職市場を概観してみましょう。
2017年12月の、弁護士が含まれる「専門的・技術的職業」の有効求人倍率は、2.41倍でした。これは全体の1.59倍に比べて高い数字となっています。司法試験合格者が年々減少していることから人手不足が進み、転職市場における弁護士の価値が高まっていると言えるでしょう。
また、弁護士の採用動向の重要な指標となるのが、5大事務所の新人弁護士の採用状況です。図1に5大事務所の新人弁護士採用人数の推移を示します。
5大事務所における新人弁護士の採用人数は6年連続で増加しています。このことからも弁護士の採用市場が好調であり、求職者に有利な状況となっているのが分かります。
次に、弁護士のキャリアの選択肢を見ていきましょう。
弁護士が転職をするとき、キャリアの選択肢は大きく分けて2つあります。1つは法律事務所で、もうひとつはインハウスローヤー、いわゆる企業内弁護士です。
弁護士の代表的な職場である法律事務所だけでなく、近年では企業内弁護士の採用も活発化。ベンチャー企業やIPO準備企業が法務体制を整えるために、企業内弁護士を採用するケースが増加しています。
この2つの選択肢の大まかな違いは、法律事務所が高度な専門知識を持ったスペシャリストタイプの弁護士を必要とするのに対し、企業ではジェネラルコーポレートに対応可能なジェネラリストタイプの弁護士が求められる点です。この観点を念頭に置きつつ、それぞれの選択肢の業務上の特徴や求められるスキル、市場価格=年収について整理していきます。
言わずと知れた5大事務所。国内外の大手企業がメインクライアントで、国際的なM&A案件やファイナンス案件といった専門性の高い案件に携わることが業務上の特徴です。転職時に求められるスキルとしては高度な専門知識に加え、ディベートや情報共有のためのコミュニケーション能力も必要。ハイレベルなスキルが求められるため、収入は入所3年目で1,300〜1,500万円と高水準です。
業務は5大事務所と同じく大手企業のM&Aやファイナンス案件がメインですが、比較的外資系企業の割合が高いと言われています。そのためスキルとしては高度な専門知識の他に、高い英語力が高付加価値となるでしょう。入所3年目の収入は1,200〜1,700万円が相場とされており、5大事務所に匹敵する市場価値があります。
クライアントの規模は大手から中小まで幅広いですが、中小企業の割合は5大事務所より高くなっています。取り扱う業務は多岐にわたり、契約書の審査・作成やコンプライアンス関連業務などのジェネラルコーポレートや、各種訴訟対応などの企業法務案件に従事します。そのため高度な専門知識というよりは、幅広い企業法務系の知識が転職時に求められる場合が多いです。入所3年目の収入の相場は、事務所にもよりますが600〜1,000万円程度となっています。
メインクライアントは個人となり、離婚・相続案件や不動産案件といった幅広い一般民事案件に従事することになります。そのためM&Aやファイナンス、企業法務の知識は高付加価値とはならず、業務上でこれらの経験を積むことはできません。収入の相場は入所3年目で400〜700万円ほどとなっています。
企業で働くというキャリアを選ぶ弁護士はここ数年で増加しています。図2に企業内弁護士数の推移を示しました。
企業内弁護士が従事する業務は企業により異なりますが、国内大手企業の場合は契約法務、コンプライアンス対応などのジェネラルコーポレート業務が一般的です。ただ、外資系企業ではM&Aやファイナンスなどの専門特化した領域に従事するインハウスローヤーを採用する場合もあります。
そのため、転職ではジェネラルコーポレートの知識が高付加価値となります。それに加えて基本的な仕事に対する姿勢や、組織に適応できる協調性といったスキルも重視されます。企業は組織人としての弁護士を求めていると言えるでしょう。また、収入は東証1部上場メーカーの場合、入社3年目で500〜700万円が一般的です。5大事務所に比べ低水準ですが、育児休暇などの福利厚生が整っている面もあり、女性弁護士のキャリアとしては一考の余地があります。
いかがでしたでしょうか。弁護士が転職する場合のキャリアは法律事務所のみならず、企業内弁護士という選択肢もあります。固定観念にとらわれることなく、じっくりと比較、検討の上で決断すれば、自身も納得できる道に進めるでしょう。