有限会社の役員に関する法律上の扱いを解説します。役員の選任や解任、報酬の決定については、厳格な手続きが必要となりますので注意しておきましょう。なお、2006年の会社法施行以降は、有限会社には株式会社とほぼ同じ内容のルールが適用されていますが、扱いが微妙に異なる点もあることにも注意してください。
有限会社の役員については、以下のような法律のルールを理解しておくことが大切です。
以下では、上のそれぞれの内容について順番に見ていきましょう。
一般的に「役員」といったときには「会社の経営に関わる仕事をしている人」という意味合いがありますが、法律上の役員の範囲は少し異なります。会社の役員については会社法という法律がルールを定めています。会社法によると、役員とは取締役・会計参与・監査役の3つの役割のことを言います。「執行役員」という役職を設けている企業も多いですが、この執行役員は「法律上の役員」には含まれないことに注意しておきましょう。
なぜ法律上の役員の意味を理解する必要があるのかというと、これらに該当する人の選任・解任や、報酬額の決定を行う際には法律上のルールに従った手続きを行う必要があるからです。
法律上の役員に異動(選任や解任、辞任など)が生じた場合には、以下のような手続きが必要となります。
役員の選任や解任を行う場合には、株主総会決議を行い、議事録を作成します。役員の選任は、従業員からの昇格といった形で行われるケースも多いと思われますが、従業員と役員とでは法律上の地位が全く異なることに注意が必要です。従業員は会社との関係では雇用契約を結んでいますが、役員は会社と委任契約を結んでいることになるからです。
委任契約を結んでいる役員は、従業員とは違って「労働者」としては扱われませんから、労働法その他の法律による保護が及ばない部分があります。そのため、従業員から役員に昇進する場合には、いったん会社との雇用契約を終了し、新たに役員として会社と委任契約を結ぶことになります。
役員の選任に株主総会決議(と議事録の作成)が必要である背景には、こうした理由があるのです。一方で、すでに役員となっている人が辞任(自主的な退任)する場合には、株主総会決議や議事録の作成は必要ありません。
委任契約は、当事者の一方の解約の意思表示によって直ちに効力が生じるためです。なお、辞任の場合であっても次で見る定款変更と登記は必要ですので注意しておきましょう。
会社役員の氏名や住所は、その会社の定款に記載して登記し、第三者に対して公示する必要があります。そのため、株主総会決議によって役員の異動が決定したら、2週間以内に定款を変更し、法務局において登記手続きを完了しなくてはなりません。役員変更の登記は、選任や解任については株主総会決議の議事録を添付して行います。
なお、辞任の場合は辞任届等を添付するのが原則ですが、株主総会の場で辞任の意思表示がなされ、その内容が議事録に記載されているのであれば議事録の添付で足ります。その他にも、死亡によって役員に異動が生じた場合には死亡届が、自己破産によって異動が生じた場合には裁判所が発行する破産手続開始決定書の添付が必要です。任期満了による異動の場合について添付書類は不要ですが、有限会社の役員には任期がないことに注意しておきましょう。
そのため、有限会社において役員が退任するのは、辞任か株主総会決議による解任のみということになります。
役員報酬の金額は「会社の業績に応じてその都度増額する(減額する)」といったようなことができません。具体的には、事業年度開始から3ヶ月が経過するまでに株主総会を開催し、変更の決議をした上で議事録を作成するといった手続きが必要になります。
例えば、3月末日が決算日である会社であれば、以下のようなスケジュールで役員報酬の金額を決定するのが一般的です。
・4月:事業年度の開始
・5月:前事業年度の決算を行うとともに、法人税の申告を行います
・6月:株主総会を開催し、役員報酬の金額を決議して議事録を作成します
(※金額を変更した場合には、日本年金機構に対して報酬月額の変更届を提出します)
もし、株主総会の決議無しに役員報酬の支給額を変更したような場合には、その支給した金額については法人税計算上の損金に算入することができなくなってしまいます。当然ながら、役員報酬の金額だけ所得が増えますから、その分だけ法人税の負担額が大きくなってしまいます。
役員報酬の金額は、会社の利益の金額に大きな影響を与えますから、法人税負担額の恣意的な操作ができないようにするために、こうした特別な手続きが必要な仕組みになっているのです。
上で見たように、役員報酬の金額は事業年度開始の日から3ヶ月以内でないと変更できないのが原則です。もっとも、これは「法人税計算上の損金に算入できる役員報酬の金額の変更」という意味ですから、そもそも法人税計算上の損金に計上しないのであれば、事業年度の途中であっても役員報酬の金額を変更することは可能です。
この場合には、事業年度の途中であっても臨時株主総会を開催し、役員報酬変更の決議をして議事録を作成しておけば問題ありません。社会保険料の金額も変更する必要がありますから、日本年金機構に対する報酬月額変更届も忘れずに提出しましょう。
また、特別の場合には事業年度途中の役員報酬減額であっても、変更後の役員報酬計上額を法人税計算上の損金に算入できることがあります。国税庁の説明によると、「経営状況の悪化に伴って役員給与の金額を減額せざるを得ない事情」がある場合には、減額後の役員報酬を損金算入することができるとしています。一方で、事業年度途中の役員報酬の「増額」については、基本的には損金算入が認められることはありません。
(ほとんどのケースで役員報酬の増額は、節税目的の利益操作とみなされてしまいます)
役員報酬の損金算入が否認されると、法人税の負担額が大幅に増加してしまう可能性がありますから、法律のルールに則って事業年度開始から3ヶ月以内の株主総会決議を経て行うようにしましょう。
今回は、有限会社の役員に関する法律上のルールについて解説しました。役員の法律上の扱いは一般的な従業員の扱いとは大きく異なりますから、選任や解任にあたっては慎重な手続きが必要であることを理解しておきましょう。