近年急増している企業内弁護士について、年収や福利厚生の待遇面から、キャリアにおけるメリット・デメリットについてまとめました。企業内弁護士を選択肢として考えている方はもちろん、法務担当を採用する企業の人事担当者・法務部の方も読んでみてください。
近年、企業内弁護士のキャリアを選ぶ方が増加しています。2008年は266人だった企業内弁護士は、2017年には2,161人へと急増。
【図1】の画像の通りこの10年で8倍以上に膨れ上がりました。
企業内弁護士が増加した理由のひとつには、企業側の採用ニーズが高まっていることが挙げられます。グローバル化の進行により、海外企業のM&Aや現地法人の設立などの案件が増加。社内では労使間トラブルも増え、企業のコンプライアンス経営がより一層求められるようになりました。こうした環境の変化により、法務部門の要員として専門知識を備えた弁護士を採用したいという、企業側のニーズが大きくなっているのです。
企業内弁護士のキャリアを選択した場合、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。ただ、一口に「メリット・デメリット」と言っても、これは自身の目指すキャリアや生き方によって変わってくるものです。そこでここでは、一般の法律事務所で働く場合と企業内弁護士として働く場合を、「業務内容」「年収」「ワークスタイル」の3つの観点で比較します。ここから、自身のメリット・デメリットを判断していただければと思います。
まず業務内容は、法律事務所と企業内弁護士でどのような違いがあるのでしょうか。
これは、法律事務所では高度な専門知識を必要とされる業務がメインであるのに対し、企業では契約法務やコンプライアンス対応といったジェネラルコーポレート業務が中心であることです。
法律事務所では国際的なM&A案件やファイナンス案件といった専門的な案件に携わることが多くなります。このような業務は企業内でコンスタントに発生する案件ではないので、必要が生じたときに法律事務所にアウトソーシングして処理されるのが一般的です。そのため、こうした専門性の高い業務のために弁護士が採用される場合は少ないでしょう。
一方、企業ではジェネラルコーポレートが中心とはいえ、求められる業務は多様化。企画や商品開発など、法務部以外の部署に配属されるケースも増えてきています。現場の専門領域に関わることで、法的なチェックをよりスムーズに働かせることが企業側の目的です。
このほかに、仕事に取り組むスタンスも大きく異なるでしょう。法律事務所では第三者としてプロジェクトに関わるのに対し、企業では当事者として関わります。自らの企業の看板を背負って業務に取り組む姿勢が、企業内弁護士には求められるのです。
年収面はどうでしょうか。大手法律事務所の場合、初任給が1,000万円を超えるケースも珍しくありません。しかし企業で働く場合は、一部の企業を除き大手法律事務所ほどの高所得は期待できないでしょう。
企業内弁護士の収入は、500万〜700万円が平均的です。総合商社や大手金融機関、外資系企業では1,000万円を超える金額を提示するケースもありますが、現時点でそのような募集は一般的ではありません。
しかし、こうした年収の差は労働時間の差にも現れてきます。法律事務所で働く弁護士の間でよく言われている「9時〜5時」というワード。これは「朝9時〜朝5時」までの労働時間を意味しています。法律事務所での高収入は、こうした過酷な労働が前提であることも否定できないでしょう。その点、企業で働く場合は通常の「朝9時〜夕方5時」勤務が基本となります。
また、女性の弁護士が企業内弁護士を希望するケースが多いですが、これは出産や育児といったライフイベントが影響していると考えられます。法律事務所では休職中に上客が他の弁護士に取られてしまう懸念から、長く育児に専念しづらい状況があるのです。
一般企業であれば育児休暇がストレスなく取りやすい、とは必ずしも断言できないですが、少なくとも法律事務所より状況は良いと言えるでしょう。ワークライフバランスを重視する方にとって、企業内弁護士という選択肢はメリットが多いかもしれません。
いかがでしたでしょうか。企業内弁護士のキャリアを選択した場合について、業務内容や収入、ワークスタイルの面で比較を行いました。自身の目指す方向性をイメージした上で、今後のキャリアプランの検討を進めていただければと思います。